ミャンマー:障がい者を取り巻く地域課題を解決ーCBR事業開始から1年、その成果
AAR Japan[難民を助ける会]は、ミャンマー東部、タイと国境を接するカレン州で2013年より活動しています。2017年9月から、カレン州の4区19村で「地域に根差したリハビリテーション(Community Based Rehabilitation :CBR)」を推進する事業を展開しています。CBRとは、障がいのある方の暮らしを地域で支える取り組みです。家にこもりがちな障がいのある方々が孤立することなく、誰もが安心して生活できる地域を目指しています。
障がいのある人もない人も一緒に地域づくりを進めるために、まずは障がい当事者や家族を含む地域住民をコミュニティボランティアに選出しました。
そして、村長や学校の教師、救急隊員、コミュニティボランティア、コミュニティヘルスワーカー(地域住民から医療に関する相談を聞き、知識や情報を提供するボランティア)などで構成されるCBR委員会を設置。AARは、コミュニティボランティアがCBR活動の中心的な役割を担えるよう、障がい者の生活状況の聞き取り方法やニーズ分析、支援計画の立て方などさまざまな研修を開催しました。研修後、コミュニティボランティアは地域に住む障がいのある方々を訪問し、「日中どのように過ごしているのか」「仕事はしているか」「村の行事や会議などに参加する機会はあるか」「日常生活でどのような困難があるか」などを聞き取りました。その後、生活上の課題をまとめた障がい者情報リストを作成。CBR委員会は、そこで得られた情報をもとに、彼らを取り巻く地域課題を解決するための行動計画を策定し、活動を始めています。
目に見える成果が続出
コミュニティボランティアの活動によって完成した障がい者リストのおかげで、村役場や区役所の職員は、彼らの生活状況について把握することができるようになりました。以前は「障がい者は何もできない人たちである」という固定観念を抱いていましたが、その考え方を改め、彼らをコミュニティの一員、意思決定に関わるメンバーとして考えるようになりました。
そして、道路整備など、村の開発に関する会議にも障がい当事者を含めるようにもなりました。それによって、以前は家にこもって外出することが少なかった障がいのある方々も、地域に受け入れられたことによって自信を持つようになり、結婚式や誕生日、葬式、宗教行事などの村の行事にも参加する機会が増えていったのです。
コミュニティボランティアの方々はさらに、リハビリテーションの意義や補助具の使用方法、専門機関への橋渡しや情報提供に関する研修を受け、障がい者の課題解決に向けて活動をしています。
ある25歳の対麻痺(ついまひ:両下肢が運動麻痺を起こし、自分で動かせず歩行障がいなどが起きる症状)の女性は、歩くことができず家にこもり、周囲の目を気にして車いすを使うことを拒んでいました。コミュニティボランティアのナウ・ジュンパーさんは、彼女のところに何度も通い、話を聞いて励まし、信頼関係を築いていきました。そして彼女は車いすを使うことを決意し、AARの紹介で車いすを受け取り、外出できるようになりました。
また、別のコミュニティボランティアのナン・サンダーさんは、学校に通ったことがない障がい児のために学校を訪問し、校長先生に障がい児の状況を説明しました。彼女が希望する洋裁の仕事に就くためには、4年生までの学業を修了して計算ができるようになることが必要で、ナン・サンダーさんが教育省にも相談した結果、その障がい児は学校へ通えるようになりました。
障がいに対する理解を深める研修に参加したコミュニティボランティアのサイン・ミン・カイさんは、それぞれの地域の学校の生徒や地域住民に対して、障がいに対する理解を深めるための活動を開始しています。そこで、地域住民や子どもたちは、障がいのある方が地域生活で直面する障壁や障がい者の権利について学んでいます。
開始から1年ー活動発表会がさらなる自信に
事業開始から1年が経過したことを機に、2018年11月に2地区の地区事務所で活動の報告会を行いました。各区から選ばれた4名のコミュニティボランティアの方々は地区長や行政職員を前に、それぞれの区での活動成果を発表しました。
人前で話をするのが初めてだった彼らは、大分緊張した様子でしたが、何度も練習を重ねて本番に臨みました。これまで地区レベルで障がいに関する報告会が開催されることは少なかったため、行政職員に障がい者が置かれている状況について理解してもらう良い機会となりました。コミュニティボランティアの皆さんもこの経験を通してさらに自信を持つことができ、今後の活動に対する意識も高まりました。
CBR委員会やコミュニティボランティアへの高まる期待
CBR委員会を設置したことにより、障がい者を取り巻く状況も少しずつ変化してきました。CBR委員会メンバーとなった学校の教師は、障がい児を学校に受け入れることに関して理解を示すようになりました。ヘルスワーカーは予防接種や学校での健康教育の際にコミュニティボランティアを招いて障がいに関する活動をしてもらいたいと話すようになりました。
また、カレン州の社会福祉局では、村の障がい者の状況を把握するために、区役所やCBR委員会へ、コミュニティボランティアが収集した情報について問い合わせることもあります。
CBR委員会は定期的に会合を行って活動の振り返りと活動計画の見直しを行っています。今後は障がいについて理解を深める活動を続けながら、障がい児とその保護者を対象としたグループ活動の展開や、学校での障がいに関するエッセイ・絵画コンテストの開催、国際障がい者デーに合わせたイベントの開催など、障がい当事者を巻き込んだ地域づくりに取り組んでいきます。
この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ミャンマー・パアン事務所 安齋 志保
2018年7月よりミャンマー・パアン事務所駐在。大学卒業後、NPOで精神障がい者支援に8年間従事。休職中に青年海外協力隊員としてスリランカに赴任。復職後、途上国の障がい者支援に携わりたいと思い、AARへ。静岡県出身