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シンポジウム「障がい者と取り組む地域づくり」を開催

2020年01月31日  啓発日本障がい者支援
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会場には多くの方がいらっしゃりました。扇状の会場で前にステージがある

障がいに関する研究をされている方、障がい者就労事業を行う方、国際協力に関心のある学生の方など、さまざまな方が参加されました(以下写真はすべて2019年12月7日撮影)

障がいのある人もない人も、誰もが暮らしやすい社会を目指す「地域に根差したインクルーシブ開発(CBID=Community-based Inclusive Development)」の考え方が提唱されて10 年。AAR Japan[難民を助ける会]はミャンマーとカンボジアで地域住民とともに、障がいの有無にかかわらず、誰もが地域活動に参加したり学校に通えるように、取り組んでいます。

2019年12月7日、日比谷図書文化館コンベンションホールにて、シンポジウム「障がい者と取り組む地域づくり」を開催しました。日本・ミャンマー・カンボジア、それぞれの現場で活動するゲストやAAR のスタッフなど6名がCBIDに関する取り組みを紹介し、参加者とともに議論しました。当日の様子を、AARカンボジア・プノンペン事務所の松島拓が報告します。

「対象」から「主体」へ

本シンポジウムでは、障がい者支援の専門家として、カンボジアやタジキスタン、ミャンマーなどで、地域に根差したリハビリテーションに長年携わる、河野眞氏(国際医療福祉大学成田保健医療学部作業療法学科学科長・教授、AAR理事)をモデレーターに迎えました。

冒頭では、河野氏からCBIDに関する説明がありました。まず、"障がいのある人もない人も、ともに誰もが暮らしやすい社会をつくる"というCBIDの原点は、1980年代にさかのぼることを紹介。そして、1979年、国連が主催する国際会議で採択されたのアルマ・アタ宣言によって、健康であることが人間の人権であると認め、それを達成するためのプロセスにおいて、地域住民の主体的参加や自己決定を保障した"プライマリヘルスケア"が提唱された歴史を解説しました。このプライマリヘルスケア提唱の影響を受け、1980年代から途上国農村部の障がい者にいかにリハビリテーション・サービスを届けるか、という取り組みが始まりました。

しかし、リハビリテーション・サービスを届けるだけでは変わらない障がい者の生活に対して、「障がいが社会に存在する障壁によって生まれる」という理解のもと、2000年代には、障がいの主流化と障がい者のエンパワメントを両輪で進めるアプローチがとられるようになっていきましたが、障がい者は支援の「対象」であり、役割は限定的であったと報告。そこで、鍵となってくるのが、"障がい者が社会の一員という「主体」として、活動や意思決定に携わり、ともにインクルーシブな社会をつくっていく"CBIDのアプローチであると話しました。

AAR理事の河野眞氏がマイクを持って話している

CBIDに関して、背景や歴史的経緯を説明するAAR理事の河野眞氏

日本の取り組み|キーワードは「楽しい」

日本での事例紹介として、特定非営利活動法人ハックの家の施設長である竹下敦子氏が取り組みを紹介。ハックの家は、岩手県田野畑村(人口約3,500人)で、1996年から障がいがあっても地域の人とともに働くける場を提供できるよう、花咲き織りやルアー製造の受託、菓子製造販売などに取り組んでいます。

竹下氏は、ハックの家を「なにか楽しそうなことができそうな場です」と話されました。そんな場に惹かれ、毎日ハックの家には、飲食店で働く人から漁師さん、方言がとても得意な方など、多彩な人たちが立ち寄り、集まるそうです。例えば、ベリーの会という地域の給食センターで働く女性が立ち上げた団体があり、この団体はハックの家の応援団と紹介。時間が空けばおやつを作ったり、忙しいときには手伝ってくれるそうです。

竹下氏は、「障がいの有無にかかわらず、地域の人たちがつながり、ともに地域をつくっていくためには"楽しむこと"が何よりも大切」「楽しいことをしている人・場所には勝手に人が集まり、つながりが自然に生まれ、強固になっていきます」と、笑顔で仰っていました。

地域生活を楽しむ、と書かれたスライドの横で、マイクを持ち話している竹下氏

特定非営利活動法人ハックの家の取り組みを紹介する施設長の竹下敦子氏

ミャンマー|みんなで一緒に地域づくりを

AARミャンマー・パアン事務所では2016年から、ミャンマーと隣国タイとの国境沿いにあるカレン州で、障がいのある人もない人も一緒に地域づくりを進めていくための取り組みを行っています。障がい者の自助団体や障がい児グループの活動、障がい啓発イベントなど多岐にわたる活動を、障がい当事者やその家族、地域住民であるコミュニティボランティアが実施しています。例えば、コミュニティボランティアの一人、ナン・サンダーさんは、自ら村の人たちへ障がいや地域ができることを伝えるワークショップを実施したり、障がい児が学校に通えるよう学校との橋渡しをしています。

