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SDGsがつなぐ世界-第2回実践セミナーを開催しました

2019年09月24日  啓発日本
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2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」を達成するために、一人ひとりにできることを考え実践してもらおうと、昨年度よりAAR Japan[難民を助ける会]が薬樹グループの全面的なご協力のもと開催している「ナッジ的SDGsセミナー」シリーズ。昨年度は4回、今年度は2回実施しました。今年度の第2回目は、「SDGsがつなぐ、 シンクロニシティ(意味のある偶然の一致)」と題して行いました。当日の様子を、AAR東京事務局の伊藤美洋がご報告します。
2019年度第1回目の報告はこちら

※「ナッジ」(nudge)とは、「ひじで軽くつつく」という意味。強制せずに対象者を自発的に好ましい方向に誘導する仕掛けや手法のことで、経済学者のリチャード・セイラー博士が提唱した、行動経済学の概念です。

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当日は30名の方々にご参加いただきました。中央奥は薬樹ウィル株式会社・薬樹R&D株式会社 代表取締役の吉澤靖博氏(写真はすべて2019年9月4日撮影)

支援現場での類似性

講師は、本連続セミナーの企画段階からさまざまなアイデアを出してくださった、薬樹ウィル株式会社・薬樹R&D株式会社代表取締役の吉澤靖博氏と、AARの姉妹団体で日本に住む外国人の支援を行う社会福祉法人さぽうと21事務局長の高橋敬子氏、そしてAAR事務局長の堀江良彰です。司会は、しずおかSDGsネットワークという団体を立ち上げSDGsの活動普及などを行う木下聡氏に、シリーズを通しお願いしました。

まずはAARの堀江良彰より、団体の活動とSDGsとの関連性についてお話ししました。活動に関連するSDGsの目標は多岐にわたりますが、具体的な事例として、AARがシリア難民支援のためにトルコで運営するコミュニティセンターでの活動が挙げられました。コミュニティセンターは、日本で言うところの地域の集会所のような場所です。シリア難民が、言葉の異なる隣国のトルコで避難生活を送る際に、トルコ政府による支援についてなどの必要な情報へアクセスできるようサポートしたり、難民同士や難民と地域に住むトルコ人とが交流できるようイベントを開くほか、学校に行けない子どもたちに学びや遊びの場を提供するなどしています。こうした活動は、地元の行政や団体と協力しながら行います。SDGsの目標3(すべての人々に健康と福祉を)、4(質の高い教育をみんなに)、10(人や国の不平等をなくそう)、17(パートナーシップで目標を達成しよう)などにつながる活動と言えます。

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AARの活動をSDGsと絡めて説明する事務局長の堀江良彰

一方、さぽうと21も、前述のSDGsの目標とつながる支援を日本国内で行っています。事務局長の高橋敬子氏によると日本で生活する難民や外国人などは、トルコに逃れたシリア難民同様に言葉の壁にぶつかっています。言葉ができないと必要な情報を手に入れることができず、また地域社会に溶け込むこともできません。そのほかにも、語学の習得が早い子どもと言葉がなかなか覚えられない親との間で、意思疎通が不十分になってしまうなど、さまざまな課題があります。そのため、さぽうと21は必要な情報を提供したり、日本語やパソコン、主要教科の学習支援を行うほか、日本での生活に必要なスキルを身に着けるためのワークショップやイベントなどを行っています。活動は、多数のボランティアの方々のご協力や、行政やさまざまな支援団体との連携を図りながら行っています。

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海外の難民支援と国内在住の外国人への支援の共通性について話される、さぽうと21事務局長の高橋敬子氏

