ミャンマー:障がいを乗り越え、自立した生活を送れるように
社会参加の機会を得られず、社会から孤立する傾向にある障がいのある方々。こうした方々の自立を後押しするミャンマーの職業訓練校について、駐在員の大城洋作が報告します。
2014 年に実施された国勢調査によると、ミャンマーにおける障がい者の数は、約231 万人(人口の4.6%)に上ります。障がい者の失業率は85% 以上との調査報告もあり、厳しい生活を強いられています。こうした状況の中、AAR Japan[難民を助ける会] は2000 年からヤンゴンで障がい者のための職業訓練校を運営し、障がい者の就労を支援しています。
18 年間で1,700 名が卒業
職業訓練校では、理容美容、洋裁、コンピューターの3 コース(各3 ヵ月半)を設けています。訓練生の多くは障がいなどが理由で小・中学校を中退しており、日中は家事手伝いのみで多くの時間を家で過ごしています。訓練校では障がい者を全国から無償で受け入れており、これまでの卒業生は約1,700 名に上ります。長年にわたって改善を重ねてきた技術指導が実を結び、2017 年に卒業した146 名の就労率は92%にもなりました。高い就労率の背景には、技術指導に加えて、企業を対象とした障がい者の就労斡旋があげられます。AAR では、就労支援の専従職員を配置。企業を訪問し、障がい者への理解を促すとともに、企業と訓練生との橋渡し役として個人の能力を考慮した仕事のマッチングなどをしています。
「できないところではなく、できるところに目を向けて」
こうした活動を通して、障がい者の就労に対する理解を示してくださった企業の一つが、ミャンマーの大手銀行、ミャンマーエーペックス銀行です。事務所のバリアフリー化など、障がい者が働きやすいような配慮をされている同行では現在、訓練校の卒業生12 名がコールセンターで働いています。
7 月9 日、コールセンターを訪問しました。マネージャーのウィン・トゥー・モン(下写真、中央)さんは、「当行では2014 年からコールセンターで障がい者雇用を開始し、今では22 名の障がい者がコールセンターをはじめ、総務部門、IT 部門で働いています。障がい者に対する偏見はいまだに根強いものがありますが、私たちは彼らのできないところではなく、できるところに目を向ける必要があります。コールセンターで働く職員のほとんどがAAR の訓練校の卒業生です。彼らは勤勉で、そして辛抱強い人が多いです。障がいのない職員も、彼らの姿から多くの刺激をもらっています。今後、ほかの企業でも障がい者の雇用を進められるよう、自分たちの取り組みを対外的に発表していきたいと思います」と笑顔で話してくれました。
コールセンターに勤務する卒業生、オゥンマー・シュエさん(下写真、右)にも話を伺いました。「私は8 歳のときに木から落ちて脊椎を損傷したため、走ったり長距離を歩いたりすることが困難になりました。2013 年に訓練校でコンピューターの技術を習得し、2015 年からこの銀行で働いています。コールセンターの仕事はお客さまの苦情対応など、大変なことも多いですが、職員のほとんどが訓練校の卒業生なので、家族のような環境で仕事をすることができています。今は稼いだお金で実家に仕送りができるようになったほか、終業後には大好きな地理学を勉強するため、学校に通っています。これからもここで経験を積んで、いずれはウィン・トゥー・モンさんのように皆に慕われるマネージャーになりたいです」と照れながら話してくれました。
障がい者雇用を、さらに進めるために
ミャンマーでは障がい者を雇用する企業はまだまだ多くありません。より多くの企業に障がい者への理解を深めてもらい、雇用に繋げられるよう、AAR では現在、障がい者を雇用する際の手引きを作成しています。また、今年中に政府・NGO・企業を対象とした、障がい者の雇用促進に関するシンポジウムを開催する予定です。
オゥンマー・シュエさんのように、障がいを乗り越えて自立した生活を送れる人が一人でも増えるよう、AARはこれからも障がい者を支援していきます。
AAR のミャンマー事務所はフェイスブックページを開設し、訓練校での取り組みや授業の様子などを紹介しています。 |
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ミャンマー事務所 大城 洋作
民間企業で勤務後、世界一周の旅へ。帰国後2014年4月にAARに入職し、2015年2月より約3年間、ラオス駐在員として障がい者支援に携わる。2018年4月より現職。「新たな人生を切り拓こうと励む障がい者の方々の姿に、元気をもらっています」。沖縄県出身