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ミャンマー:地雷・不発弾対策「障がいがあっても安心して暮らせる環境を」

2014年06月11日  ミャンマー地雷対策
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「世界最悪の地雷汚染国のひとつ」と言われるミャンマー。中でも被害が深刻なカレン州で、AAR Japan[難民を助ける会]は2013年7月より州都パアンに事務所を設置し、被害者への支援と地雷回避教育の教材開発を行っています。パアン事務所の中川善雄が報告します。

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地雷被害者が多く住むミャンマー・カレン州のティサエイミャイン村で、道路や貯水槽の整備を行いました。村の住民が華やかな民族衣装で完成を祝った竣工式。前列左から2人目は駐在員の角田由美子(2014年4月27日)

深刻な被害、進んでいない対策

ミャンマーでは、少数民族の独立・自治を求める長年にわたる抗争や宗教上の対立により多数の地雷が使われ、その多くが残されたままとなっています。1999年から2012年の14年間で、報告されただけでも被害者数は3,349名に上りますが、実際の数はさらに多いと考えられています。
AARが活動するカレン州は、ミャンマーの中でも最も地雷の被害が深刻な地域です。2012年に報告された国内の被害者106名のうち半数以上が同州での被害です。カレン州は被害が多いにも関わらず対策が遅れており、ミャンマーの他の州では行われている地雷回避教育や被害者への支援は、ほとんど実施されていません。AARは、地雷被害者94名が暮らすカレン州ティサエイミャイン村(人口約1,500名) で支援活動を始めました。

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カレン州ティサエイミャイン村の主要道路にある大きな溝。住民は丸太を架けて渡っていました(2013年12月)

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村の住民の生活用水を供給する貯水槽。雨ざらしな上に、周囲も整地されておらず、危険な状態でした(2013年12月)

被害者が暮らす村の住環境を整備

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地雷被害者の多くが、松葉杖や義足を使って生活しています

この村は、村内の生活用道路や給水設備が未整備で、特に地雷被害者を含む下肢障がいや視覚障がいのある人々は、大変不便な生活を強いられていました。
村の中央を走る主要道路は舗装されておらず、大小の石や岩が無数に転がっているだけではなく、雨季の豪雨によって幅2メートル、深さ1メートルを超える溝ができていました。住民は細い丸太を橋がわりにしていましたが、障がい者だけではなく子どもたちが利用するのにも大変危険な状態でした。
また、住民は村内29ヵ所の貯水槽から、炊事、洗濯、水浴びなどに使う生活用水を得ていますが、貯水槽の上には屋根がなく、周囲には石や岩が転がり、不衛生かつ危険な状態でした。世帯あたりの貯水槽の数も不足していたため、水浴びの回数も少なくなり、皮膚病や感染症を引き起こす恐れがありました。
AARは、住民からの要望が高かった貯水槽の修理・新設、村内の主要道路の舗装、橋の設置を行いました。

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村の主要道路をコンクリートで舗装し、橋も設置しました(2014年3月)

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貯水槽には屋根を取り付け、周囲も整備。障がいのある方でも安全に使えるようになりました(2014年3月)

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「貯水槽をきれいに保つにはどうしたらいい?」水管理委員会で話し合い。日頃は障がいがあるため引きこもりがちな地雷被害者もメンバーとなり、積極的に参加してくれています(2014年2月14日)

全長約900メートルの主要道路をコンクリートで舗装し、丸太がかけられていた3ヵ所の溝には橋を設置しました。修理・新設した貯水層32 基には、屋根と手すりを取りつけるとともに、周囲の石や岩を取り除きました。子どもや障がい者が村内を安全に移動し、安心して水を得られる環境を整えました。また、AARは住民主体の水管理委員会を組織し、整備した貯水槽の掃除や修理などの管理を、住民自身が行う体制も整えています。

竣工式では、たくさんの感謝の声

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州首相による挨拶では、被害者の方々を励ます言葉が寄せられました(2014年4月27日)

2014年4月27日に開催した、工事の完了を祝う竣工式には、カレン州首相をはじめ、州の関連部局の幹部や多くの住民が出席してくれました。首相のウー・ゾーミン氏は、「AARの支援で地雷被害に遭った方でも暮らしやすくなりました。これからは、たとえ障がいがあっても、自分の能力を活かして働いていきましょう」と激励の言葉を述べました。住民からは、「貯水槽の上に屋根を取り付けてもらったおかげで、水が以前よりきれいになりました。気持ちよく水浴びや洗濯ができるようになりました。ありがとう」「道路が舗装され、橋も新しくなり、特に足の不自由な人たちや子どもが歩きやすくなりました。以前はよく転ぶ人たちがいました。これから雨期に向かうので、安全に歩けると本当に助かります」など、たくさんの感謝の声が寄せられました。

衛生環境の改善にも取組みます

今後は、ティサエイミャイン村で不足している公衆トイレの整備や村内の上水道の修理なども行い、衛生環境の改善にも取り組んでいく予定です。公衆トイレには、バリアフリー設計を取り入れることで、障がいの有無に関わらず、誰もが利用しやすい生活環境を目指します。

カレン州では、少数民族グループと政府との和平プロセスは進んでいますが、紛争が再び勃発する可能性も十分にあると考えられています。治安面や政治的な理由から、AARが活動できる地域や支援内容には、どうしても制約が出てしまいます。このような状況ではありますが、政治的に中立の立場で、必要な支援を届けることができるように、活動してまいります。

村がとても住みやすい環境になりました。ありがとう
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ウ・チー・エイさん(中央) に話を聞く、AAR 東京事務局の山本祐一郎(左) とパアン事務所のソー・ヨシュ(2014年4月10日)

「17年前、29歳のときにカレン州内のクイリン村という場所で地雷を踏み、左足のひざ下を完全に失いました。2012年から、妻と5人の子どもとこの村に住んでいます。村が少しずつ整備され、とても住みやすい環境になり本当に感謝しています。水管理委員会のメンバーとなったので、子どもや若い世代に、きれいな水や掃除の大切さを伝えていきたいです。また、自分自身の地雷被害体験や地雷の恐ろしさについても、若い世代に伝えていきたいと思います」

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

ミャンマー・パアン事務所駐在 中川 善雄

大学卒業後、日本赤十字社に約5年勤務。その後、国際協力の現場を希望しAARへ。2011年3月から2013年9月までタジキスタン駐在、2013年10月よりミャンマー・パアン事務所駐在。「今までの経験と、日々学んでいることを活かして、自分が今できるベストを尽くしたい」趣味はジョギング。神奈川県出身

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