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アフリカの平和を促進するために-TICAD7(第7回アフリカ開発会議)

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8月28日から30日の3日間、横浜でTICAD7(第7回アフリカ開発会議)が開催されました。TICADは、アフリカの開発について、各国政府代表をはじめ、国連、国際機関、NGOや市民社会、そして民間企業等も含めた幅広い関係者が議論する国際会議です。前回6回目の会議からは、アフリカと日本で3年毎に交互に開催されるようになり、今回は会場となった横浜みなとみらいへ、アフリカ各国や世界中から関係者が集いました。会議全体のテーマは「アフリカに躍進を!ひと、技術、イノベーションで。」とされ、特にビジネスやテクノロジーがアフリカの開発にもたらす可能性について、注目される回でした。

AAR Japan[難民を助ける会]は、市民社会ネットワークfor TICAD(以下、Afri-can)メンバーとして、会議の半年ほど前から同ネットワーク内や外務省と協議を重ね、TICADで議論されるべきポイントについて、提案してきました。TICAD会期中は、アフリカから参加した「アフリカ市民協議会」(以下、CCfA)の代表とともに本会議の一部に参加 。さらに、会議前日の27日には二つの公式サイドイベントを開催し、「難民×スポーツ」、「地雷問題」をテーマにトークイベントとシンポジウムを行いました。

スポーツの持つ可能性を発信、「異なる民族も一つにする力」

海外から関係者が次々と来日し、翌日の本会合開催の機運が高まる27日昼、AARは一つめのサイドイベント「難民xスポーツーアフリカの難民キャンプの現場から」を開催しました。このテーマを設定したのは、「難民」「アフリカ」というと、とかく可哀そう、貧しいというようなイメージを持たれがちななか、困難な状況下でも力強く生きている、特に若い世代の難民の方たちの姿を伝えたいと考えたからです。また、AARの取り組みを紹介しながら、スポーツを通じた難民と受け入れ地域との融和の可能性について、多くの方に知っていただきたいと思い、開催しました。
今回、特別ゲストに、2016年リオデジャネイロ・オリンピックに難民選手団として出場した、南スーダン難民のローズ・ナティケ・ロコニエン選手を招致しました。8歳の時に、住んでいた村で戦闘が起こり、ケニアに難民として逃れたコロニエン選手は、弟妹の面倒を見ながら難民キャンプの学校に通い、やがて陸上競技の才能を見いだされ、オリンピック強化選手としてトレーニングを受けることになりました。「走ることが自分自身を強くし、自信を与えてくれた」「スポーツには異なる民族を一つにする力があり、今後もスポーツを通じて平和や人権の大切さを世界に伝えていきたい」と力強く壇上で語りました。

壇上に机といす、マイクが用意され、登壇者がそれぞれ話している

登壇者はそれぞれの経験や知見から、スポーツが持つ力について語りました。右から、大阪大学大学院准教授の岡田千あき氏、ソルティーロ株式会社の二村元基氏、南スーダン難民でリオ五輪に出場したローズ・ナティケ・ロコニエン選手、AARウガンダ・ケニア事業統括の雨宮知子(2019年8月27日)

続いて、AARウガンダ・ケニア事業統括の雨宮知子から、AARがウガンダとケニアで実施する難民支援の取り組みを紹介。特に、南スーダン難民と受け入れ地域の住民が交流する機会を、スポーツイベントを通じて創る活動について語り、その中で自身が感じたスポーツの持つ力について報告。また、ソルティーロ株式会社の二村元基氏からは、民間企業としてアフリカ3ヵ国で取り組んでいる、才能を発揮する機会に恵まれない子どもを対象としたチャリティプロジェクトが紹介されました。また、大阪大学大学院准教授の岡田千あき氏より、より広い視点から、スポーツが個人や社会、そして地域の幅広い発展や平和構築にもたらしうる可能性についてご説明いただきました。
(ロコニエン選手はこのイベントの他に、岩手県や東京都内の学校で生徒の皆さんと交流したり、鈴木俊一・東京オリパラ担当大臣の表敬訪問なども行いました。これらの活動については別途報告いたします。)

アフリカの地雷問題を幅広い観点から議論、「人間性」への注目

同27日夜には、「成長へのバリアを取り除くーアフリカ開発への地雷・不発弾の影響」と題したイベントをヘイロー・トラストと共同で開催。同団体はイギリスに本部を置き、地雷除去を専門に活動しています。幅広く平和構築にかかわるパネリストが参加し、活発な議論が展開されました。アフリカ連合委員会(AUC)の平和安全保障委員であるスメイル・チェルギ氏からは、アフリカにおける地雷問題の現状が説明され、独立行政法人国際協力機構(JICA)の国際協力専門員である小向絵理氏からは、JICAの平和構築に係る取り組み事例が紹介されました。また、株式会社日建社長の雨宮誠氏より、地雷除去の機械開発に携わっている立場から、同社の地雷除去機材に関する話や、アフリカの機材納入先では現地政府と協力して人材育成に取り組んでいることが報告されました。また、AARと長く協力関係にあり、自身が地雷の被害者でもあるマーガレット・アレチ・ オレチ氏(地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)大使、ウガンダ地雷生存者協会代表)は、ウガンダにおける地雷問題の現状と、地雷被害者には生涯にわたる支援が必要であり、被害者同士での支え合いや社会復帰への後押しが重要だと訴えました。
地雷除去は、道路や橋の建設といったインフラ整備の前提条件であるのに加え、地雷が取り除かれなければ、地域の人々が安心して学校に通ったり、農業や商業を営むことさえままなりません。パネルディスカッションでは、複数の登壇者から「Humanity(人間性、人間らしさ)」という言葉が言及され、アフリカの人たちが人間らしく生活していくために必要な地雷除去に、国際社会が協力して取り組む重要性が、改めて強調される機会となりました。

