ミャンマー:障がい者の社会参加で変わる地域の様子
ミャンマー駐在員の北朱美が長崎市でお話しします。ぜひご参加ください。 9月7日(日)AARスタッフが長崎で国際協力を語ります |
AARは1999年よりミャンマーで、障がい者のための職業訓練や、就労・就学支援などを通して、障がい者がより社会活動に参加していけるよう、さまざまな取り組みを行っています。2009年からはヤンゴン地域郊外で、障がい当事者が中心となって行う、地域住民の「障がい」への理解を深めるための活動も支援しています(地域に根差したリハビリテーション事業:Community Based Rehabilitation)。支援開始から5年、地域住民の意識や行動にどのような変化が見えてきたのか、駐在員の北朱美がご報告します。
一人ひとりの力を集めて、グループでの活動で地域を変える
AARが活動する、ヤンゴン郊外のダラ地区、シュエピター地区は、日雇い労働者が多く、経済的に貧しい人々が多く住む地区です。住宅地の道路舗装は進んでおらず、公共のバスもステップが高く、地域のバリアフリー化は遅れています。また、学用品や学費が支払えないといった経済的な理由に加え、「障がい者は家族の世話になりながら家の中で一日中過ごすのが当然」、「障がいがあると学校に通うことはできない」という誤った認識や偏見が根強く、家に閉じこもっている方が多くいます。
こうした状況を改善するためには、障がいがあってもなくても、就学や就労といった社会参加の機会が与えられ、インフラや公共施設のバリアフリー化など環境を変えることで障がい者も外へ出ていけることを、障がい当事者やその家族を含めた地域住民全体で理解する必要があります。
そこでAARは、地域住民をはじめ、地域行政・学校関係者に、地域の障がい者の存在を知ってもらう活動から始めました。まず、障がい当事者やその家族を中心として10人程のグループを作りました。障がい者の教育や社会参加の権利、個人ではなくグループで活動することの強みや利点などをワークショップ形式で説明。その後AARはグループの定期的なミーティングに参加し、メンバーが地域住民との交流イベントなどを主体的に計画、実施できるよう助言しました。さらに、小規模な店舗を経営できるようリーダーシップや会計についての研修を実施し、開業資金などを提供しました。これにより障がい者も働くことができるということを地域住民に示し、同時に障がい者の就労の機会をつくることができました。
これまでにAARは18のグループを設立。現在障がい者やその家族など220名が参加し、活発に活動しています。このうち、6グループは理容・美容店、洋裁店、タイピング・印刷店などを開きました。
障がい者グループが地域で担う役割
障がい者を中心としたグループのこれまでの活動が、地域住民や教員の「障がい」に対する見方を変えています。グループのひとつにAARが2012年にダラ地区で設立した「ラ・トゥエ・ポー」(「パートナーとして助けあう」の意)というグループがあります。メンバーは現在12名で、重度脳性まひの障がい児をもつ母親を中心として、障がい者の家族、肢体や視覚に障がいのある方が参加し、AARと一緒に活動を発展させてきました。
「ラ・トゥエ・ポー」設立当初、地域住民とメンバーが触れ合う機会をつくり、障がい者の存在を知ってもらうため、学校や地域の清掃活動を行いました。それまで障がい児の受け入れを実施していなかった学校で、3ヵ月に1回のペースでこれまで6回実施。継続的に学校の周囲の草刈りや清掃をすることで、グループメンバーと教員の間での会話や交流が増えました。メンバーは教員との会話の中で、「障がい児が学校に行けないのは仕方がないことだと思っていたがグループで『障がい』について学び、障がいに合った配慮をしてもらえれば、学校で教育を受けられるとわかった」「障がいがあっても学べるよう環境を整備してほしい」と伝えていきました。 その結果、これまで障がい児への教育の必要性をあまり認識していなかった学校が、障がいに関する知識や障がい児指導法を学ぶ研修に教員を参加させ、障がい児も学べるよう教育環境を整え始めてくれたのです。昨年6月からは、障がい児1人の受け入れが始まりました。
また、グループの活動資金調達のため販売したメンバーの手作り石けんが住民の間で評判となり、「どうやって作ったのですか」「使い心地が良いですね」と、声をかけてくれるようになり、地域住民との交流も広がりました。さらに、今年8月からは、「ラ・トゥエ・ポー」のメンバーがAARの支援で雑貨店を開業します。
ほかのグループのメンバーからも、「普段外出する機会の少ない障がい者を対象にした遠足に、地域住民が障がい者の移動を手伝おうと参加してくれるようになりました」、「ワークショップやイベントの開催時に、地区長たちが地域住民の参加呼びかけを手伝ってくれるようになりました」と、グループの活動が地域住民の意識や行動を変えたという嬉しい報告が届いています。
励まし合い、刺激し合う場にも
グループの存在は、障がい当事者同士、または家族同士が障がいについての悩みを打ち明け、励まし合う場にもなっています。参加メンバーの一人で両脚に障がいのあるモー・モー・カインさん(22歳)は、「自分の障がいについて否定的になったり、落ち込んだりすることもありますが、グループの活動を通じて悩みを相談したり、話し合うことで気持ちが前向きになります」と話してくれました。
障がいのある方の中にはこれまで学校教育の機会が限られていたため、家族以外の人と一緒に何かに取り組んだことがなく、初めはグループ活動を苦手とする方も多くいます。しかし多くの方が少しずつ慣れ、中にはメンバーの意見をまとめ、グループを率いていけるようになった方もいます。AARは今後も、障がい者グループの活動が地域に根付き、地域住民1人ひとりの障がいに対する意識や行動を障がい者グループが中心となって変えていけるよう、支援を続けていきます。
※この活動は皆さまからの温かいご寄付に加え、外務省NGO連携資金無償協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ミャンマー・ヤンゴン事務所 北朱美(あけみ)
ザンビア事務所駐在を経て、2012年2月よりミャンマー事務所駐在。臨床検査技師として病院に勤務した後、カナダとタイで公衆衛生を学ぶ。帰国後、AARへ。長崎県出身