AARブログ AAR Blog

会長・長有紀枝のブログ

2023年世界難民の日に

2023年6月20日

    今日、6月20日は世界難民の日(World Refugee Day)です。ミレニアムサミットが開催された年2000年の12月4日、国連総会で1951年難民条約の制定50周年を記念し、毎年6月20日を 「世界難民の日」とする決議(UNGA55/76)が採択されました。ただし、もともとこの日は、1969年9月10日にエチオピアのアジスアベバで、アフリカ統一機構(OAU)加盟国によって採択された「アフリカにおける難民問題の特殊な側面を規律するアフリカ統一機構難民条約(OAU難民条約)」が1974年6月20日に発効したことを記念する「アフリカ難民の日(Africa Refugee Day)」でした。
    1951年の難民条約が規定する難民の定義は厳格なものですが、OAU条約は、出身国の状況から生じる無差別な脅威から逃れた人も特定の条件下で難民と認めることを規定する広い難民の定義を採用しています。
    世界146カ国が加入する難民条約とは異なり、OAU難民条約はアフリカという地域に限定された地域文書ですが、そうした広い難民の定義を採用した条約の発効日を、国連総会が「世界難民の日」として定めたことは、今日大変重要な象徴的な意味があると思います。

    6月9日、日本では改正出入国管理・難民認定法(改正入管法)が参議院本会議で可決、成立しました。この法案に対し、私達は、難民「支援」活動を実施してきたものの、国内外で難民「認定」には関わっておらず、それゆえ大変恥ずかしながら専門的な知見をもたない、という理由で発言を控えてきました。それでもなお、難民を助ける会の立場について問うお声を多く頂戴してきました。

    申し上げるまでもなく、日本に逃れてきた難民の方々の命は守られねばなりません。
    その一方で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の元駐日代表で、国連UNHCR協会の理事長も務められた滝沢三郎氏が主張されたように「難民申請中は送還されないという規定は人権配慮の点で導入されたが、結果的に乱用されているのが実情だ。法改正で乱用が防げるようになる」(2023年6月10日付『読売新聞』朝刊)という側面も存在しています。ただし、このように日本で就労を希望する人々が難民認定制度を「濫用・悪用」する実態が指摘される背景には、これら外国人労働者の労働によって支えられて成り立つ日本の労働市場と、私達の日々の暮らしがあることを忘れてはならないと思います。
    問題は重層的です。

    難民を助ける会は、政府の法案に対して、意見を主張し、異議申し立てをする際には、私達自身の「現場の活動」に基づいた知識と経験、知見とに基づき、総合的に検討した上での「政策提言」であるべきと考えています。
    しかしながら、難民を助ける会は、国内外の難民や避難民、被災者や障がい者に対する緊急・人道支援活動や職業訓練、地雷対策などに活動の中心を置いてきたため、日本の難民・外国人労働者政策に寄与するような総合的かつ建設的な提言を、あるいは、今回の法令の一文一文に、異議を申し立て、問題を提起する根拠を、現時点では私達は有しておりません。
    難民を助ける会が英語名称をAssociation to Aid Refugeesから、Association for Aid and Reliefに変えたのは1999年のことです。私達は以来、難民支援にとどまらず、緊急・人道支援団体AAR Japanとして活動し、日本を含め、海外に逃れることができない人々の苦難を減らすことに尽力してまいりました。このミッションは、当面の間変わることはありませんが、今後は私達が目指す、公正な多文化共生社会の実現に向けて、国内外の難民認定問題についても、真摯に勉強を重ねてまいりたいと存じます。

    日本に逃れてきた難民の方々の命は守られねばなりません。
    命からがら逃れてきた難民の方々に「ようこそ」といえる日本であるべきだと、そのための環境を整えるべきであると強く思います。報道にありますとおり、これまで3回目以降の申請で難民として認定された人が、たとえ少数でも存在するという事実には大変な重みがあります。このような事実がある以上、「相当の理由」を示さなければ3回目以降の申請者は送還される今回の改正法の可決にあたっては、「相当の理由」をOAU難民条約の精神にのっとった「広い意味の難民保護」の観点から柔軟に運用されることを強く望みます。
    日本がその一員である国連総会が定めた「世界難民の日」は難民条約よりも広い難民を保護することを日本政府に求めているからです。

    長有紀枝OSA Yukie会長

    2008年7月よりAAR理事長、2021年6月より同会長。2010年4月より立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科・立教大学社会学部教授。(茨城県出身)

    関連したレポート・ブログを読む

    AARブログTOP

    すべての種類のレポート・ブログを見る

    もくじ お探しのページはこちらから ページ
    TOP