シリア危機から9年―1人でも多くの避難民へ食糧を
2011年にシリア危機が始まってから3月で10年目に入ります。 2019年12月から砲撃や空爆が一層苛烈になり、「恐るべき」新たなレベルに達したと警告されています(国連人道問題調整事務所(OCHA)発表)。
昨年12月から今年の2月中旬にかけて94万人以上 の市民が避難を強いられており、12月は約30万8千人、1月は約46万4千人が避難し(注1)、今なお避難する方々は増え続けています。 AAR Japan [難民を助ける会]は、現地協力団体と協力して、2014年からシリア国内で43万人以上の人々に食糧を届けてきました。直近の情勢と昨年の活動の状況について報告します。
(注1)英文:https://bit.ly/2PI8b4L
切迫した状況の中で
「自分の家を焼き払った上で避難している人がいる」「人々が家のドアや窓を持って避難している」。2月になり、AARのシリア人スタッフからシリア国内の悲惨な状況を毎日のように聞くようになりました。家を燃やすのは財産を奪われるのを避けるため、ドアや窓を持っていくのは、避難先で再利用したり売って生活資金にするため、とスタッフは説明します。
2020年1月時点で、長引く紛争によりシリアの国内で故郷を追われ避難した方は約610万人、人道支援が必要な人は1110万人に上る と言われています(注2)。昨年や一昨年にも集中的に大規模な避難民が発生していたことはありますが、今回の避難は様相が異なるように感じます。これまでは、状況が落ち着くと自宅へ戻ったり、家の近所の様子を 見に行き来する人もいました。しかし、短期間で戦況の前線が大きく動く中、冒頭の例にあるように、故郷に戻れないことを覚悟して避難している人が少なくないように見えます。
(注2)英文:https://bit.ly/2TC6kzs
切迫した状況の中、人命に関わる食糧をはじめとした緊急支援が最優先で取り組まれるべき分野ですが、国連によると食糧支援事業に限っても今年7月までに約59億円(53,320,000US$、2020年2月27日時点換算)の資金が足りていないとされています。 また、避難した人の8割近くは女性と子どもと見られています。避難先の地域はこれまでにも100万人以上の避難者を受け入れており、避難できる空き物件は皆無に近く、キャンプにすら入れずに寒さの厳し中で路上など屋外に とどまらざるを得ない人も数多くいます。
経済の低迷に加えて、避難先では、もともと住んでいる地域住民と避難してきた人で急激に人口が増え、物価は避難民が押し寄せた前と比べて2倍以上高くなったところもあると、シリア人スタッフは言います。 公共交通機関が発達していないため、避難するだけでも、車を確保してガソリン代をまかなわなければならず、多額の費用が必要です。これまで大家族で住んでいた人が家族全員で住める場所を探せずに、離れて住まざるを得ず、生活費が倍以上にふくらむ家庭もあります。また、失業による収入の激減で、最低限の食糧さえ入手できない人も後を絶ちません。 避難を強いられた方々は経済的にとても厳しい状態にあり、支援に頼らざるを得ない多くの方が暮らしています。
「たとえ故郷が破壊されたとしても」
サミーラさん(仮名・30歳・下写真)は、2年前に空爆で夫を亡くし、さらに戦闘の激化を受けて、3歳の息子と9歳の娘を抱え避難を強いられました。娘には生まれつき障がいがあり、親戚からの支援などで、毎月かかる多額の薬代を工面していました。昨年、AARは食糧をサミーラさんの家庭に届けました。金銭的な余裕はなく、先の見えない避難生活に憔悴していたサミーラ さんは「私たちは何も要らないです。たとえ故郷の街が破壊されたとしても、家に戻りたい。ただそれだけです」と、協力団体のスタッフに悲痛な思いを打ち明けました。
現在の状況について報道では「緊張」「緊迫」「最終局面」との表現もみられます。各国の動き、大局については、そのように捉えられる部分もありますが、政治的動向に翻弄され続けている市民をみると「カオス(混沌、大混乱)」という言葉の方がしっくりときます。情勢が1日でも早く沈静化し、これ以上、市民の犠牲者、避難者が出ないことを願うばかりですが、少しでも現地のニーズを満たせるよう、支援を届けていきます。
AAR は今年2月に、 協力団体を通じて、1ヵ月分の食糧パッケージを1万4千人以上に 配付しました。今後も新たに発生した国内避難民の方々を中心に緊急支援を続けていく予定です。1人でも多くの方へ食糧を届けていくため、皆さまのご協力をどうぞお願いいたします。