ミャンマー:障がいのある子どもたちも自分の村で教育を受けられるように
AAR Japan[難民を助ける会]は、ミャンマー東部、タイと国境を接するカレン州で、2013年より活動しています。2017年9月からは、同州の4区19町村で、障がい者の暮らしを地域で支える事業「地域に根差したリハビリテーション(Community Based Rehabilitation:CBR)」を実施しています。その一環である障がい児の教育について、駐在員の松島拓が報告します。
障がい児の教育環境
事業を開始する際にAARが実施した調査では、一度も村の学校へ入学したことがなかったり、入学しても退学してしまう障がい児がほとんどでした。彼らは一日の多くの時間を家で過ごすため、他者との関わりを通して社会性やコミュニケーション力を身に着ける機会が限られています。また、保護者は障がいへの理解が不十分で、子どもと適切なコミュニケーションを取ったり、充分なサポートをしたりすることができていません。AARの現地スタッフは、「彼らは家族であっても、お互いに分かり合っているわけではない」と言います。
さらに、村の学校は障がい児を受け入れる体制が整っておらず、教員は障がい児にどう接し、教えればよいのか分からないという課題を抱えています。学校に通う障がいのない児童が障がい児をからかい、いじめにつながるケースもみられました。
まずは外に出ること
こうした状況を踏まえ、AARは(1)障がい児が社会性やコミュニケーションのスキルを身につけ、学校へ行く準備をすること。(2)保護者が障がいの特性や配慮する点について理解し適切なサポートができること。(3)教員や児童が障がいを理解し、ともに学べる環境をつくること。この3つに重点を置き、課題へ取り組むことにしました。
まず、AARは2019年1月から、子どもたちがほかの障がい児とともに社会性を身につける場として、障がい児と保護者が一緒に集まる機会を作りました。毎月、時計の読み方や数の数え方を勉強したり、みんなでお絵かきやダンスなどを行います。保護者が少しでも前向きに子どもたちの未来を考えられるように、障がいに関する正しい理解を伝えたり、保護者同士が悩みや問題を相談できる機会も設けています。この活動は、障がい当事者を含む地域住民によるコミュニティボランティアがサポートしています。
また、毎月の活動に加えて、2~3ヵ月に1回、僧院での掃除や伝統的なお菓子作りなどのグループ活動を実施しています。この活動には、学校の先生や障がいのない子どもたちにもAARが参加を呼びかけています。これまで障がい児とコミュニケーションを取ったことがなかった地域住民にとっても、実際に障がい児と話したり、一人ひとりの個性を知ることで、障がいへの理解を深める機会になっています。
将来の自立のために
脳性まひの少女、ピュー・ピュー・ゾウさん(5歳)も、このグループ活動に参加しています。当初、彼女は寝たきりの状態でしたが、理学療法士の資格を持つAARスタッフが母親に家庭でできるリハビリ指導などをした結果、現在は車いすを使って外出できるようになりました。(彼女については「医療施設の照会が社会復帰のきっかけに」)でも詳しく報告しています)
ピュー・ピュー・ゾウさんの母親は「娘には将来自立して暮らしていってほしい。ほかの子どもたちとの交流や友だちをつくることを通して、社会性を身につけられるように、障がい児グループの活動に参加し始めました。これまで家に閉じこもりがちだった娘が、今は「もっと外に出たい」「グループの活動をもっとやりたい」と嬉しそうに言っています。将来は村の学校へ入学し、自分の未来のために勉強をしていってほしいと願っています」と話してくれました。
学校と家庭の架け橋として
村のボランティアの皆さんによるサポートもあり、障がい児と保護者や介助者たちに、少しずつ変化が生まれてきています。今後は、各活動を地域住民が主体となって運営していけるように、活動の運営方法を伝えていきます。また、まだこれらの活動に参加できていない障がい児たちへ参加を呼びかけていきます。将来的には、この活動が学校と家庭の架け橋となり、障がい児が村の学校で障がいのない子どもたちとともに教育を受けられるようになることを目指していきます。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ミャンマー・パアン事務所 松島 拓(まつしま たくみ)
2016年9月よりパアン事務所に駐在しミャンマー事業を担当。NPOの運営支援を行う中間支援団体で3年間、ファンドレイジングやコンサルティング業務、イベントや研修の開催などに事務局長として携わった後AAR へ。山梨県出身