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シリア:食糧配付は住民の命綱

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シリアの紛争に関する報道が、日本ではすっかり影をひそめました。しかし、依然として空爆や砲撃、爆発物による被害は続いており、今年に入ってからもわずか4ヵ月の間に、新たに92万人が故郷を追われています。これはシリア危機始まって以来、最多の人数です。紛争の収束はおろか、数日先の情勢さえ予測がつきません。
AARは2014年から、現地協力団体を通じシリア国内で食糧配付を続けています。これまでのべ35万人以上に食糧を届けました。
「1日の食事の回数を減らしたことがある」「親戚や友人から食糧を譲り受けた」。シリア危機の勃発から7年以上経ちますが、シリア国内では今もこのような声が聞かれます。活動から見えたシリア国内の様子、そして避難生活を送る人々の状況を報告します。

不安定な情勢で避難を繰り返す

シリア国内の避難民キャンプの様子

シリアの国内避難民のキャンプの一つ。空爆や砲撃を逃れるために、別の地域に移り、3ヵ月以上避難状態にある長期国内避難民は約610万人に上ります。

「先行きが不透明なので、今は将来について何も計画を立てることができません・・・」。シリア国内で食糧配付に携わるスタッフが、住民から頻繁に聞く言葉です。
妻と子ども5人で国内避難民のキャンプで暮らすラメズさん(仮名・53歳、下写真)にスタッフが心境を聞くと、同じ答えが返って来ました。
ラメズさんの故郷は、郊外に位置し、アーモンドやイチジク、ブルーベリーの農地が広がる所。そこで農家として、リンゴやオリーブの木を育てて生計を立てていました。
その生活はシリア危機で一変しました。最初の避難は2012年。地元で紛争が激化し、同じ県にある別の地域に避難しました。
戦況が落ち着き、故郷に戻っていた2013年6月、自宅付近に砲弾が着弾。家族は家の中にいて無事でしたが、屋外にいたラメズさんは怪我を負って身体に麻痺が残り、車いす生活を余儀なくされました。
その後も故郷の戦況は目まぐるしく変わり、その度に家族とともに数キロから25キロほど離れた地域に避難しては故郷に戻るという状態が続いています。現在の避難先は4ヵ所目です。
治安情勢の悪化などにより、一度に数百人、数千人が避難を余儀なくされたり、シリア危機が始まって以来、10回以上も避難を繰り返している人もいるということです。

子どもの稼ぎと支援団体の援助で生活

食糧配付の様子

AARから食料を受け取るラメズさん(右)。混とんとした状況が続き、物価の高騰の激しいシリア国内で、食糧配付はまさに命綱です。

ラメズさんの最年少の子どもは9歳。次男(16歳)は故郷のことを覚えていますが、幼い子どもは故郷で暮らしていた時の記憶がありません。避難生活が始まってからは、5年以上にわたり学校に通うことができず、現在の避難先に来てようやくキャンプ内の学校で勉強を再開できたと言います。
シリアを出て外国で働く長男(18歳)からの仕送りと、一緒に暮らす三男(15歳)がよそで仕入れて来た野菜をキャンプ内で売って得たお金が、収入源です。腎不全を患っているラメズさんは10キロ離れた病院に定期的に治療に行く必要もあり、働くことができません。誰かに車いすを押してもらわないと自由に動くことすらままなりません。
AARは現地団体との協力のもと、ラメズさんの家族に3ヵ月にわたり食糧を届けました。「(食糧を受け取った時には)息子に服を買うことができました。服は高いので数ヵ月に一度しか買うことができません」とラメズさんは言います。インフレも進み、野菜やサンドイッチなど現地の通貨で内戦前と比べて10倍以上の値段になるものもあり、物価の高騰が市民の家計を圧迫しています。収入の多くを食糧に割かねばならず、新しい衣類を子どもたちに買ってあげる余裕はなかなかありません。
ラメズさんは、「いつか誰からも支援を受けることなく自立した生活を送りたいですが、支援がなければ私たちの置かれた状況は悪くなるばかりです」と支援の継続を望んでいます。

シリア国民の7割が「極度の貧困状態」

ラメズさんのケースは決して例外ではありません。
AARが食糧を配付した世帯に聞き取りをしたところ、世帯主に精神もしくは身体の障がいがあるという世帯は2割以上でした。紛争に巻き込まれ、怪我を負い、障がいが残ってしまう人は少なくありません。
国連の発表によると、危機が始まる前、年間の収入の半分以上を食べ物に充てている人は25%でしたが、2017年は9割にまで増えていると推定されています(国連人道問題調整事務所、2017年11月発表)。
また、シリア国内の失業率は5割を超え、収入がなく、支援に依存している人も少なくありません。1日1.9ドル未満という極度の貧困状態にある人は、シリア国内で内戦前の2倍に当たる人口の69%とも言われています。5割の世帯が日々の食事の回数を減らし、3割以上の世帯が子どもに食べ物を与えるために大人の食事回数を減らしているという報告もあります。AARの聞き取りでも、同様の声が寄せられました。


混沌とした状況下で暮らす人々にとって、食糧配付は命綱と言っても過言ではありません。AARでは、調理ができる環境に住んでいる人にはコメや油、小麦粉などを詰めた食糧パックを継続的に配り、避難してきた直後の人にはすぐに食べられる豆の缶詰など栄養価の高いものを詰めた食糧パックを配っています。
身を寄せている避難所やテントがたとえ劣悪であっても、もしも移動した先で食糧支援を受けられなかったら、と不安に思い、留まることを選択する人たちさえいるといいます。それほどに食糧は今でも非常に強く必要とされています。空爆や砲撃、武装勢力同士の衝突を受けて、食糧の配付を一時中断する日も少なくありませんが、シリア国内の人々の生活状況を少しでも改善するため、AARはこれからも配付を続けてまいります。どうか引き続きのご支援をお願いいたします。

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