2016年の活動開始からこの事業に携わるAARのソー・ウィン・ティン(プロジェクト・オフィサー)とティンザー・コ・コ(理学療法士)が登壇し、障がい者がすべての活動において、意思決定から実施まで一員として携わること、また、地域の人たちも取り組みを進めるための理解と経験を得ることが大切であると、発表しました。

・ミャンマーでの取り組みは、こちらから動画でご覧いただけます 別ウィンドウで開きます

パアン事務所現地スタッフ2名がステージの上で活動を紹介している

ミャンマーでのAARの取り組みを紹介する、AARパアン事務所のソー・ウィン・ティン(写真左)とティンザー・コ・コ(写真右)

カンボジア|障がい児が地域の学校で学ぶには

カンボジアでは、2013年から障がいの有無にかかわらず、すべての子どもが学校でともに学べるインクルーシブ教育を推進する事業を実施しています。学校教員への研修や学校施設のバリアフリー化、児童への障がい啓発活動などを通して、障がいがあっても、学校で学べる環境づくりを行っています。

2015年からこの事業に携わるAARカンボジア・プノンペン事務所のイエン・ラタナ(プロジェクト・チーフ)が登壇し、障がい児が住み慣れた地域の学校で学べるよう支援していくためには、学校への働きかけに加えて、地域での取り組みも不可欠であると話しました。事業の対象地域では、行政機関の一部として、地域の関係者からなる障がい者支援委員会が設置されています。AARは、委員会のメンバーが、地域に住む障がい児の就学状況を確認したり、相談に対応できるように、委員会の活動を支援しています。

また、障がい当事者であるAARプノンペン事務所のグネム・ダブット(フィールド・スタッフ)は、委員会のメンバーが活動を通して、障がい児を定期的に訪問したり、地域の会議で障がい児が直面する課題について話し合ったりするようになったと、発表しました。

・カンボジアでの取り組みは、こちらから動画でご覧いただけます 別ウィンドウで開きます

カンボジア事務所の現地スタッフ2名が、カンボジアでの取り組みを発表している

AARのカンボジアでの取り組みを紹介する、AAR プノンペン事務所のイエン・ラタナ(写真左)とグネム・ダブット(写真右)

「地域のつながり」を醸成していくために

シンポジウム後半では、日本・ミャンマー・カンボジアの事例をもとに、『障がいのある人とない人が協働して、地域のつながりを醸成するポイントは何か」をテーマに議論しました。
ハックの家の竹下氏は、「地域のつながりは"その人の理解"から始まります」「障がいの基礎理解はもちろん大切ですが、一人の人としてともに時間を過ごし理解しようとするうちに、障がいへの理解やその人とのつながりが生まれていきます」と仰いました。

私は、この発言を聞いた時、社会制度も文化もまったく異なる日本やミャンマー、カンボジアの取り組みにおいても、共通していることだと思いました。障がい者が何人いるとか、どんな障がいを持っているとかではなく、「その人」を知る時間や場をどのように作り上げていくかが、今回のテーマに対する一つの答えでもあるように思います。その小さなつながりが積み重なって、地域のつながりとなり、インクルーシブな地域ができていくのではないでしょうか。

パネルディスカッションでは、参加者の方々から「地域の人たちと働くときに工夫していることや難しいことはなにか」、「障がいインクルーシブな取り組みをするなかで、女性などのインクルージョンも進んだか」など、多くの質問やご意見をいただきました。

登壇者など6名がステージの上で椅子に座りっている。竹下氏がマイクを持って話している。

パネルディスカッションでは、会場にいらした皆さんと一緒に、考えたり意見を交換しました

AARは、今回のシンポジウムで得られた学びや問いを活かしながら、引き続き、ミャンマーとカンボジアでCBIDの実現を目指し活動していきます。シンポジウムにご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

※本シンポジウムは、公益財団法人ウェスレー財団の2019年活動支援金により開催いたしました。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

カンボジア・プノンペン事務所 松島 拓

2016年9月よりパアン事務所に駐在しミャンマー事業を担当。その後、2019年7月から、カンボジア・プノンペン事務所駐在。NPOの運営支援を行う中間支援団体で3年間、ファンドレイジングやコンサルティング業務、イベントや研修の開催などに事務局長として携わった後AARへ。山梨県出身

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