パネリストや司会を含む6人が壇上のいすに座り、マイクを持ち順番に話している

地雷問題や平和構築に関わるパネリストが議論。左から、地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)大使のマーガレット・アレチ・ オレチ氏、株式会社日建社長の雨宮誠氏、独立行政法人国際協力機構(JICA)の小向絵理氏、アフリカ連合委員会(AUC)の平和安全保障委員であるスメイル・チェルギ氏、ヘイロー・トラスト代表のジェームズ・コーエン氏、AAR理事長の長 有紀枝(2019年8月27日)

アフリカ地域の平和を促進するために

最終日の30日には、TICADの柱の1つである「平和と安定の強化」について議論する会合に、市民社会団体(Afri-canとCCfAのメンバーで構成)の一員として参加しました。残念ながら、本会合では多くの国家元首やその代理が発言したため、時間切れで市民社会団体による発言の機会は与えられませんでしたが、事前に提出した提案書の中と会合直後に行った記者会見の中で、以下のポイントを提言しました。
・難民、国内避難民とその受け入れ地域を含む、紛争の影響下にある人々に対し、人道的、また開発の支援を行うこと。そして避難民の地域での統合と復興を支援すること
・女性や若者、高齢者、障がいのある方など、特に弱い立場にある人々を意思決定の過程に巻き込むこと
・アフリカの地雷除去を進めることで、地域の人々の生活を改善し、より平和な未来を築く基礎とすること

会場には机といすが並び、各机にはマイクが設置されている。前方にはスクリーンが2つ用意されている

本会議場の様子。アフリカの国家元首をはじめ国連機関等様々なアクターの代表が参加(2019年8月30日)

卓上には、Civil Society Organizationと書かれた名札が用意されている

市民社会団体の代表席(2019年8月30日)

より困難な立場にある人々への支援を訴え続ける

今回、準備段階を含めて会議に参加して感じたのは、TICAD全体、少なくとも日本政府としての視点が、民間投資や技術革新とその活用に偏り、アフリカの中でも最も弱く困難な立場にある、子ども、女性、難民、障がいのある方などに対する視点が非常に限られていたことです。例えば、若者は経済開発の原動力としてのみ注目されがちだと感じましたし、ICTの活用や起業家支援も確かに大切ですが、そのような技術発展や経済開発が進んだときに、往々にして取り残されがちなのは、先述したような弱い立場におかれている方々です。市民社会団体としては、声を一つにしてそのような方々への支援を優先すべきと、政府や国連、国際諸機関に提議しました。具体的には、女児や障がい児を含む全ての子どもへの教育機会の保障、就労機会が限られた若者や女性に対する起業支援を挙げました。また、技術開発や農業改革の過程において、弱い立場にある人々の権利やアクセシビリティなどを重視し、より平等な発展を目指す政策の立案と実施を提議しました。

アフリカ各国から集まった4人と、Afri-can理事が登壇。5人の広報には、「第7回アフリカ開発会議」と大きく書かれたパネルが展示されている

本会合直後に行われた市民社会共同記者会見。アフリカと日本のNGOネットワーク代表が提言しました。左からCCfA西アフリカ地域代表のウマル・ポール・コアラガ氏、CCfA東アフリカ地域代表のオリーブ・ムンバ氏、アフリカ連合経済・社会・文化評議会副議長のハーリド・ブーダリ氏、CCfA議長のマウンゴ・ムーキ氏、Afri-can理事・アフリカ日本協議会の稲場雅紀氏(2019年8月30日)

市民社会団体のメンバーの5人がカメラに向かい微笑む

「平和と安定の強化」について議論する会合に参加した、市民社会団体のメンバーと筆者。左からCCfA西アフリカ地域代表のウマル・ポール・コアラガ氏、ヘイロー・トラストのへレイン・ボイド とジャスミン・ダン氏、筆者、ジャパンユースプラットフォームの山口和美氏(2019年8月30日)

アフリカの発展をアフリカの人たちが中心となって担っていく後押しをするには、日本のNGOがそれぞれ単体で活動するだけでなく、日本とアフリカの市民社会として連携し協力していくことが重要です。今後もAARは、アフリカをはじめ各国での支援活動や国際的な政策提言に取り組んでいきたいと思います。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務局 広谷 樹里(ひろやじゅり)

大学卒業後、企業勤務を経て2009年にAARへ。広報およびパキスタン事業担当、南スーダン駐在などを経験。2014年にAARを離れイギリスの大学院、政府系開発機関での勤務の後、2018より再びAARへ。現在は対外ネットワーク、渉外を担当。神奈川県出身。

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