パキスタン:初めての図工で描いた絵は?
AAR Japan[難民を助ける会]は、パキスタン北西部のハイバル・パフトゥンハー州の小学校で2011年からトイレや手洗い場などを整備しています。2018年2月、児童が絵を描いたタイルをAARが設置した衛生施設に飾りつける初めての取り組みをしました。トイレや手洗い場はどのようなデザインになったのでしょうか。パキスタン・ハリプール事務所のシャジハ・カーンが報告します。
どんな色にしようかな?
「ちょっと見て!たくさん色を使ったら、こんなにうまくできたよ!!」
2018年2月8日、ハイバル・パフトゥンハー州ハリプール郡のハタール小学校の校庭で、子どもたちが声を弾ませています。トイレや手洗い場に貼るためのタイルに12色のクレヨンを使って絵を描いているのです。3~5年生の児童約25名が参加し、AARスタッフから約30センチ四方のタイルを一人一枚受け取ると、4、5人のグループに分かれ「健康」や「衛生」、「清潔」をテーマに思い思いの絵を描きました。
AARでは、これまで多くの小学校で衛生施設の建設や修理をしてきましたが、その工事はAARのスタッフや建設会社が行い、教師や児童は携わっていませんでした。「もっと教師や児童が活動に関わることはできないだろうか」と考えた結果、衛生施設を装飾してもらうことにしたのです。児童や教師に、自分たちでデザインした施設に愛着を持ってもらい、施設が長期にわたって大切に使われるようにすることも狙いです。何より、絵を描くことは子どもたちにとって楽しい!
「どっちの色を使ったらいいかなあ...」
「私は緑色が好きだから、木を描こうっと」
「私は安全な水を作る手順を描くわ」
「私は歯磨きの絵。だって、歯磨きは気持ちがいいから」
「汚れた手を描くには、どっちの色がいいかな?黄色かな、茶色かな??」
児童は4人ずつ輪になり、こうした会話をしながら1時間半かけてさまざまな絵を描きました。
清潔は信仰なり
実は、この活動に備えて、児童たちはあらかじめ紙に絵を描いて練習していたため、どの作品もとても上手でした。私が好きな絵は、手洗いの8ステップ(1. 手を水で濡らし、2. 石鹸をつけ、3. 手の甲、4. 手のひら、5. 指、6. 爪、7. 手首と洗い、8. 石鹸を落とす)を描いた絵です。石鹸の泡がふわふわに描かれていて、手洗いが病気を予防するということが強調されています。ほかにも、爪切りや髪をとかすこと、ゴミはゴミ箱に捨てることなど、さまざまな絵がありました。「清潔は信仰なり(Cleanliness is half faith)」というメッセージもありました。これは「自身の身体や考え、身の周りを綺麗に保たなければならない」というイスラムの教えです。
絵画から知る 事業の成果
嬉しかったのは、私たちがこの事業の研修で保護者の方々に話したことがきちんと児童にも伝わっていることを確認できた点です。昨年(2017年)の夏、この学校の教師と保護者に対して、私たちは衛生教育の大切さやその方法についての研修を行いました。今回の絵には、その内容のすべてがきちん含まれていたのです!
パキスタンの公立小学校では通常、図画工作の授業はありません。そのため、学校で絵を描く機会は多くの子どもたちにとって、今回が初めてでした。3年生のザイナブちゃんは、「自分の思っていることを絵にするのは楽しいわ。私は学校や家の周りを美しくするために木を植えたいの。だからそのことを描いたの」とニッコリ。シャヒーン校長は「とっても児童が活き活きとしていて驚きました。自分たちの健康や清潔の大切さについて確認するいい機会になりました」と喜こんでくださいました。
子どもたちがとても丁寧に絵を描いている姿を目にして、整備した衛生施設がこの先も大切に使われるだろうと感じ、嬉しくなりました。そして、私自身もタイルにメッセージを描いてみました。「健康と清潔は神さまからの賜りもの(Hygine and Helth are biggist blessing of God)」。「自分が健康で清潔でいる限り、すべてのことはポジティブに捉えられる」という意味です。
この活動は、皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
パキスタン・ハリプール事務所 シャジハ・カーン(写真右)
子どもに関わる仕事がしたいと、2017年にAARに入職。ハリプール事務所のスタッフとともに、学校での衛生啓発事業に従事している。冒険もののテレビドキュメンタリー鑑賞と登山が趣味。