ミャンマー避難民:子どもたち集まれ!フレンドリースペースを開設しました
ミャンマー・ラカイン州から逃れた約100 万人のイスラム少数派が暮らすバングラデシュ南東部コックスバザール県。AAR Japan[難民を助ける会]は、現地NGO と協力して、子どもたちが安心して遊んだり学んだりできる「チャイルド・フレンドリー・スペース」(以下CFS)と、女性のための「ウーマン・フレンドリー・スペース」(以下WFS)を2 つのキャンプに開設しました。駐在員の中坪央暁からの報告です。
「友だちと安心して過ごせます」
よく晴れた11月の最終週、バングラデシュ最南端テクナフ地域のジャディムラ、アリカリ両キャンプでCFSの開設式が行われ、子どもたちや保護者、バングラデシュ政府の行政官、国連機関関係者、避難民代表らが出席して賑やかにプログラムの開始を祝いました。
鮮やかな青色を基調としたCFSは、約50平方メールのオープンスペースのほか、カウンセリングルームや事務所など3つの小部屋、トイレ・手洗い場、独自の給水設備とソーラーパネルを備えています。
ジャディムラキャンプのCFSに利用登録したジガナ・ビビさん(12歳)は「きれいな施設ができて嬉しい。ミャンマーでは小学校に通っていたけれど、こんな雰囲気ではありませんでした。ここに来れば友達と一緒に安心して過ごせます。英語を習ったり絵を描いたりしたい」と笑顔で話します。父親でマドラサ(イスラム学校)教師のハフェズ・アフメドさん(45歳)も「子どもたちは1年以上、厳しい環境で暮らしているので、こうして楽しく集まれる場所ができたことを歓迎します。薬物犯罪や誘拐など危険なことに巻き込まれないように、安全のための心構えも教えてほしいですね」と期待します。
12月初旬にジャディムラキャンプで行われたあるプログラムには、9~12歳の約50人が参加し、玩具を使った遊びやお絵描き、英語のアルファベットの授業、手洗いの大切さを伝える衛生教育と、2時間余りの間に盛りだくさんのセッションが用意され、子どもたちは夢中でひとつひとつの活動に取り組んでいました。
自分の身を守ることを教える
100万人超と見られる避難民のうち、実に過半数の55%が18歳未満の子どもです。教育分野の支援としては、国連児童基金(UNICEF)が中核となるラーニングセンター(仮設学校)が運営されていますが、CFSは教育に重点を置いた学校ではなく、難民の中でもより弱い立場に置かれた人々(女性・子どもなど)のプロテクション(保護)を目的にしています。AARが運営する2つのCFSには、5~18歳の子どもたち100人ずつ計200人が登録し、年齢層ごとに3クラスを編成。平日(日曜日~木曜日)に各クラス2時間ずつのプログラムを提供します。基礎的なミャンマー語と英語、算数、音楽、図画工作に加え、違法薬物や人身売買、家庭内暴力などの被害から身を守ることの大切さを伝えるのも大きな特色です。施設ごとに心理カウンセラー、ボランティアを含め10人前後のスタッフを配置し、心理面でも子どもたちをサポートしていきます。
彼らの故郷では、小学校に通うには、教員の給与や教科書代などを負担しなくてはならず、大半が貧しい農民や日雇い労働者であるイスラム少数派の場合、小学校に入学できる子どもは半数程度、そのうち卒業できるのは15%に過ぎないと言われます。つまり初等教育さえ数%の子どもしか修了できないのです。CFSに来る子どもたちの多くが、初めて通う"学びの場" に目を輝かせています。明るく元気な子どもたちの存在が、先行きの見えない避難生活の中で唯一の希望になっています。
女性のための施設もオープン
また、AARは女性のためのウーマン・フレンドリー・スペース(WFS)をCFSと同じ2つのキャンプに開設しました。伝統的・保守的なイスラム社会にあって、外出したり集まったりする機会が少ない女性たちが、自由に気兼ねなく活動できる空間を提供しています。
手芸をはじめとする創作活動や衛生教育、読み書きなどの基礎教育を行うほか、家庭内暴力や性犯罪被害といった深刻な問題に対応するため、心理カウンセラーが常駐し、より専門性の高い外部団体とも連携して被害女性の保護にも取り組みます。
当地ではミャンマー・バングラデシュ両政府の合意に基づく帰還が11月中旬に始まるはずでしたが、ミャンマーで再び迫害を受けることを恐れてキャンプ内で激しい抗議行動が起きるなど、誰ひとり帰還に応じていません。避難生活が数年単位で長期化するのは間違いなく、子どもや女性のプロテクション(保護)支援はますます重要になっています。AARの活動に、引き続き皆さまの温かいご支援をよろしくお願い申し上げます。
あなたのご支援で、一人でも多くの人に笑顔を ー2018年末募金のお願い90万を超えるミャンマーからの避難民が暮らすバングラデシュ・コックスバザール県テクナフ地域。家を焼かれ、家族を殺され、着の身着のまま逃げてきた人たちは、人口過密な避難民キャンプでの過酷な生活を余儀なくされています。 AARは、避難民の生活環境を改善しています。一人でも多くに笑顔を届けるため、AARの年末募金にご協力ください。 |
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
バングラデシュ・コックスバザール事務所 中坪 央暁
新聞社でジャカルタ特派員、編集デスクを経て、国際協力分野の専門ジャーナリストとして南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島などの紛争復興・平和構築支援の現場を取材。2017年12月にAARへ。栃木県出身