駐在員・事務局員日記

ケニア:難民を受け入れる地域に暮らすトゥルカナ民族の一日

2019年08月07日  ケニア事務局員日記
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執筆者

ケニア事務所
駒橋冴季(こまはしさき)

大学では国際協力に関するスタディツアーを運営。システムエンジニアとして勤務した後、青年海外協力隊へ。イギリスの大学院では教育開発を専攻。教育を通じた若者の雇用支援に携わるためAARに入職し2019年3月よりケニア事務所駐在。埼玉県出身。

記事掲載時のプロフィールです

ケニア北西部にあるトゥルカナ郡カクマには、世界で4番目に大きい規模といわれるカクマ難民キャンプがあります(2018年時点)。ここには20以上の国から来た難民が19万人近く暮らしています。難民についてはニュースなどでもよく耳にしますが、今回は難民を受け入れている地域に暮らすトゥルカナ民族の人たちの声をお届けします。受け入れている側の方たちは、どんな人々でどのような暮らしをしているのでしょうか。

トゥルカナ民族とは・・・

トゥルカナ民族はケニアで3番目に人数の多い民族で、85万人以上います(2009年ケニア国勢調査)。彼らは遊牧民で、ヤギ、ラクダ、ウシ、ロバ、ニワトリなどを飼って生活しています。AARの活動地であるカクマの市内を歩いていると、いたるところにヤギを見かけます。AARの現地スタッフによると、これらの家畜は買えるそうで、ヤギ1頭を生きたまま買ってきて庭で捌けば、その肉で2、3週間は4人分の食事がまかなえるそうです。

女性はシャンガと呼ばれるカラフルに積み上げられた首輪と、カンガやシュカなど伝統的な布をまとうのが一般的です。

4人のトゥルカナ民族が並び、そのうちの一人は子どもで手をつないでいる。アフリカの伝統的な布をまとっている。

髪型も特徴的で、頭頂部以外を剃っている人を多く見かけます(2019年7月19日、ケニア・カクマ)

AAR駐在員の駒橋が、杖を持ち、首輪と布を装着し微笑む。隣にはトゥルカナ民族が一人いる。

トゥルカナ民族の結婚式にお邪魔したときに、首輪をつけさせてもらったAAR駐在員の駒橋冴季(2019年6月13日、ケニア・カクマ)

4人の男性が並び、全員がエキチャロンを持つ。サンダルを履き布を腰や体に巻き付けている。

男性はエキチャロンという小さな木製のいすのくっついた長い杖を持っているのが特徴です。棒はいすとしてはもちろん、自己防衛や家畜のしつけ、杖替わりなどに使われます。羽が付いた帽子もかぶります(2019年7月19日、ケニア・カクマ)

トゥルカナ民族の住まいは、マニヤッタと呼ばれる細い木の枝と布やビニールで作られた丸い建物です。台所は別にあり、ビニールなどはなく木だけで作られていました。基本的には女性と子どもが優先して使い、男性は外で寝ることも多いそうです。

ドーム型に建てられたマニヤッタは、全体が木で作られており、上部にビニールや布がかぶさっている

マニヤッタはカクマのあちこちに立てられています。ここに9人ほどが入るそうです(2019年7月19日、カクマ)

一日の暮らしや、難民の受け入れについてインタビュー

今回、トゥルカナ族の家族にインタビューをしてみました。話を聞いたのは、9人家族の父親のトーマスさん(50代)、母親のアグネスさん(60代)、息子のサミュエルさん(30代)、娘のドーカスさん(20代)。余談ですが皆さんが自分の正確な年齢を知らないことに驚きました。彼らはトゥルカナ語を話すので、トゥルカナ民族出身のAAR現地スタッフに通訳をしてもらいました。

大人と子ども10人以上が立ってカメラを向いている。伝統衣装やシャツを着ている。背景にはマニヤッタが写る

インタビューをした一家と、近所に暮らす方々 (2019年7月19日、ケニア・カクマ)

地べたやプラスチックのタンクを椅子代わりとして座る。父親と母親は後ろにあるマニヤッタの壁に寄りかかっている

円になりインタビューを開始。左から、AAR駐在員の駒橋冴季、息子のサミュエルさん、父親のトーマスさん、母親のアグネスさん、娘のドーカスさん。右端で座っているのは通訳したAAR現地スタッフ(2019年7月19日、ケニア・カクマ)

まず一日の生活を聞いてみました。一番早起きなのは息子さんで5時頃起床し、動物の世話をしてから、炭を作るため木を集めてきて焼きます。お父さんも8時頃起床して、木を集めてきます。できあがった炭を頭に乗せてカクマ市内や難民キャンプまで売りに歩くのはお母さんの仕事です。かなりの長距離を歩くそうで、行って帰ってくるだけで一日が終わってしまうそうです。帰りには食料も買って運んできます。重労働ですが、それでも物を運んで売りに行くのは女性の仕事と決まっています。先ほどのマニヤッタも女性が建てます。お母さんが町に出ている間に、お父さんと息子さんは畑仕事をします。彼らが主に育てているのはソルガムと呼ばれる穀物の一種で、トゥルカナの人はそのまま食べたり茹でて食べたりするそうです。

白い小さな粒が多く連なりまとまりを作っている

雨季に採れるソルガム。トゥルカナ民族の主食は肉とミルクだそうです(2019年7月19日、ケニア・カクマ)

農作業が終わるとお父さんと息子さんは家に戻ってきて、あとは座ってリラックスします。娘さんは常に家で留守番をしており、子どもたちや家畜のヤギが戻ってきたときの世話をします。訪問したときは娘さんは洗濯をしていました。夕飯は食べたり食べなかったりするそうで、食べ物を買うお金がないときは近所に食べ物をもらいに行くのが娘さんの役割です。

一家にトゥルカナ民族の良いところを聞いてみると、「争いごとが少なく平和なところ」と答えが返ってきました。食糧不足や水不足で空腹なときは多いそうですが、そういうものだと受け入れて慣れている、と話していました。

また、海外からの援助団体には、良いイメージを持っているとのことでした。その理由は、コレラや飢餓が発生した際に薬や食料を配布しに来てくれるから、と話していました。

次に、難民についてどのように思っているかを聞いてみました。このご家族は町に出た時によく難民の人たちに出会い、彼らのことを知っているそうで、好きだとおっしゃっていました。けれども、数週間前に難民とトゥルカナ民族の間で抗争が勃発したため、最近は難民が怖いと感じることもあると話していました。正確な原因は不明ですが、トゥルカナ民族が難民を殺害したという噂が広がったため、難民に復讐されるのではないかと懸念されていました。実際、両者の間では、いざこざが起こることもあります。

難民を受け入れる地域側が「難民ばかり手厚い支援がされる」と感じることで、その不満が対立の火種になることもあります。ここカクマや近隣のカロベイエ地域では、国連をはじめ援助団体は、難民と受け入れる側の人々の関係が悪化しないように、バランスを考えた支援を行っています。

今回はカクマの難民受け入れ地域に暮らすトゥルカナ民族を紹介させていただきました。AARは今後も両者が相互理解し、良好な関係を築いていけるように支援を進めていきます。

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