駐在員・事務局員日記

ミャンマー:非常時に垣間見る、しなやかな心

2018年09月14日  ミャンマー
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執筆者

ミャンマー・パアン事務所
安齋 志保

2018年7月よりミャンマー・パアン事務所駐在。大学卒業後、NPOで精神障がい者支援に8年間従事。休職中に青年海外協力隊員としてスリランカに赴任。復職後、途上国の障がい者支援に携わりたいと思い、AARへ。静岡県出身

記事掲載時のプロフィールです

ミャンマーには暑季と雨季、乾季があり、5月の終わりごろから10月の初めは雨季にあたります。2018年7月、例年になく大雨が続き、同国で数年に1度の規模の洪水が発生しました。着任直後に洪水被害に遭った同国・パアン事務所の安齋志保が、災害時にも笑顔を絶やさない現地の方々についてお伝えします。

異例の豪雨

カレン州はタイと国境を接しています。パアンは州西部に位置し、チベットを源流とするタンルイン川が流れます。

7月の初めにパアン事務所に赴任してから、早いもので2ヵ月が過ぎました。私の任地であるカレン州の州都パアンでも、赴任してから毎日のように強い雨が降り続きましたが、例年のことだと思っていました。しかし、今年は様子が違ったようです。上流で降った大雨の影響もあり、AARの事務所近くのタンルイン川(旧称:サルウィン川)の水が少しずつ溢れ出し、低地に向かって流れ出しました。事務所前の道路は川のようになり、周辺の家はほとんど床上まで浸水してしまいました。

町は泥水で溢れていて道路は一切見えません。男性のくるぶしより少し上ぐらいまで水位があります

事務所前の光景。事務所の建物は少し高い位置にあるため、あと数センチのところで浸水を免れました(2018年7月29日)

女性のひざ下くらいまで水位があります 少年が小舟に乗って楽しそうにしています

小舟に乗って楽しそうにしている少年(2018年7月29日)

AARの現地スタッフの中には、腰の高さまで自宅周辺の水位が上がり、舟を使わなければ通勤できないスタッフもいました。パアンがこの規模の洪水の被害を受けるのは4~5年に一度のようで、洪水のため学校が休みになった子どもたちは、初めて見る光景にはしゃいで水遊び。泥で濁った水に潜って遊んでいました。釣り竿や投網を持ち出して、夕飯のおかずに魚を獲ろうとする大人もいました。

大人2人がバイクで冠水した道路を走行していて、2人のバイクのタイヤから大量の水しぶきが立っています

普段はまず見られないような水しぶきが立っていました(2018年7月28日)

高床式の家の、床下すぐまで水位が迫っています 茶色いにごった水のため、道路が見えず歩くのは危険です

町は濁った水で冠水して、道路が見えません。大人の膝丈まで水かさが増し、歩くのも一苦労です(2018年7月29日)

簡易な筏の上に男性スタッフがバイクごと乗って走行を試みています 数名がバイクを持つなど補助をしています

バイクのまま筏に乗る現地スタッフ、ソー・ウィン・テインさん(2018年8月1日)

浸水した市場では洪水の直後からそれぞれのお店が舟で営業を開始し、水上マーケットが開かれていたそうです。しばらく経って水が引くと、近くの道路に店を広げ、臨時の市場ができていました。
現地スタッフと一緒に銀行に行った帰り道、迂回して安全な道を選んだはずがそこも冠水しており、前に進めなくなってしまいました。二人で途方に暮れていると、近くの方が声をかけてくださり、小舟と筏で渡ることになりました。現地スタッフはバイクのまま手作りの筏に、私は小舟に乗り、全身水浸しにはなりましたが、無事に事務所に戻ることができました。

全長2メール以上はありそうな小舟をこぐ男性 カッパを着用して笑顔でオールを漕いでいます

この男性の小舟に乗せていただき、冠水した場所を渡り切ることができました。素敵な笑顔が印象的でした(2018年8月1日)

「困ったときはお互いさま」の心を見る

事務所前の軽食屋では、朝から大音量のお経や音楽が流れ始めました。食料の確保が困難な地域の人たちに、舟でお弁当を届ける合図とのこと。お店の近所の人が大勢集まって、食料の調達や調理を手伝っていました。大きなたらいをつないでポリタンクを付け、舟も手作りです。自分たちが大変な状況でも、もっと困っている人たちを助けたいというミャンマーの人たちの優しい心に触れました。国民の9割が仏教を信仰している同国では、その教えから国内全土に助け合いの精神が根付いているように感じます。

女性たちが楽しそうに汁物の料理を作っています

パアン事務所の向かいのお店の様子。大量に調理する女性の後方では、忙しくお弁当パックへの詰め作業が行われています(2018年8月1日)

黒いゴム製の大きなたらいを3つつなげて小舟を作成 男性がお弁当を入れる準備をしています

たらいの小舟。これにお弁当を入れて配達していました(2018年8月1日)

職員3人は穏やかな笑顔でこちらを見ています 障がいのある村人の男性は車いすに乗っています

洪水被害が落ち着いた9月、障がいのために外出を控えがちな村人と一緒に小旅行へ。後方の山はパアンの名所、ズウェカビン山です。後方左はAARの現地スタッフ、ナン・シー・ラー・タンさん、右はソウ・テイン・リン・アウンさん、中央が安齋志保、2018年9月6日)

知らない人でも目が合うと自然に笑顔をみせてくれるミャンマーの人たちですが、この状況の中でも笑顔が絶えません。物事を悲観的に捉え過ぎず、目の前の状況を受け入れるしなやかな生き方に学ぶべきことがあるように思いました。また、7月に日本で発生した西日本豪雨被害や9月の北海道地震について知り、心配してくれている人たちもたくさんいます。

水が引いた後は、浸水した家の中をきれいにして通常の生活を取り戻した様子ですが、被害に遭った田んぼや畑の所有者の方々の今後の生活が心配です。電気の供給はまだ不安定ですが、7月から2ヵ月近く続いた道路の冠水もようやくおさまり、時折青空も見えるようになってきました。雨季にしか食べられない果物を現地の人たちと一緒に楽しみながら、過ごしやすいという乾季を待ちたいと思います。

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