AAR Japan[難民を助ける会]がミャンマー・ヤンゴンで運営する職業訓練校(Vocational Training Center:VTC)は、民間で国内唯一の障がい者を対象とする職業訓練校です。ミャンマー全土から訓練生を受け入れており、2000年の開校からこれまでにのべ2,000人ほどの卒業生を輩出しています。現在は、理容美容、洋裁、PCの3つのクラスを運営しています。
私は今年の1月にAARのヤンゴン事務所に赴任したばかりの新人駐在員です。前職は理学療法士であり、日本の病院やデイケア(通所リハビリテーション)で、病気やけがによって障がいのある方を大勢診てきました。また、東ティモールで青年海外協力隊として理学療法の活動をした経験もあります。そこで日本と開発途上国の医療の質の差を痛感したということもあり、正直、「ミャンマーの障がい者の職業訓練校? 大したレベルではないのでは?」と赴任する前は思っていました。しかし、訓練生や先生たちに出会って、そんな考えはすぐに払拭されました。
なんとこのVTC、先生たちが障がい当事者なのです。そのうち何人かはVTCの卒業生でもあります。障がいとの付き合い方を誰よりも理解しており、訓練生の障がいの特徴に合わせて教え方を変えています。例えば聴覚障がいのある訓練生に教える際は、手話を習得した先生が手話を使ったり、イラストを多用した独自のテキストを用いたりしています。一見難しそうな作業でも、習いたいという訓練生たちの意思を尊重して、教える側が工夫すればいい、という姿勢が先生たちにあります。
私が特に感銘を受けた訓練生は、今年の4月に卒業を迎えた洋裁コースのソー・ソー・ウィンさんです。赤ちゃんのころ両親が目を離した隙に火が付いているかまどに手を突っ込んでしまい、両手の指を失いました。初めて彼女に会った時、「えっ、両手の指がないのに洋裁コースにいるの? できるの?」とびっくりしました。皆さんもそう思いませんか? でも彼女は、ミシンもハサミも使えるし、なんと針で布を縫うこともできます。
なぜだと思いますか? ソーさんのご両親は、自分で何でもできるようにと、諦めることなく熱心にソーさんを育ててきたのだそうです。また、どうしても洋裁を習いたいという強い希望があったソーさんは、入学試験の前に何度も繰り返し縫い方の練習をしたそうです。
先生たちにもソーさんの話を聞いてみました。「今まで長年VTCで教えてきて、この障がいでは洋裁コースは難しいのではないかと最初は思えても、努力して困難を乗り越え、無事修了できた訓練生が大勢います。そんな経験があるから、ソーさんの入学試験の面接の時も障がいでは判断せずに、本人の強い意思と身体の動作を確認して、合格と判断しました」。「ソーさんには少し難しいかもなと思う作業も、本人に聞いてみると、いつも『やります!』『がんばります!』と答えます。私は教える側ですが、いつもすごいなと感心しながら接しています」。
障がいのレベルで判断せずに本人の能力と想いの強さで受け入れた先生たち。子どもの将来のために、と熱心に育ててきたご両親。そして、自分の障がいをものともせずに挑戦する訓練生。本当に素晴らしいと思いました。
日本で理学療法士として長年働き、障がいのことを理解しているというおごりから、VTCの質を疑っていた自分のことをとても恥ずかしく思いました。むしろ、駐在員としてこの職業訓練校の事業に携わるようになって、学ぶことがたくさんあります。
ここミャンマーで、ひとりでも多くの障がい者が活き活きと仕事ができるように、これからも全力でサポートしていきます。皆さまにもVTCの活動を応援していただきたく、よろしくお願い申し上げます。
堀内 好恵HORIUCHI Yoshieヤンゴン事務所
日本の病院やデイケア、青年海外協力隊で理学療法士として従事した後、2023年12月にAAR入職。2024年1月よりミャンマー・ヤンゴン駐在。