AAR Japan[難民を助ける会]がヤンゴンで運営する、障がい者のための職業訓練校(Vocational Training Center: VTC)は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック・政変後の混乱による2年半の休校期間を経て2022年秋に再開しました。このたび、2022年度冬学期(2023年1~4月)の27人の訓練生が無事卒業式を迎えました。駐在員の清水由賀が訓練生との日々を振り返ります。
卒業生が歌詞をつくり、歌を披露
訓練校の卒業式では毎回、訓練生たち自身で歌をつくり披露する伝統があります。このたび卒業した訓練生は、こんな歌詞をしたためて歌にしました。
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3ヶ月半の訓練期間を終えて、私たちは故郷に戻る。
みなバラバラになる。
でも、ここでの思い出は決して忘れない。
みなそれぞれ異なる場所から集まってきたけれども、私たちはここで出会う運命だった。
ここで私たちは兄弟姉妹となり、互いに助け合って生活した。
先生たちの教えに感謝し、忘れはしない。
目標を立て、行動計画を立て、スマートになり、どんな困難があっても決して諦めずに乗り越えよう。
AARよ、どうかさらに繁栄し、これからも障がい者に寄り添って。
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ミャンマー全土から集まった互いに見ず知らずの27人が、3カ月半にわたり寮で生活を共にして絆を深めながら、洋裁コース、理容美容コース、コンピューターコースそれぞれの訓練を受けて、未来を切り拓いていきました。
卒業後、ある訓練生はヤンゴン市内の工場で、ある訓練生はヤンゴン市内の店舗で勤務を始め、ある訓練生は地元に戻って自宅で開業準備をします。また、スキルアップコースに進学してさらにスキルに磨きをかける人もいます。こうして進む道は違っても、ここで過ごした時間は決して忘れない、そんな強い思いが歌に込められていますね。
訓練生との日々
私は2023年1月下旬にヤンゴンに赴任し、毎日訓練校内にある事務所で勤務をして訓練生たちと顔を合わせていたので、彼らの卒業には私も胸がいっぱいです。
朝8時20分頃に出勤すると、8時30分から始まる「モーニングトーク」のために、寮から大会議室へと移動する訓練生たちが「ミンガラーバー」と手を合わせて笑顔で挨拶をしてくれて、一日が始まりました。モーニングトークでは、安全や健康、リーダーシップ、人間関係、開業や店舗経営など、社会性を養うための合計26テーマの講義を行っています。
「モーニングトーク」が終わると各コースの教室に移動し、授業が始まります。9時ごろ、駐在員が働く事務所の隣にある洋裁コースの教室から、大きな声で「コース訓」を読み上げる声が聞こえてきます。「先生おはようございます。何事も準備をしてから行動。多くの練習が完璧につながる。間違えたら何度でも先生に直してもらう。縫う前にアイロン!」。入校から時間が経つほど、訓練生たちの声も大きくなっていきました。
午後は13時半頃、今度はコンピューターコースの教室から運動の声が聞こえてきます。健康と集中のため、ストレッチ運動をしているのです。
理容美容コースの訓練生たちは思い思いにカラフルな髪に染めていて、金髪の子だと思っていたら翌週には青になっていたり、ある男子生徒はメイク授業の一環でフルメイクをして髪も洋服も女性風に仕立てて突然現れたり。毎日見ていて飽きません。
そして毎週木曜日は14時から「木曜ミーティング」といった社会性を養うためのワークショップ。リーダーシップ、顧客苦情対応、チームビルディング、地域社会貢献活動、障がい者の地位向上のためにできることなど、各種テーマをワークショップ形式で学び、社会的な力を養います。これには毎度、訓練校の教員たちのファシリテーションの巧みさに驚かされました。私は大学で教員をやっていましたので、学生が活発に参加できるファシリテーションの仕組みづくりや方法は苦労して身に着けましたが、ここでは訓練生たちが本当に生き生きと楽しそうに活発に参加しているのです。かれらの目の輝きが、訓練校の価値のすべてを表しているように私には思えました。
15時になると授業は終了。訓練生たちはその後夕方まで休んだり遊んだりして自由な時間を過ごし、17:30からシャワー、18:30に夕食をとり、その後は20時頃まで宿題に取り組みます。20時ごろからは皆で歌を歌うなどして楽しい時間を過ごし、21:30には就寝準備、22:00には就寝をして、明朝5時には起床です。
こうして毎日寝起きを共にし、困難を共にした訓練生どうしの思いの深さは、想像するに余りあります。そしてもちろん、かれらに全身全霊で技術と経験と想いを伝え、さらには寮監督として寝起きまで共にした訓練校の教員たちの想いの深さも…。
開校から20年以上が経過し、訓練校の建物はボロボロですが、校内はいつも自分の力で人生を切り拓こうとする訓練生たちの笑顔と希望、そしてかれらを支えるヤンゴン事務所スタッフたちの熱意で溢れています。
私たちは、歌詞の最後の言葉を受け止め、これからもミャンマーの障がい者を支援して参ります。
清水 由賀SHIMIZU YukaAARヤンゴン事務所
研究者・教員として大学で社会政策・福祉国家の国際比較に関する研究・教育に従事した後、AARへ。