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地雷対策の最先端を学ぶ:地雷対策に関する国連主催の国際会議参加報告①

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2020年2月11日から14日まで、スイス・ジュネーブにある国連欧州本部で「国際地雷対策プログラム責任者会合」("23rd International Meeting of National Mine Action Programme Directors and UN Advisers")が開催され、AAR Japan[難民を助ける会]から地雷事業を担当する東京事務局の紺野誠二が参加しました。紺野からの報告です。

より良い地雷対策を実施するために開催

本会議は、地雷の危険と隣り合わせに暮らす人々、地雷の被害に遭った人々により良い支援を行うために、地雷対策に携わる実務者の情報や意見交換のための会議で、年一回開催されています。

AARでは、現在の地雷対策の世界的な潮流や取り組みに関する情報収集とともに、先進的な地雷対策活動の事例を学び、今後の事業形成に活かすため参加しました。

会議の主催は国連平和維持活動局(PKO局)で、運営はPKO局傘下の国連地雷対策サービス部(UNMAS)が担っています。
同じ地雷に関する国際会議でも、私が昨年11月に参加したノルウェーでの「対人地雷禁止条約(オタワ条約)第4回再検討会議」はノルウェー政府の主催で、参加国はオタワ条約に加入している国がほとんどでした。今回は国連主催であり、また特定の条約に関する会議ではないため、オタワ条約に加盟していない国からも多くの参加がありました。

加盟国の国旗が立ち並ぶ奥に国連欧州本部の建物が見える

会議が行われた国連欧州本部

4本のうち前の左脚が三分の一ほどを残して折れている巨大ないす

会議の街を象徴し、脚の折れたいすで地雷の恐ろしさを伝えるモニュメント

参加者は、地雷が埋設されている国で国内の地雷対策を担当する機関や、UNHCR(国連高等難民弁務官事務所)やUNICEF(国連児童基金)などその活動が地雷問題と深く関わる組織、各国の代表団のほか、NGOなどが参加しています。さらに、この会議に特徴的な点が、欧米を中心とした地雷除去などを行う民間企業が多く参加していることです。また、大学の研究機関からの参加者も見受けられました。

この会議がジュネーブで国連により開催されるという意義も見落とせません。
ジュネーブは国連の諸機関をはじめ多くの国際機関が設置されており、さまざまな国際会議が開催されています。各国が軍縮代表部を置いており、日本も例外ではありません。
国連欧州本部の前には脚が一本折れた巨大ないすのモニュメントがあります。このいすは、地雷やクラスター爆弾への反対の意思を込めて設置されたものです。地雷対策の会議を行うのにとてもふさわしい場といえます。

地雷対策を考える7つの切り口

今回の会議のテーマは、とても壮大です。「人間と地球にとっての地雷対策:解決策、責任ある関与、活動(Mine Action for People and Planet: Solutions, Commitments and Action.)」です。冒頭、参加者全員でこれまでに地雷で亡くなられた方への黙とうを捧げました。

この会議では、以下の7つのセッションが行われました。
セッション1 :地雷対策と環境
セッション2 :人間にとっての地雷対策:多様性
セッション3 :世界の地域ごとの地雷対策
セッション4 :デジタル時代の安全に対する考え方と安全に行動するためには
セッション5 :地雷対策とSDGs:理論から実践へ
セッション6 :人道危機において人の命を救うためのパートナーシップのあり方
セッション7 :IED(即席爆発装置):問題解決のための関係機関の連携

数百人が入る広い会議場。壇上のスピーカーは前方のスクリーンに映し出されている

セッション会場の様子

さらにこのほかにも、サイドイベントが行われました。国連機関や除去の専門団体、支援団体などによって非常に実務的であったり専門性の高い内容のものが18件行われました。特に、国連の地雷対策戦略の進捗報告や、東南アジア、アフリカなど地域ごとに分かれてのセッションは学びの多いものでした。

地雷対策の2大注目テーマ:①デジタル技術の活用

加速度的にデジタル化が進む社会の中で、国際協力は実は先端技術が最も浸透していない分野の一つかもしれません。サイドイベントの一つでは、地雷対策におけるデジタル技術の活用について遅れが指摘されていました。

セッションでは、「セッション4:デジタル時代の安全に対する考え方と安全に行動するためには」で、デジタル技術を活用していかに回避教育を推進していくかという報告が行われ、今回の会議で最も学びの多いものとなりました。
AARがアフガニスタンで回避教育を開始して17年になります。開始当時はオリジナルの映画を教材にした回避教育の手法は比較的先進的な取り組みでしたが、現在はデジタル媒体が取り入れられはじめています。
例えばイラクでは、フェイスブックの広告として回避教育のメッセージを表示させ、国が低コストで多くの人に情報を届けることができているとの報告がなされました。また、ミャンマーではスマートフォン向けのアプリが開発されたり、VR(仮想現実)技術を使って、地雷原の様子が分かるなど体験型の学びも行われるようになっています

