アフガニスタン出張報告:古川千晶が見た地雷回避教育の現場
世界有数の地雷・不発弾汚染国であるアフガニスタン。AARは、2002年より首都カブールに事務所をおき、地雷の被害に遭わないための教育活動を行っています。9月に現地に出張した東京事務局の古川千晶が、最新の活動を報告します。
爆弾テロや自爆攻撃に警備も厳重化
「まるで銀行の地下金庫みたい」。カブール市内のスーパーの入り口に立ったときの感想です。地元の人も利用する普通のスーパーですが、店の前には銃を持った警備員、そして金属製の分厚い扉。建物には窓もありませんでした。タリバンどの反政府武装勢力による外国人を狙ったテロや自爆攻撃が多発しているカブールでは、人が多く集まる場所の警備が年々厳しくなっています。ちょうど滞在していた9月18日にも空港近くで外国人を含む12人が死亡する爆破テロが起きました。そんな状況のなか、AARの事務所も武装勢力によるテロの標的にならないようするため、事務所の看板や車のロゴをはずなど、外国の団体であることがわからないよう配慮して活動しています。
成人女性への教育を強化し、子どもたちを守りたい
AARが地雷回避教育を開始した10年前、報告されているだけで年間2,116人(※1)が地雷・不発弾の被害に遭っていました。昨年の被害者数は409人(※2)。AARなどのさまざまなや団体や国際機関が行っているマーキングや除去、回避教育といった対策の成果ではないかと思います。
AARは、映画やポスターなど、独自に開発した教材を使った講習会を開き、年間約5万人を対象に地雷回避教育を行っています。しかし、女性が家族以外の男性に会うことはタブーとされているため、成人女性の参加者数は男性の30分の1という低さに留まっていました。そこで、2012年3月より女性スタッフを採用し、成人女性向けの講習会を始めました。
厳しい男女隔離の社会で
9月19日、20~50代の女性約20名が参加する女性支援団体の集会で講習を行いました。まず、AARが制作した映画を見てもらい、その後、女性講師が「地雷はどんな場所にありましたか?」「不発弾をみつけたらどのような行動をとったら良いですか?」など、質問を投げかけながら映画の重要なポイントを復習します。女性たちは真剣な眼差しで映画を見て、シャリファの質問にも熱心に答えていました。
参加した57歳の女性は、「私の弟は、ソ連侵攻時代に埋められた地雷で脚を失いました。そのことを私は家族に伝えているけれど、今の若いお母さんはその時代を知らない。子どもたちを守るためにも、女性への回避教育をもっと行ってほしい」と話してくれました。講習の後、参加者にインタビューするために通訳をしてほしいと、私は部屋の外で待機していた男性スタッフを呼びました。彼の声が聞こえただけで、会場には緊張が走り、顔を見せていた女性たちが一斉にスカーフをかぶり険しい顔でうつむきました。一瞬の出来事でしたが、男性と女性が顔を合わせることすら難しいアフガニスタン社会の現実を垣間見ました。女性たちに知識を届けるために、女性講師が果たす役割の重要性をさらに強く実感しました。
テレビやラジオを使って全国に広めています
AARでは、講習会のほかテレビやラジオを使った地雷回避教育も行っています。テレビ・ラジオともに4分ほどのドラマで、ラジオは月15回、テレビは月8回ほど全国放送しています。脚本はカブール事務所のスタッフが書き、プロの俳優・声優が演じています。我々が足を運ぶことができない地域の方にも、地雷の事故に遭わないための方法を伝えることができます。さらに、番組を視聴した人にどれだけ知識や行動に変化がみられるのか、視聴者100人を対象に追跡調査も実施しています。
また、最近では幹線道路や道路脇などに置かれ、遠隔操作で車両や通行人を攻撃する即席爆発装置(IED:Improvised Explosive Device)の被害も増加しています。2011年だけで約1,000人が事故に巻き込まれ死亡したと報告されています※3。AARは道端に設置されたIEDの写真などを見せ、「こうしたものに近づかないように」と伝えるなど、IED被害を避ける方法についても講習会で教えています。
子どもたちの安全を守るためにも
現在、アフガニスタンで地雷回避教育を行っているのは4団体、そのうち成人女性を対象に回避教育を行っているのはAARを含めて2団体のみです。家庭内で女性が家族や子どもたちに知識を伝えていくことで、本人だけでなくその家族を被害から守ることができます。アフガニスタンの人々の安全を守るため、女性向け講習会の開催を継続します。また、今後は地雷・不発弾被害者を含む障害者の権利の向上のための啓発活動にも取り組んでまいります。
地雷除去団体「HALO TRUST」を通じた除去活動 | |
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AARは、1999年よりイギリスの地雷除去団体「ヘイロー・トラスト」を通じてアフガニスタンの地雷除去を実施しています。アフガニスタンには、611平方キロメートルの地雷・不発弾汚染地域が残されており、人口の3.7%が地雷原から500m以内に家があるという、大変危険な状況の中で暮らしています。現在、AARは北部のバグラン県の除去を支援しており、2012年4月から6月の3ヵ月間で、11,320平方メートルの地雷原を安全な土地にしました。また、多くの元タリバン兵が除去員として雇われており、兵士の社会復帰の取り組みにもなっています。 |
※1、※2、※3:アフガニスタン地雷対策調整センター(MACCA)による
※この活動は皆さまからのご寄付のほか、ジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 古川 千晶
大学卒業後、人材コンサルティング会社などを経てイギリスの大学院で国際開発学を学び、帰国後AARへ。2010年10月よりハイチ駐在。2012年1月より東京事務局でアフガニスタン事業を担当(大阪府出身)