駐在員・事務局員日記

スーダン:想像を絶する過酷な作業-地雷除去現場で見たもの

2014年04月08日  スーダン
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執筆者

東京事務局
本多 麻純

2011年9月より東京事務局勤務。現在は主にスーダン事業を担当。米国の大学で文化人類学を専攻し、民間企業勤務を経てAARへ。趣味はサルサ。神奈川県出身

記事掲載時のプロフィールです

一言で「地雷対策」と言っても、地雷除去や地雷から身を守るための教育、被害者支援、また地雷について理解を深めてもらうための活動と、その内容は多岐にわたります。スーダンでは数多くの団体が地雷対策を行っていますが、その中でAARは地雷から身を守るための方法を住民に伝える活動を中心に行っています。スーダンに出張した東京事務局の本多麻純が、政府機関が行う地雷の除去現場を訪問しました。

4/11(金)「地雷対策の現場から―不発弾被害者ナデルが生きる道 サナが守る子どもたちの未来―」

スーダン東部に広がる地雷原

木のまばらな平原を歩く地元の住民

地雷原を行き来する地元の住民たち。AARが地雷から身を守るための方法を伝えてきたため、地雷除去が済んだ道を通ることができ、地雷事故を回避できています(2013年10月27日)

2013年10月27日、国連の地雷対策サービス部(UNMAS)に同行し、スーダンのカッサラ州で地雷対策に取り組むスーダン政府の地雷除去機関、National Demining Unit(NDU)の活動を視察してきました。

カッサラ市から車で3時間ほど北に行ったトーガン地区。この地区はもともと居住地域でしたが、スーダンの東部で1994年に紛争が始まってから地雷が多く埋められ、多くの住民は周辺地区に避難して生活しています。

しかし、水源が近くにあることや、土地が肥沃で放牧に適していることから、人々はトーガン地区への帰還を強く望んでいます。中には地雷原のすぐ近くに住み続け、被害に遭ってしまった村人もいます。NDUが地雷除去作業を開始後、AARも同地区の周辺で地雷から身を守る方法を伝える活動を実施しました。その結果、村人たちは安全な場所と危険な場所との区別を示す標識や目印がわかるようになり、新たな被害者は生まれていません。

いざ地雷除去現場へ

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地雷除去作業の説明をするNDU職員。除去現場では数種類の色を塗った石が目印として使われています

トーガン地区の地雷原は約50万平方メートル(東京ドーム約10個分)。地雷除去作業は2013年3月に開始され、私たちが視察した10月27日までに約35万平方メートルの地域の除去作業が終了していました。これまでに、対人地雷、対戦車地雷、手榴弾など、あわせて515個が発見されたそうです。

実際の作業を視察するため、安全対策に関する説明を受けた後、私も作業員と同じように防具をつけ、ヘルメットをかぶり、地雷除去現場まで行きました。赤と白の二色で塗られた石が並ぶ道を歩きます。白い側は安全な場所を示し、赤い側は地雷が埋まる可能性のある危険地帯を示します。そしてその赤い側が示す先には、地雷がごろごろと見えました。

除去作業員の命を守るものは

地雷探知の様子

地雷探知機を使って、少しずつ地雷を探します。炎天下での集中力を要する地道な作業です

地雷除去作業は、UNMASが策定する国際基準や、またそれに準拠する形でスーダン国立地雷対策センター(NMAC)の定める基準によって、細部に至るまで規定が設けられています。除去作業以外にも、作業員の訓練方法や作業の管理など、さまざまな項目に関する基準が設けられています。

まず、幅1メートル、前方最大40センチメートルのエリアと、その前方および左右各10センチの余白の上を、2回以上金属探知機で探知しながら地雷の有無を調べます。金属探知機は、爆発物により強い反応を示す地雷探知機が導入されています。探知機の反応がなければ、同じ手順を繰り返しながら、調査するエリアをさらに進めます。探知機が反応したら、反応のあったポイントの手前と左右に目印を置き、そのポイントを隔離し、掘削作業が始まります。

掘削作業に使う道具も国際基準で決まっており、金属の突き棒とシャベルのみです。「たったこれだけ?」と思われるかもしれませんが、地雷は繊細に扱わないといけないため、むしろシンプルな道具が有効なのです。さらに、突き棒を地面に突き刺す際は、角度は地面に対して30度で2.5㎝幅ごとに突き刺すなど、ルールを挙げればきりがありません。それだけ細かい作業を、集中力を欠かすことなく続けています。

見つかった地雷

地雷探知機が反応したポイントの手前と左右に目印を置き、掘削作業に入ります。奥に見える緑色の四角い物体が地雷です

地雷掘削に使う道具

このシャベルと突き棒のみで地雷を掘り起こしていきます

想像を絶する過酷さ

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重い防具と息苦しいバイザーをつけて地雷除去を行う作業員の過酷さを、身をもって実感しました(左がAARの本多麻純)

10月とはいえ日中の平均気温は30度を超える暑さ、そして直射日光を遮る大きな木や建物はありません。重い防具を着ると、汗がさらに流れ出ます。ヘルメットとプラスチックのバイザーを被ると、視野が狭くなる上息苦しさが増します。防具の重さと息苦しさ、そして暑さの中、私は5分で気を失いそうになりました。そこで長時間にわたり、安全管理がされているとはいえ、自らの四肢、ひいては命までを危険にさらしながら地雷除去を行う作業員。

百聞は一見にしかず。これまで過酷だと話に聞いていた地雷除去作業は、私の想像をはるかに超える、言葉では言い尽くせない神業でした。この日、現場を訪れた近隣住民の中には、以前地雷の被害に遭って手や足の指を失ってしまった親子もいました。村人たちが安全に暮らせるよう、そんな過酷な作業が地道に行われているのです。地雷除去作業は、本当に厳しい仕事でした。

再び人々が安心して住める土地に

2013年12月26日にトーガン地区の撤去作業は完了し、地元の人々へ土地を引き渡す、お祝いの式典が開催されました。この地区では、対人地雷689、対戦車地雷64、不発弾433、そして手榴弾などの小型武器360、合計1,546の爆発物が撤去されました。これによりトーガン地区が、地雷や不発弾の脅威から解放されたことになります。
式典では地元のハデンダワ民族による剣の舞が披露されるなど、地元の人々と地雷の撤去や地雷から身を守る教育に携わった団体・関係者で盛大にお祝いをしました。

スーダンから地雷や不発弾の被害に遭う人がいなくなる日を目指して、AARは、スーダンの政府機関や地元の団体などとともに活動を続けていきます。

式典に集まった人々

式典には地元有力者や住民のほか、除去作業員(緑のシャツ)も多く参加しました。左手前の赤いシャツがこの地区で地雷から身を守る方法を村人たちに伝えたAARスタッフのモハメド

剣の舞のようす

地元住民のハデンダワ民族により、土地の譲渡をお祝いして剣の舞が披露されました。彼らは護身用に剣を常に身に着けています

この活動は皆さまからのご寄付に加え、国連地雷対策サービス部(UNMAS)の助成を受けて実施しています。

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