ミャンマー:村の公共施設を、誰もが利用できるように
AAR Japan[難民を助ける会]は、ミャンマー東部、タイと国境を接するカレン州で2013年より活動しています。2017年9月から、同州の4区19村で「地域に根差したリハビリテーション(Community Based Rehabilitation :CBR)」を推進する事業を展開しています。CBRとは、障がいのある方の暮らしを地域で支える取り組みです。家にこもりがちな障がいのある方々が孤立することなく、誰もが安心して生活できる地域を目指しています。
道路はボコボコ、穴だらけ、狭い通路
私が大学生のころ、フィリピンのとある街を友人と歩いていたときのことです。突然、私の足元の舗装路が崩れ落ちたのです。即座に反応して避けられるはずもなく、「あっ」と思った瞬間には1.5mほど落下していました。幸い自力で舗道に上がることができ、すり傷だけで済みました。
そのときの道と同様に、私の駐在地も道路はボコボコ、穴だらけ。村内の道は舗装されておらず、雨季にはたどり着くことさえ難しい地域も多くあります。そうした村の学校や集会所、ヘルスセンターといった公共施設もまた、多くの段差や狭い通路など、障がいのある方にとって非常に利用しにくい環境にあります。そのため、障がいのある方々が等しく公共サービスを受けられない問題が生じています。
そこで、AARは学校や集会所など、誰もが公共施設を利用しやすくなるように、施設のバリアフリー化の改修工事を行っています。たとえば、校舎の入り口にスロープや手すりを設置したり、車いす利用者も使用できるトイレを新設しています。
障がいへの理解を深める
また、いくら設備がバリアフリーであっても、学校の先生や地域住民が障がいのことを充分に理解していなければ、障がいのある方への心理的な障壁は変わらないままです。住民の物理的、また心理的な障壁を取り除いていくことで、誰もが心地よく公共サービスを利用することができます。そこで、AARはバリアフリー工事だけではなく、障がいとは何であるか、バリアフリー施設はなぜ必要なのか、障がいのある方にとってバリアフリー設備はどのような意義があるのかを伝えるために、施設の管理者や利用者を中心とした地域住民に研修をしています。
少しずつ広がる、意識の変化
こうした取り組みが住民の理解を少しずつ深め、活動地に新設されたコミュニティセンターの入り口に、村長の提案でスロープが設置されました。村長にスロープを設置した理由を聞くと、AARの研修に参加したり、バリアフリー化した施設を見て、障がいのある方も村のコミュニティセンターにアクセスしやすくなることの意義に気が付き、自ら提案して導入したと話されました。スロープの傾斜は基準より急ですが、バリアフリーの意義を理解し行動に移したことは、大きな1歩に違いありません。
政府にも働きかけ、「最初から」バリアフリーな社会を目指す
しかし、私たちAARがすべての公共施設をバリアフリー化していくにはお金も時間も足りません。もし「もともと」公共施設がバリアフリーであれば、改修工事はしなくてもいいのです。国際NGO「ハンディキャップインターナショナル(現 ヒューマニティアンドインクル―ジョン)」が2008年に発行した「How to Build an Accessible Environment in Developing Countries(途上国におけるバリアフリー環境の整備方法)」※によれば、最初からバリアフリーで建設する場合、バリアフリー化にかかる費用は全建設費の2%のみです。しかし、建設後に改修工事をする場合、それ以上の経費がかかります。
そこで、教育局や保健局などの政府職員に本事業の報告をしたり、改修工事後の研修に招待するなどして、最初からバリアフリーの公共施設を建設するよう伝えています。先の村長のように、地域住民がバリアフリー設計の価値を理解し、障がい当事者を含むすべての人が利用しやすい施設になるよう、自ら提案し工夫することも大切です。
私たちはバリアフリー改修した事例が地域の施設のモデルとなるように、障がいのある方々が公共サービスを利用しやすい環境づくりを進めてまいります。
この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ミャンマー・パアン事務所 松島 拓
2016年9月よりミャンマーパアン事務所に駐在し障がい者支援事業に携わる。NPOの運営支援を行う中間支援団体で3年間、ファンドレイジングやコンサルティング業務、イベントや研修の開催などに事務局長として携わった後AAR へ。山梨県出身