途上国の現場からの学び

また、AARの堀江は、海外での障がい者支援の現場から日本が学ぶことがある点についてもお話ししました。日本ではほとんどの小学校が普通学級と特別支援学級に分かれており、相互交流がなかなか進んでいない現状があります。しかし、例えばAARが活動するカンボジアでは、新しく特別支援学級を作る予算が政府にないため、障がいがある子もない子も同じ教室で学ばざるをえません。そこで、AARは障がい児が車いすを利用していても登校しやすいよう学校をバリアフリー化したり、教員が障がい児の特性に応じて教えられるよう研修を行ったり、地域住民へ障がいへの理解を深めるためのワークショップなどを行っています。こうした環境を作ることで、子どもたちは、障がいがあってもなくてもともに学ぶことを自然に受け入れるようになります。日本では障がい児のための制度を作ることが、逆に子どもたちの間に壁を作る面もある一方、カンボジアでは制度がないことで、子どもたちが自然に学び合う環境を作りやすいと言えます。

ビジネスで社会課題を解決

次に登壇された薬樹ウィル株式会社・薬樹R&D株式会社代表取締役の吉澤靖博氏は、三択クイズを交えながら、地球が危機的状況にありながらも地球規模課題への取り組みがさまざまな面で前進してきている現状を参加者の皆さんと共有されつつ、薬樹グループのSDGsに関する取り組みについてお話しされました。

薬樹グループは、本業の薬局運営を通じて「健康な人、健康な社会、健康な地球」を実現しようという理念を掲げています。「人の健康」については、まちの健康ナビゲーターとして「薬」「栄養」「運動」の3軸でアプローチを行い、治療だけではなく病気の予防にも積極的に取り組まれています。「社会の健康」に関しては、育児中で時短の女性職員だけで運営される店舗を開設し、女性が働きやすい環境を創出するほか、特例子会社・薬樹ウィル株式会社の設立により障がい者雇用を推進。「地球の健康」のためには、各店舗で使用済み天ぷら油やエコキャップ、古着の回収など再利用可能な資源のリサイクル活動を推進するほか、職員の名刺にはフェアトレード認証を取得したバナナペーパー*を利用し、森林破壊の防止に貢献しています。また岩手県葛巻町には「薬樹の森」を保有し、間伐材の利用促進などを推進しています。

(*アフリカのザンビアで生産されたオーガニックバナナの茎の繊維に、古紙または森林認証パルプを加え、日本の和紙技術を用いて作られた、社会環境に配慮した紙)

このように同グループはさまざまな取り組みを積極的に行っていますが、特に注目すべきは、店舗で薬剤師が着る白衣や、リサイクルのため回収した古着のクリーニングサービスを、薬樹ウィル株式会社で雇用された障がいのある方々が担っていることです。日本では一般企業における障がい者の法定雇用率は2.2%とされていますが、同社の障がい者雇用率はそれを上回る3.04%です。吉澤氏は、「障がい者が適正な給料を得ることにより、これまでは働いても月額1万円程度の工賃しか得られないために税金によるサービスを受け取る側だった人々が、税金を納める側になることにより国の税収は大きく増える。これはSDGsの目標1(貧困をなくそう)、目標8(働きがいも経済成長も)や目標10(人や国の不平等をなくそう)にも貢献する」と話されました。

一方で吉澤氏は、ベトナムの自閉症の方のアート展や障がい者サッカーチームなどさまざまな障がい者の方々と出会う中で、「障がいとは、実は自分の心の中にある障壁ではないか。障がい者に対して壁を作っていたのは自分だった」と感じたことや、「障がい者の自立とは、単に経済的な自立だけではなく、アートやスポーツなどを通じて障がいのある方自身が自分らしく生きられること。自分はそのために彼らに寄り添えているか自問している」というお話もありました。

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企業としてSDGsの目標達成のためにさまざまな取り組みをご紹介される吉澤靖博氏

意味のある偶然のつながり

また、吉澤氏は、寿命に影響を与える要因として「つながりと死亡率」の関係を数字で示しつつ、他者とつながりが多い人ほど寿命が長く、孤独な人ほど死亡率が高いこと、また集団行動をしたヒトの起源と言われるホモサピエンスと、集団行動をせずに絶滅したネアンデルタール人との違いなどに触れ、他者とつながることがいかに大事かを話されました。また、SDGsを達成するには、さまざまな団体とつながることが大切であり、SDGsを達成したいと強く願うことで、一見偶然とも思える出会いが、実は意味のあるつながりとなり、ここまで自社の活動が広がったとも語られました。

