アフガニスタン:「勉強を妨げるものは、もうこの学校にはありません」
AAR Japan [難民を助ける会] はアフガニスタンにおいて、2014年からインクルーシブ教育(※)を推進しています。障がいの有無に関わらず、すべての子どもたちがともに学べる教育環境を目指し、活動しています。2018年度に実施した活動について、成果と支援を受けた方々の声を報告します。
※インクルーシブ教育(包括的な教育)・・・障がいの有無や人種、言語の違いなどに関わらず、すべての子どもたちに開かれた教室、学習施設、教育制度
障がい児支援事業
AARカブール事務所では、2014年からパルワン県のチャルカリ市にある2つの公立校を対象に、障がいのある生徒への支援と、インクルーシブ教育の推進活動を行っています。学校には、日本の小学性から高校生にあたる生徒が在籍しています。この2校では、障がい児の積極的な受け入れ、校舎のバリアフリー化、障がい者の権利に関する啓発活動などを行っています。また、障がい児向けに手話と点字の補習クラスの開催や、補修クラス運営を担う教員への研修も実施しています。
2つの公立校に「インクルーシブ教育推進委員会」を設立
AARは各校に「インクルーシブ教育推進委員会」を設立しました。委員会のメンバーとなった教員と各校の校長は、カブール教育大学の障がい児教育の専門家による研修を受け、障がいのある子どもをどのように受け入れ、彼らとミュニケーションをとればよいのかを学びました。具体的には、障がい児が持つさまざまな能力と可能性を理解することが大切であること、さらにその認識をほかの教員や学校生徒へ伝えること、その上で、もし周囲に通学できていない障がい児がいる場合には、学校に来るように働きかける重要性を学んだのです。
この研修の後、委員会のメンバーは、学校に通っていない障がい児がいる家庭を訪問しました。そして、学校ではすべての子どもが学べることを保護者に説明し、通学させるよう説得していきました。また、「インクルーシブ教育クラス」と名付けた障がい児のための補習クラスを開講しました。
このような学校の取り組みにより、聴覚障がいや、視覚障がいなど、さまざまな種類の障がいのある生徒の入学が相次ぎました。このため、AARは委員会メンバーに向け、多様な障がい児と円滑にやりとりをしたり、障がい児にコミュニケーションとる方法を教えられるよう、点字と手話の研修を実施しました。
また、委員会のメンバーは補習クラスの開講数を増やす必要性を感じていましたが、教室が不足していました。そこで、AARは、各校に補習クラス用に2教室ずつ新設し、現在、ここで生徒たちが学んでいます。
ここからは、AARの事業に関わった人たちの声をお届けします。
「勉強を妨げるものは、もうこの学校にはありません」(男の子、12歳)
生まれつき身体にまひがある学校の男の子は、AARの事業により、通学できるようになった一人です。委員会のメンバーが、彼の両親を学校に招き、学校で彼を受け入れられることを伝え、通学を促しました。来校できるようになった彼は、補習クラスにも参加するようになりました。
「以前の学校は不自由な場所で、通学を続けられませんでした。でも、今では特別な補習クラスと、車いす用のトイレやスロープなどができたので、勉強を妨げるものはもうありません。いろいろな障がいのある生徒が学校にいます。また、僕たち障がい児とほかの生徒との間に違いを感じなくなりました。みんなと一緒に学べて、幸せです」と、話してくれました。
「障がいのある生徒の存在が、私の人生に大きな影響をもたらしました。」(教諭、女性)
教諭はサディキ校で、委員会のメンバーとして積極的に活動しています。その背景には、彼女のクラスに、障がいのある生徒がいたことでした。
教諭は次のように話しました。
「私のクラスの生徒の影響で、委員会のメンバーになりました。彼女は自由に話すことができません。ある日、授業を理解できているかと尋ねましたが、彼女は私に意志を伝えることができませんでした。
そんな折、補習クラスで手話を教わった彼女は、数週間後には手の動きで私と意思疎通を図ろうとしました。ですが、当時の私には、彼女が手話でコミュニケーションをとろうとしていることがわかりませんでした。
時間に余裕ができたある日、彼女と一緒に補習クラスの手話セッションに参加してみることにしました。その1日だけで、たくさんの手話を学ぶことができたので、とても面白く感じ、次のセッションに参加するのが待ちきれなくなりました。職員向けの研修で、障がい者の権利を学んだことも加わり、私のインクルーシブ教育推進の旅が始まりました。委員会のメンバーになり、今では手話講師を目指すようになりました。彼女の存在は、人生に大きな影響を与えてくれました」
子もたちが笑顔で、幸せでいられるように
私はAARで働き始めたときから、AARの事業全般が非常に面白いと感じていました。インクルーシブ教育の推進事業がはじまり、その責任者になれたことは、本当に素晴らしいことだと感じています。
仕事では、障がいのある子どもたちに積極的に会い、彼らの過去、現在の状況、今の気持ち、今後の希望について話を聞くよう努めています。支援を受けた障がい児たちが「今はみんなと一緒に学ぶことができるようになったよ」と話してくれるたび、深い感動と幸福を覚えます。ときに冗談を交えながら、私は障がい児とコミュニケーションをとることを楽しんでいます。
AARの事業を通して、障がいのある子どもたちの人生に変化をもたらしたいと思っています。子もたちが笑顔で、幸せでいられるように働き続けていきます。いつも支えてくださっている日本の皆さまに、心から感謝しています。