セッション会場よりは狭い会場に縦長のテーブルと左右の壁際に多くの参加者が着席している

サイドイベントにも多くの参加者が集まっていました

こうしたデジタル手法のメリットは複数あります。まず、遠隔地や紛争の最中でも情報を伝達できるということです。次いで、コストを抑えて広く行き届かせることができ、さらに例えば年齢や地域に応じた広告を表示させるなど使う人に最適な情報を届けることも可能になります。また、学んだ情報を本人が簡単に周囲に拡散させることもできます。さらに、スマートフォンなどの機器があればいつでも手元で見られることや、双方向性というのも長所です。

他方で、課題もあります。最大の問題は、デジタル教材が利用できる環境にある人とない人との間で、受け取れる情報に大きな差が生じてしまうことです。住んでいる場所、年齢、収入などでデジタル環境への身近さは異なってきます。また国によっては、男女間でデジタル機器を使用できるかや知識の差が大きいところも少なくありません。さらに、不特定多数へ情報を届けられることが逆に、回避教育の効果を測りにくくなり、どれだけ効果的に情報を届けられたかの確認が不十分になっているという指摘もありました。

いますぐに地雷対策のあらゆる分野でデジタル化を浸透させることは現実的ではありませんが、従来の手法とともに、AARも活動地や対象に応じてデジタル技術を活用していけたらと思いました。ひとつのかたちが誰もの状況に適しているわけではない("One size does not fit all")、という、もとは教育分野で言われてきた言葉を思い出しました。

地雷対策の2大注目テーマ:②IED(即席爆発装置)

近年の地雷対策では、IEDへの対応を強化することが急務です。IEDは簡単に製造できてしまう、形などが決まっていないなどのため対策は非常に難しいのですが、国際社会も手をこまねいているだけではありません。

サイドイベントでは、UNMASが導入を促進している新たな情報管理システムについての発表が行われました。「SMART IED Threat Mitigation Technology Roadmap (SMiTMiTR)(IEDの脅威削減のためのスマートテクノロジー導入ロードマップ)」と呼ばれるもので、簡単に言えばIEDが発見された場所や構造などの情報を集約して、関係者が対策に役立てられるようにしていく、というものです。

がれきを組み合わせて作られたIEDの外観

IEDの一例。がれきを組み合わせ中に爆薬が詰められている(出典:https://www.mineaction.org/en/ndm-un22-presentations-plenary-sessions、UN Mine Actionウェブサイト、2020年2月25日)

タンクを使って作られたIEDが分解され容器と爆発装置が示されている

IEDの一例。飲料水を入れるタンクの中に爆薬が詰められている(出典:https://www.mineaction.org/en/ndm-un22-presentations-plenary-sessions、UN Mine Actionウェブサイト、2020年2月25日)

現場で活動する地雷の除去団体が把握している個々のIEDについての情報をSMiTMiTRに登録し、共有できるようになることは、除去作業の安全性や効率を考える上でも大きな意味があります。AARのように回避教育を行う団体にとっても、IEDの技術的な情報を最低限でも把握しておくことはとても有益です。
このシステムは、軍の技術や人材が活用されており、軍事分野からのこのような国際協力の在り方もあるのだな、と感心しました。


また、最終日の最後のセッション7でもIEDについて議論がなされています。IEDの管理の難しさを示す一例になると思いますが、このセッションでは、農業で使う肥料のサプライチェーンをモニタリングしていく必要がある、という議論も行われました。一体なぜ?と思われる方が大半ではないかと思います。実は、肥料はIEDで爆薬に使われることが確認されています。例えばあるA国でのIEDの爆薬には、B国製の肥料が使われていることがあります。A国ではすでにその肥料は爆薬の原料に転用されるとして製造等が禁じられているにもかかわらず、です。

IEDは日々新たなタイプが出現すると言えるくらい、形状や使われる爆薬、構造が多様です。対策は大変難しいのですが、この問題に取り組む立場としては、まず情報共有が非常に重要になります。

(第二回に続く)

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務局 紺野 誠二(こんの せいじ)

2000年4月から約10ヵ月イギリスの地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向、不発弾・地雷除去作業に従事。その後2008年3月までAARにて地雷対策、啓発、緊急支援を担当。AAR離職後に社会福祉士、精神保健福祉士の資格取得。海外の障がい者支援、国内の社会福祉、子ども支援の国際協力NGOでの勤務を経て2018年2月に復帰。茨城県出身。

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