ザンビア・メヘバ事務所
古藤誠一朗(ことう せいいちろう)
ウガンダ:子どもたちの夢が壁一面に
2019年6月よりウガンダに駐在し難民居住地で教育支援を担当。9月からザンビア・メヘバ事務所駐在。中学時代に世界の格差を知り、国際協力に関心を持つ。大学では国際法を専攻。銀行に勤務した後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。「難民の人たちの目線にたって活動していきたい」。福岡県出身
記事掲載時のプロフィールです
AAR Japan[難民を助ける会]は、ウガンダで南スーダン難民および受け入れ地域の子どもたちへの教育支援に力を入れています。活動拠点の一つである北部ユンベ県にあるビディビディ難民居住区では、学校建設や生徒たちが充実した時間を学校で過ごせるようなサポートをしています。
今回は同地で開催されたイベントについて、現地事業に従事した古藤誠一朗がご紹介します。
子どもたちが一心不乱に描いたものは
2019年4月、AARの支援によって難民居住地にあるアリワ中学校の理科実験室棟が完成しました。8月にはその校舎がユニークな外観に変わり、お披露目会が開催されました。校舎の壁には、子どもたちが中心となり、想像力あふれんばかりの絵が描きこまれました。この活動をサポートしたのは、Artolutionという団体です。同団体はアメリカ発のNGOで、社会から疎外されがちな方々に向け、アートを通じて自信をつけたり社会とのつながりが作れるよう、活動しています。
Artolutionのコーディネーターは、生徒一人ひとりに語りかけ、夢や好きなもの、描きたいものなどを子どもたちから引き出し、一緒に表現しました。ウガンダへ難民として逃げてくる過程で家族を失ったり、孤独や自尊心の喪失といったつらい感情に苛まれる生徒も少なくありません。言葉では上手く表現できない気持ちを絵に変えていく作業は、心のケアにもなり、これからの未来を力強く生きていくために非常に大切なことです。
作成中は、授業が終わって教室から出てきた子どもたちが、おもむろに筆をとって一心不乱に壁に向う姿が見られました。ある子どもはほかの人が気づかないくらい、一人で静かに壁に向かい黙々と作業を進めていました。またある子どもは、少し恥ずかしそうな様子を見せつつも楽しそうに描いていていたりと、十人十色です。
アートの力で希望と笑顔を
子どもたちの思いがたくさん詰まった校舎の壁がついに完成し、8月にお披露目会が開催されました。お披露目会では、ArtolutionとAARが企画した催しを行ったり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の職員をはじめ、地元の関係省庁の方々も参列し、華やかな時間となりました。
Artolutionの共同設立者兼共同取締役のマックス・フリーダー氏は、「アートの力で希望と笑顔を作り出す素晴らしさを再認識したとともに、生徒の自主性が見られた活動でした」と満面の笑みで語りました。また、AARウガンダ事務所統括の雨宮知子は「ビディビディ難民居住区で最初の理科室を建設・整備したことで、アリワ中学校は特別な中学校となりましたが、今回のアートプログラムのおかげで、さらに特別な存在になったと思います。AARはその一助になれたことを嬉しく思います」とその喜びを伝えました。
難民と受け入れ地域が団結
今後もアート活動は学校の活動として継続されていく予定です。今回結成されたアリワ中学校のアートチーム代表の生徒からは、「難民(南スーダン難民)の子どもたちと地元(ウガンダ)の子どもたちが団結できてよかった。心がこもった活動にできて嬉しく思う」と、自身が感じたことを素直に伝えてくれました。
難民として逃げてくる過程で起きたできごとにより、つらい感情に苛まれる子どもたちが少なくない中、言葉では表現できない気持ちを絵に変え、また、アート活動を通してコミュニティ全体として一体感が増すことにより、ビディビディ難民居住区から再スタートする彼らの将来が少しでも明るくなることを切に願う一日でした。