アフガニスタンの地雷対策-希望はどこにあるのか?
地雷被害者に寄り添い続けて20年
AAR Japan[難民を助ける会]が地雷廃絶キャンペーン絵本『地雷ではなく花をください』(絵・葉祥明、文 ・柳瀬房子 発行・自由国民社、61万部発行)の純益を活用し、アフガニスタンでの地雷除去活動を支援し始めてから20年以上。2002年1月に首都カブールに事務所を設けてから18年になります。この間、アフガニスタンには人道支援のニーズが多くある中でも、AARは地雷除去、被害者支援、地雷回避教育を続けてきました。その理由は簡単です。地雷がある限り、人々の生活に平穏が訪れないからです。
AARを含む国際社会の地雷対策は、アフガニスタンの地雷被害の軽減に大きな役割を果たしてきたことは間違いありません。実際、AARが一員を務める地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)が毎年発行する「Landmine Monitor」報告書(年間の地雷の使用状況や被害者数、除去の状況などをまとめたもの)を振り返ると、死傷者がある時点まで順調に減少しています。
「Landmine Monitor」報告書によると、 アフガニスタンで1973年に地雷や不発弾により死傷した人は1日あたり20~40人。年間にすると7,300~14,600人にものぼります。しかし統計を取るようになった2000年以降は除去活動や回避教育などの地雷対策の効果が少しずつ表れ、2006年は年間死傷者が796人にまで減少しました。その後は2011年まで、例外の年はあったものの毎年数百人規模で推移していました。もちろんそれでも十分大きな数字であることは言うまでもありません。なぜなら、一つひとつの数字の背後には多くの痛み、悲しみ、嘆きが存在するからです。
死傷者数増加の理由
しかしながら、せっかく減少傾向にあった被害も2012年を境に増加。2018年11月に発効された最新の「Landmine Monitor 2018」報告書によると、2017年にはアフガニスタンで年間2,300人の死傷者が報告されました。この数字は誠に残念ながら、死傷者数が以前の水準に戻ってしまったと言わざるを得ません。被害者数増加の最大の理由は即席爆発装置とも訳されるImprovised Explosive Device(以下IED)です。その名の通り、即席で作ることも十分可能なため、数多く使用されています。
2017年には国連安全保障理事会決議2365号が全会一致で採択され、その中で「武力紛争のすべての当事者に対し、国際人道法に違反する爆発装置の使用を即時に且つ最終的に終了するよう要請し、一般市民を地雷、ERW(Explosive Remnants of War:不発弾や戦争中に遺棄された爆弾)、IEDの脅威から保護する義務に留意し、且つ、国際社会に対し、これらの装置の除去努力の支持と支援、被害者及び障がい者への各種支援の提供を要請する」と宣言しています。それにも関わらず、現実は厳しく、イギリスの国際NGO「ACTION ON ARMED VIOLENCE」は、2018年上半期(2018年1月~2018年6月)には2,002人の民間人が爆発物の被害に遭っており、その80%がIEDによるものと報告しています。
地雷ゼロを目指して
現在もAARは全国レベルでのラジオ放送も含めて、アフガニスタンで地雷や不発弾、IEDの危険から身を守るための活動を行っています。2002年の活動開始以来、地域に根差した140人のボランティア指導員が村々を訪れ、のべ90万以上の人々へ地雷から身を守るための教育活動を行っています。しかし、被害を減らすのは容易ではなく、じくじたる思いに駆られることがあります。
そうしたときに思い出すのがカンボジアです。アフガニスタンと同じように戦争を経験し、地雷や不発弾により多くの死傷者を出しながらも、国際的な支援も手伝って死傷者を大幅に減らしています。カンボジアこそ、アフガニスタンでの地雷対策に携わる者にとっての希望です。
「Landmine Monitor 2018」報告書によれば、1998年に1,249人だったカンボジアの地雷・不発弾による死傷者数は、その後の政府や国際支援団体による地雷対策の取り組みにより年々その数を減らし、2017年には58人にまで減少しています。カンボジアはAARが絵本『地雷ではなく花をください』の純益で地雷除去を開始した国であり、株式会社東京放送(TBS)による開局50周年記念「地雷ゼロキャンペーン」および作曲家・坂本龍一さんの呼びかけで制作されたCD『ZERO LANDMINE』の純益や皆さまからのご寄付で除去活動を行った国でもあります。モザンビークも同様で、同国では地雷や不発弾による死傷者数が2014年以降10人を下回り、2018年には7人にまで減少しています。
アフガニスタンでは現在も戦闘が続いているため、内戦が終わったカンボジアやモザンビークのようにはいかないでしょう。アフガニスタンがカンボジアのように、ましてモザンビークのようになるにはもっともっとたくさんの時間と支援が必要になるかもしれません。とはいえ、続けていくことでしか解決できないことがあります。AARはこれからもアフガニスタンでの地雷対策活動を続けてまいります。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 紺野 誠二
2000年4月から約10ヵ月イギリスの地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向、不発弾・地雷除去作業に従事。その後2008年3月までAARにて地雷対策、啓発、緊急支援を担当。AAR離職後に社会福祉士、精神保健福祉士の資格取得。海外の障がい者支援、国内の社会福祉、子ども支援の国際協力NGOでの勤務を経て2018年2月に復帰。茨城県出身