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途上国の障がい児支援から考える社会の在り方

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12/4(火)14時~ カンボジア障がい者支援活動報告会ー心のバリアを取り除くー

AARが企画した自主シンポジウムでは、途上国の障がい児教育に関心のある方々にお集まりいただきました

自主シンポジウムの会場にて。右奥は司会を務めた滝坂信一氏(2018年9月22日)

9月22日~24日の3日間、日本特殊教育学会の年次大会が大阪国際会議場(大阪市北区)で開催されました。同学会は、特殊教育、中でも障がい児教育の科学的研究の進歩発展を図ることを目的とした、日本で最大規模の学会です。第56回目を迎える今年の大会では、3日間で約140件の自主シンポジウム、約40件の口頭発表、約600件のポスター発表などが行われ、当日は多くの参加者でにぎわいました。この大会でAAR Japan[難民を助ける会]は、独立行政法人国際協力機構(JICA)で青年海外協力隊事務局技術顧問を務めておられる滝坂信一氏とともに、「開発途上国におけるインクルーシブな教育開発の提起するもの」と題した1時間半の自主シンポジウムを大会1日目に開催しました。

海外の現場から見える日本の教育へのヒント

AARはタジキスタンとカンボジアで、障がいの有無に関わらず、子どもたちが各々の特性に応じた必要な配慮を受けながら、ともに学ぶ機会を得られることを目指す「インクルーシブ教育」を推進する活動を実施しています。今回の自主シンポジウムは、活動国の現状や、現地の人々と活動する中で直面する課題を参加者と共有することで、日本国内における障がい児教育の考え方や、インクルーシブな教育制度の進め方に関する議論につなげていくことを目的として開催しました。

当日は滝坂氏の進行の下、2016年よりタジキスタンに駐在するAARの山根利江と、カンボジアに5年間駐在していたAAR東京事務局の園田知子が、各国でインクルーシブ教育推進事業を始めたきっかけ、障がい児の教育に関する各国政府の方針や取り組み、教員養成制度、障がい児保護者の理解や認識、活動の進展や阻害要因などについて発表しました。

カンボジアでAARは障がいのある子どもへの個別支援と同時に、学校のバリアフリー化、教師への研修、地域での啓発活動を行っています

AARの園田知子が、カンボジアでAARが行う障がい児支援の取り組みについて説明しました

タジキスタンでもカンボジア同様、現地のNGOや学校とともに、障がい児たちが学びやすい環境づくりを行っています

タジキスタンでのAARの取り組みについて報告する駐在員の山根利江

荒氏はAARのカンボジアやタジキスタンでの活動が日本の教育へのヒントになると仰ってくださいました

国内外のインクルーシブ教育の現場において豊富な経験をお持ちの荒柾文氏

続いて、指定討論者として登壇された、特定非営利活動法人「ユニバーサルデザイン・結(ゆい)」理事の荒柾文氏、大和大学教育学部教育学科教授の落合俊郎氏の2名には、それぞれ豊富な現場経験に基づいた話題をご提供いただきました。
荒氏は、福島県の教育委員会で障がい児の教育の仕組みを構築され、海外でも、アジア各国で障がい者支援に携わってこられました。AARが発表したカンボジアとタジキスタンの事例は、ほかの開発途上国との共通点も多いとされた上で、マレーシアの就学制度の事例を紹介されました。マレーシアでは障がいのある子どもは特別支援学級で読み書きを中心に基礎的な勉強を行いますが、その学級の目標は通常学級の子どもたちとともに学習することです。通常学級で学ぶことが難しくなった場合はまた特別支援学級に戻ることもできます。一方、日本では障がいが軽度の子は通常学級、重度の子は特別支援学級に通うことになっています。荒氏は、日本でもマレーシアのように特別支援学級または通常学級と固定化しない柔軟な体制の構築を提案されると同時に、最初からインクルーシブありきではなく、そこに達するための具体的な方法に関する議論の必要性を強調されました。

教育から共生へ

教育と福祉を交えた「共生」の視点が重要と話す落合氏

国際的なインクルーシブ教育制度の開発に携わり、世界各国で活動されている落合俊郎氏

また、国際的なインクルーシブ教育制度の開発に携わり、世界各国で活動されている落合氏は、インクルーシブ教育の国際化についての流れを3つの段階に分けて説明されました。第一段階は1994年に国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が声明を出した後、UNESCOを中心にインクルーシブ教育の普及が世界的に広がった時期。第二段階は、その反動として2005年にイギリスの哲学者であるメアリー・ウォーノック氏が「インクルーシブ教育は間違いだった」と発言し、先進国の熱意が下がっていった時期。そして第三段階である現在は、日本を筆頭に世界各国が今後少子高齢化していく中で、福祉の力も借りながら、地域で皆が助け合い支え合う、共生社会の構築という視点でインクルーシブ教育を展開する必要があると述べられました。そのほか、司会の滝坂氏からも、そもそもインクルーシブな学校や教育は必要なのか、なぜ必要なのかという問いが投げかけられ、参加者間で意見を交わしました。

最後に、ベトナムやモンゴルなど、他国で障がい児の教育に関わった経験のある、あるいは現在関わっている参加者からは、現地における自身の活動の中で、障がい児が地域で学ぶことの大切さを感じたという話が共有され、タジキスタンやカンボジアの事例の中には、自身が活動する中で抱えている課題とも類似した報告もあり共感できたという声も聞かれました。

開発途上国での経験を通して日本の教育、ひいては社会の在り方を考えるという新たな試みの下に実施した自主シンポジウムは、異なる経験を持つ参加者がそれぞれの立場から意見や考えを共有し、有意義な時間となりました。この自主シンポジウムは、今回を第1回目とし、来年に第2回を開催したいと考えています。AARは引き続き、タジキスタンおよびカンボジアで、地域に根差したインクルーシブな教育体制の確立を目指して活動しながら、その成果や課題を共有し、日本のインクルーシブ教育をどう進めていくか、そしてその先にはどのような社会を作るかを皆さんとともに考える機会を提供していきたいと思います。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務局 園田 知子

大学卒業後、在外公館勤務を経て、英国の大学院で教育開発を学ぶ。その後、青年海外協力隊員としてカンボジアで途上国の学校運営に携わり、2011 年AAR に入職。2013年4 月から2018 年9 月までAAR カンボジア事務所駐在。山口県出身

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