タジキスタン:「困ったときは助け合う」学校づくりへ
AAR Japan[難民を助ける会]は現在、タジキスタンの首都ドゥシャンベ市から車で40分ほどの場所に位置するヒッサール市において、障がいの有無、人種や言語の違いなどにかかわらず、すべての子どもたちがそれぞれの能力やニーズに合わせて受けられる「インクルーシブ教育」の推進を行っています。AARは普通学校の校舎のバリアフリー化をはじめ、教職員への研修、学校や地域住民にインクルーシブ教育についての理解を深めてもらうための活動などを行っています。
2018年3月15日、本事業の拠点校である2番学校で第1回目の保護者会を開催しました。障がい児を育てるうえでのさまざまな悩みを保護者から聞いたり、また障がいがない子どもの親との交流を深め、保護者と学校との連携を強化することが目的です。当日は、障がい児の保護者を含め90名が参加してくれました。タジキスタン駐在員の山根利江が報告します。
「差別しないで」保護者の思い
保護者会では、まずAARが2番学校に設置した学習支援室での活動の様子を説明した後、協力団体や学習支援室の担当教員を紹介。その後、障がいの種類や、インクルーシブ教育を政府が推進するようになった背景などを説明し、質疑応答を行いました。保護者からはたくさんの意見が出ました。障がいのある子どもを持つある保護者は、「子どもに障がいがあり、周囲からひどいことを言われて悲しい。どうして差別されるのか。うちの子もほかの子と同じように接してもらいたい」と切実に訴えました。これに対して校長先生と協力団体の代表は、「教育を受ける権利はみんな同じ。学校で障がい児を分け隔てなく温かく受け入れる体制を整えていきたい」と答えました。
ある保護者は、「私の子どもは専門家から障がい児と診断はされていないが、勉強になかなかついていけていないため、学習支援室で学ぶことはできるか」と質問しました。校長は「学習支援室はみんなのための場所。支援が必要な子どもや困っている子どもがいれば、その子の必要性に応じて受け入れていきたい」と答え、保護者はほっとした様子でした。
障がいのある子どもを持つ保護者の一人からは、「今まで自分は子どもに一生教育を受けさせることができないと思っていたが、希望が生まれた。大学まで通わせたいのだが、それは可能だろうか」といった、将来を見据えた質問もありました。保護者の方々が障がいのある子どもの未来に前向きになってくれていることを聞いて、私はとてもうれしく思いました。
「自分たちの手で社会を変えよう」
ある保護者は「今日私たちがここに集まった意味を考えたい。ここで聞き感じたことを、家族、近所の人たちに伝えていくことが何より大切。誰かが困っていたら助け合う。それを実践し、私たちの手で社会を良くしていこう」と力強く参加者に呼びかけてくれました。
校長先生も、「保護者の皆さんには障がい児も一緒に学べるようになったこの機会を、最大限に活用してほしい。学校としてもできる限り障がい児を受け入れたいのでぜひ相談に来てほしい」と話し、保護者からは大きな共感の声が上がりました。
AARもインクルーシブ教育や協力団体を紹介するパンフレットを保護者に配付するとともに「今日の情報をほかの保護者にも伝えてほしい。また、気になることがあれば一人で悩まずに、パンフレットの連絡先に連絡してほしい」と伝えました。障がいのある子どもを持つ保護者はどうしても孤立してしまいがちです。今日の保護者会にも参加したくても、さまざまな理由で参加できなかった方もいるかもしれません。
保護者会の後には、保護者の皆さんに学習支援室を見ていただきました。その後、解散となりましたが、保護者同士で子どもの様子を話し合ったり声を掛け合う姿が多く見られたのが印象的でした。
少しずつ、でも着実に変化が
なお、本事業のもう一つの拠点校である5番学校でも2018年2月に保護者会を開催したところ、AARが配付したパンフレットに記載していた協力団体の連絡先に保護者から連絡があり、障がい児3名が今後就学を開始する方向になりそうとのことでした。少しづつではありますが、障がい児を受け入れようという学校の意識も、子どもたちに教育を受けさせようという保護者の意識も高まりつつあるように感じました。
AARでは今後も学校や協力団体と連携して、保護者会を開催していきます。そして、一人でも多くの子どもたちが教育を受けられるように努めていきます。
この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
タジキスタン事務所 山根 利江
2016年11月よりタジキスタン事務所駐在。大学卒業後、英国の大学院で保健システム管理と政策を学んだ後、日本で看護師として勤務し、2013年5月よりAARへ。静岡県出身