シリア難民:障がいのある方々や銃弾で傷ついた方々へ車いすなどを届けています
AARの6月6日(木)の緊急報告会では、シリア難民支援活動の最新の情報を、現地より帰国した景平義文がお話しします。 |
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長期化しているシリア内戦はこの3月で2年を超え、今なお収束の兆しが見えません。国連によると、隣国に避難するシリア難民は150万人にのぼり、トルコにも40万人以上が逃れています。トルコでシリア難民支援を行う唯一の日本のNGOであるAARは、昨年10月よりトルコ南東部での物資支援を行い、これまでシリア難民の1,800世帯に食料と生活必需品を配付しました。今年2月からは同地域で教育支援と障がい者支援も行っています。現地に出張中の雨宮知子が、障がい者支援について報告します。
「砲撃の中、車いすを持っては逃げられませんでした」
13歳のユセフくんは2ヵ月前に家族とともにシリアからトルコへ避難してきました。シリアの自宅付近では日夜砲撃が止まず、国内の別の村に逃げましたが、1ヵ月ほどするとそこも危険になり、やむなく祖国を離れたのです。生まれつき両足に障がいのあるユセフくんは4人兄弟の末っ子です。シリアでは車いすで生活し、お兄さんたちに車いすを押してもらい学校へ通うなど、毎日楽しく過ごしていました。しかし避難したときに最低限の荷物しか運べず、車いすを持ってくることができませんでした。そのため、トルコへ来てからは、家の中で何をするにもお母さんに抱えられて移動していました。
私たちがこの3月に理学療法士とともに車いすを届けると、早速乗って部屋の中を何度も駆け回りました。1ヵ月ほどして様子を見に行ってみると、ユセフくんは「お兄ちゃんたちと何度も公園に行ったよ」と笑顔で話してくれました。家の中でも自分で動けるようになったので、家族の負担も減りました。「抱っこされて外に出るのが恥ずかしくて、これまでずっと家の中で過ごしていたユセフが、自分から外に出かけたがるようになったことが一番嬉しいです」と、お母さんも喜んでいます。
ユセフくん一家のように、故郷を離れて難民として暮らす方たちは、多くの場合安定した収入がありません。そのうえ障がいのある方は、慣れない家や地域での暮らしから、日常生活に大変苦労しています。こうした方々の移動が楽になるよう、AARはこれまでにシリアからハタイ県へ逃れてきた42名の障がいのある方々へ、車いすや松葉杖などの歩行補助具をお届けしました。
内戦により傷ついても、消えぬ祖国への愛
ユセフくんたちの住む地域とは別の国境の町には、砲撃や銃撃を受けた人々も多く逃れてきています。頭や身体に銃弾を受け、半身や全身の麻痺、脊髄損傷、足切断というケースがたくさんあります。現場で応急処置を受けた人々はシリア人の医者や理学療法士などが開設した療養所やリハビリセンターに次々と運ばれます。シリア人同士でなんとか助け合おうとしていますが、既存の設備でのリハビリはできるものの、患者一人ひとりの障がいに合う装具を用意するまでの余裕はありません。そこでAARでは、理学療法士とともに一人ひとりの症状に合わせた歩行補助具や装具を46名にお届けしました。
大変な状況下にありながら、私が出会った方々は皆が、「いつかこの戦争が終わったら、シリアにぜひ来てくれ」と話してくれます。混迷を深めるシリア内戦ですが、彼らが一日も早く愛する故郷へ帰れる日を願わずにはいられません。
※シリアの政治情況に鑑み、登場する難民やその関係者に不利益の生じないよう仮名を使うとともに、活動地域の詳細を省略しております。ご理解いただけますと幸いです。
※この活動は、皆さまからのあたたかいご寄付に加え、ジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 雨宮 知子
2012年11月よりAARでシリア難民支援事業担当。「難民の方々からは深い祖国愛を感じます。彼らの愛するシリアに、いつか行ってみたい。」企業勤務を経て、青年海外協力隊員としてニカラグアで活動後、AARへ。大阪府出身