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カンボジア:「障がいが多様性となる社会へ」

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教室で勉強する2人の少女

(写真:川畑嘉文)

AAR Japan[難民を助ける会]は、カンボジアですべての子どもが個々の特性やニーズに応じた配慮を受けながら、ともに学ぶことができるインクルーシブ教育の推進に取り組んでいます。5年間のカンボジア事務所駐在を経て、2018年より東京事務局で勤務する園田知子が報告します。

学校に通えない子どもたち

カンボジア政府は2012 年に国連障害者権利条約を批准し、国として、すべての障がい者の人権と基本的自由、尊厳を保障する取り組みを進めていく意志を表明しました。条約の第24 条は、締約国に対し、あらゆる段階におけるインクルーシブな教育制度の確保を求めています。しかし、カンボジアでは、不十分な学校設備や、教員や地域住民の障がいに対する知識や理解の低さ、障がい児の教育を支える公的制度の欠如などにより、障がいのある子どもたちの多くは、学校に通えていないか、通っていても授業や学校生活に順応できずに留年を繰り返す、または退学するなどの現状に直面しています。
そのような状況を受け、AAR は2013 年、カンダール州クサイ・カンダール郡において、障がいの有無に関わらず、すべての子どもたちが個々の特性やニーズに応じた適切な配慮を受けながら一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」推進事業を開始しました。学校や地域行政関係者、保護者、当事者など多様なセクターから成るワーキンググループを設立し、学校のバリアフリー化や教員への研修、障がい児の実態調査や地域での啓発活動などに取り組みました。

階段を上がらないと教室に入れない校舎

階段を上らないと教室に入ることができませんでした(2016年7月時点)

バリアフリー工事をして、スロープを設置しました

スロープを設置し、バリアフリーに(2016年11月)

これらの活動によって、地域の障がい児の実態が把握され、"障がい児は学ぶことができない"と思っていた教員や保護者の意識が変わるなどの変化が起こるとともに、就学できていなかった、または学習に困難を抱えていた障がい児の就学および学習状況が改善されました。
ワーキンググループのメンバーで2013 年から一緒に活動している郡教育事務所のフォ・チョムナンさんは、「障がい児が教育を受ける機会を得られていないことは課題としてわかっていたが、具体的にどうすれば良いのかわからなかった。AAR がこの難しい課題に一緒に取り組んでくれることに感謝している」と話してくれました。

教室で話をする男性

2013年から一緒に活動している郡教育事務所のフォ・チョムナンさん(2019年12月)

子どもたちに学びの場を提供、そして教員へのサポート体制の構築

2019 年8 月からは、これまでの取り組みを発展させる活動を行っています。その一つは、郡内に18 ある集合村ごとに公的な組織として設立された「障がい者支援委員会」の能力強化と活動支援です。この委員会は、将来的に地域の人々がより主体的にインクルーシブ教育を推進していくためにはどうしたらいいかを事業関係者と協議を重ねた結果、設立が実現しました。
また、研修に参加した教員から、「研修はためになるが、その後、日々の実践で困ったことがあっても、講師に来てもらえない。定期的に相談できる人が欲しい」という声が聞かれました。さらに、障がいが重度の場合など、今すぐ通常学級に入り十分な配慮を受けることは難しい子どもたちの学びの場を確保する必要性もワーキンググループから挙がっていました。これらの声を受け、郡内の公立小学校1 校に学習に困難を抱える子どもが通える学級を開設しました。

机に座って話し合っている教師、子どもたち、AAR職員

学習に困難を抱える子どもたちのための学級。郡内の公立小学校の図書室で運営しているが、現在、専用の校舎を建設中(2019年11月)

そして、その学級を担当する教員が、AAR が行う研修や日々の実践を通じて知識や経験を積み、他校の通常学級で障がい児を指導する教員を支援できるサポート体制を構築しています。さらに、障がい児の教育を担当する教育省の職員からの要請に基づき、教育省と協力して、行政機関や学校におけるインクルーシブ教育の実践状況を評価できる仕組みづくりにも取り組んでいます。クサイ・カンダール郡での活動で得られた情報や成果も共有しながら、他団体とも力を合わせて、カンボジア国内でインクルーシブ教育がさらに推進されるよう努力を続けています。

障がいが多様性となる社会へ

カンボジアは近年、順調に経済発展を続け、首都プノンペンは高層ビルの建設ラッシュに沸いています。その一方で、地方に目を向ければ、学校に行って学ぶことや、病気や怪我をした時に病院で適切な治療を受けることなど、私たちにとっては日々の生活の一部分とも思えることを当たり前にできない人たちがいます。約30年にわたり、さまざまな支援を通してこの国の人々と関わり、この国の変化を見続けてきたAAR だからこそ、そのような人々の置かれた状況に目を向け、カンボジアの人たちと協力して、できること、やるべきことがあるように感じます。

歩行器を使って歩く少女とその友人

「AARの支援のおかげで、歩行器を使ってあるけるようになった」と話すナン・チャンヘインさん(2019年7月)(写真:川畑嘉文)

AAR は、世界中の一人ひとりが「個性と人間としての尊厳を保ちつつ共生できる」社会を目指すことをビジョンに掲げています。カンボジアでの活動を通して、障がいが差別や偏見、憐れみの対象ではなく多様性の一つとなる社会、ともに支えあうインクルーシブな社会、そして皆が明日への希望をもてる社会をつくることに貢献することが私たちの役割でもあります。そのような活動を支援してくださる方々の大切な思いを現地に届けながら、今後も活動を続けてまいります。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務局 園田 知子

大学卒業後、在外公館勤務を経て英国の大学院で教育開発を学ぶ。その後、青年海外協力隊員としてカンボジアで学校運営に携わり、2011年AARに入職。2013年から5年間カンボジア事務所駐在。2018年から東京事務局勤務。山口県出身

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