ミャンマー・パアン事務所
安齋 志保
ミャンマー:非常時に垣間見る、しなやかな心
2018年7月よりミャンマー・パアン事務所駐在。大学卒業後、NPOで精神障がい者支援に8年間従事。休職中に青年海外協力隊員としてスリランカに赴任。復職後、途上国の障がい者支援に携わりたいと思い、AARへ。静岡県出身
記事掲載時のプロフィールです
ミャンマーには暑季と雨季、乾季があり、5月の終わりごろから10月の初めは雨季にあたります。2018年7月、例年になく大雨が続き、同国で数年に1度の規模の洪水が発生しました。着任直後に洪水被害に遭った同国・パアン事務所の安齋志保が、災害時にも笑顔を絶やさない現地の方々についてお伝えします。
異例の豪雨
7月の初めにパアン事務所に赴任してから、早いもので2ヵ月が過ぎました。私の任地であるカレン州の州都パアンでも、赴任してから毎日のように強い雨が降り続きましたが、例年のことだと思っていました。しかし、今年は様子が違ったようです。上流で降った大雨の影響もあり、AARの事務所近くのタンルイン川(旧称:サルウィン川)の水が少しずつ溢れ出し、低地に向かって流れ出しました。事務所前の道路は川のようになり、周辺の家はほとんど床上まで浸水してしまいました。
AARの現地スタッフの中には、腰の高さまで自宅周辺の水位が上がり、舟を使わなければ通勤できないスタッフもいました。パアンがこの規模の洪水の被害を受けるのは4~5年に一度のようで、洪水のため学校が休みになった子どもたちは、初めて見る光景にはしゃいで水遊び。泥で濁った水に潜って遊んでいました。釣り竿や投網を持ち出して、夕飯のおかずに魚を獲ろうとする大人もいました。
浸水した市場では洪水の直後からそれぞれのお店が舟で営業を開始し、水上マーケットが開かれていたそうです。しばらく経って水が引くと、近くの道路に店を広げ、臨時の市場ができていました。
現地スタッフと一緒に銀行に行った帰り道、迂回して安全な道を選んだはずがそこも冠水しており、前に進めなくなってしまいました。二人で途方に暮れていると、近くの方が声をかけてくださり、小舟と筏で渡ることになりました。現地スタッフはバイクのまま手作りの筏に、私は小舟に乗り、全身水浸しにはなりましたが、無事に事務所に戻ることができました。
「困ったときはお互いさま」の心を見る
事務所前の軽食屋では、朝から大音量のお経や音楽が流れ始めました。食料の確保が困難な地域の人たちに、舟でお弁当を届ける合図とのこと。お店の近所の人が大勢集まって、食料の調達や調理を手伝っていました。大きなたらいをつないでポリタンクを付け、舟も手作りです。自分たちが大変な状況でも、もっと困っている人たちを助けたいというミャンマーの人たちの優しい心に触れました。国民の9割が仏教を信仰している同国では、その教えから国内全土に助け合いの精神が根付いているように感じます。
知らない人でも目が合うと自然に笑顔をみせてくれるミャンマーの人たちですが、この状況の中でも笑顔が絶えません。物事を悲観的に捉え過ぎず、目の前の状況を受け入れるしなやかな生き方に学ぶべきことがあるように思いました。また、7月に日本で発生した西日本豪雨被害や9月の北海道地震について知り、心配してくれている人たちもたくさんいます。
水が引いた後は、浸水した家の中をきれいにして通常の生活を取り戻した様子ですが、被害に遭った田んぼや畑の所有者の方々の今後の生活が心配です。電気の供給はまだ不安定ですが、7月から2ヵ月近く続いた道路の冠水もようやくおさまり、時折青空も見えるようになってきました。雨季にしか食べられない果物を現地の人たちと一緒に楽しみながら、過ごしやすいという乾季を待ちたいと思います。