支援とは相互の学び合い

後半は講師の3名に薬樹グループのNPO法人Liko-net理事長の照井敬子氏を迎えて対談形式でお話ししました。今日の感想について、さぽうと21事務局長は、薬樹の吉澤氏が障がい者を雇用することで彼らが税金の受給者から納税者になると話された点が印象的だったとし、「さぽうと21が支援する難民や外国人の方々も日本の役に立ちたいという気持ちでいる。生活保護を受けたくて受けている人などいない。企業や周囲のちょっとした働きかけで、そうした人たちを救い上げることができる。大切なのはそうした人々に寄り添う気持ちを持つこと」と話されました。吉澤氏は、さぽうと21やAARのこれまでの活動に敬意を表されつつ、「企業が非営利の領域にビジネスの視点で入ることで、さらに貢献できることがあると思う」と話されました。照井氏は、AARの話から、日本が途上国から学ぶことがあったり、吉澤氏が障がい者から気づきを得るという話を引用しつつ、支援はする側からされる側への一方通行のものではなくお互いが学びあうものであると感じたと話されました。

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支援は一方的なものではなく双方向の学びがあると語る薬樹グループのNPO法人Liko-net理事長の照井敬子氏(右)。中央は薬樹ウィル株式会社・薬樹R&D株式会社代表取締役の吉澤靖博氏。左は司会の木下聡氏

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右から、さぽうと21事務局長の高橋敬子氏、AAR事務局長の堀江良彰

会場内からも多くの質問

その後、会場からSli.doというサービスを通じてさまざまな質問をいただきました。「再生可能エネルギーに対する取り組みを将来的には脱原発につなげたいか」という質問に対し、Liko-net理事長の照井氏は、「東北で生まれ育った私としては、将来的にはぜひそうしたい。原子力を使わず再生可能エネルギーで賄えるよう、皆さんも自分ごととして積極的に利用してほしい」と答えられました。また「特例子会社薬樹ウィル株式会社の売り上げのうち薬樹グループからの発注は何割くらいか」という質問に対しては、吉澤氏が「9割です。外注をいかに増やすかが課題ですが、薬樹グループ内で還流できるなら、それ自体は悪いことではない。クリーニング事業以外に、現在はトライアル業務として企業向けに障がい者雇用のコンサルティングを行っている。障がい者を積極的に雇用する企業仲間をいかに増やすかが大事」と話されました。

SDGsを達成するために

最後に、登壇者から参加者へメッセージを伝えました。AARの堀江からは、「2030年までの目標達成に向けて、一人ひとりが本気で取り組んでほしい」。さぽうと21の高橋氏は、「今日感じたことを参加した皆さんが周囲に伝えることにより、大きな伝播となる」と話されました。Liko-netの照井氏は、「日々難民などと接する機会がない方たちでも、毎日買い物はする。自分の買うものがどう社会に影響するかを常に考えてほしい。SDGsを実現するのは皆さん一人ひとり。『できることから始めよう』では遅いという声もある。少し面倒なこともぜひ取り組んでほしい」と話されました。吉澤氏は、「思いついたらすぐ行動することが大事。例えばペットボトルをやめることも、SDGsへの大きな貢献です。また、心の中にある「障がい」を取り除き、フラットな気持ちでできることを考えてほしい」と伝えられました。

連続セミナーを通じて、多くの講師および参加者の皆さまとつながることができました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。

最後になりましたが、当日は九州北部大雨が発生した直後でもあり、セミナーの冒頭で被災者支援のための緊急募金をお願いしたところ、10,922円が集まりました。ご協力くださった参加者の皆さまに感謝申し上げます。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務局 伊藤 美洋

大学を卒業後、4年半の企業勤務を経て1996年よりAARへ。広報担当を経て現在は渉外・チャリティ商品・総務を担当。1男2女の母。

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