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会長・長有紀枝のブログ

2024年世界難民の日に寄せて

2024年6月19日

    今年も、6月20日の「世界難民の日」にあわせ、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が、最新の世界の難民情勢をまとめた年間統計報告書「グローバル・トレンズ・レポート」を発表しました。2023年末時点で、紛争や迫害などによって故郷から避難を余儀なくされた人の数は、過去最多の1億1,730万人。その後も日々、その数は増え続け、2024年5月には、1億2,000万人に達しました。まさに日本の人口に匹敵する人数です。

    直接ご覧になったことがある方は、「難民(UNHCR支援対象者)、パレスチナ難民(国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)支援対象者)」という表記に気付かれると思います。ここで、「難民」と「パレスチナ難民」が区別されるのはなぜでしょうか。

    それは、UNHCRとUNRWAの支援対象が明確に異なるからです。UNHCRとUNRWAはともに1949年の第4回国連総会で設立されました。しかし、その支援対象と組織のマンデート(任務)は明確に異なります。一言でいうなら、UNHCRはUNRWAの対象を除く、難民一般を、UNRWAはパレスチナ難民問題を専門に扱う機関です。

    UNHCRが拠って立つ、1951年の難民条約による難民の定義は「1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることを望まない者」。1967年の難民議定書により、この地理的、時間的制約が取り払われます。

    UNRWAは第一次中東戦争後、1949年12月8日に採択された国連総会決議により、パレスチナ難民のための救済と事業実施を目的として設置され、1950年5月1日に活動を開始しました。

    UNRWAが支援対象とするパレスチナ難民は1951年の難民条約同様、時間的、地理的に限定的です。「1946年6月1日から1948年5月15日までパレスチナに居住し、1948年戦争の結果として家屋と生計手段を失い、 UNRWAの活動地域に避難した者とその子孫」とされ、それは今日まで変わっていません。UNRWAの活動地域とは、レバノン、シリア、ヨルダンの3カ国と、 東エルサレムを含むヨルダン川西岸およびガザ地区の2地域、計5区域に限定されています。

    UNHCRとUNRWAの違いは、対象だけではありません。両者の決定的な違いは、そのマンデートやミッションに如実に表れています。UNRWAは教育、医療、 社会福祉、職業訓練などの基礎的なサービスをパレスチナ難民に提供する一方で、UNHCRが目標とする難民のための恒久的解決策は含まれていません。UNHCRが支援対象にある難民の帰還や、庇護国での統合、第三国への定住を目指しているのに対し、UNRWAの仕事は、教育や職業訓練を除けば、生存するため、あるいは生活環境を改善するための支援に限られます。

    元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんが「難民問題の発端は本質的に政治」であり、「それには政治的対応を通じて取り組まねばならない」といった理由がここにあります。

    では、(選挙、という投票行動は別にして)政治的対応の手段をもたない、私たち市民、人道援助団体には何ができるでしょうか。「人道問題に人道的解決策はない」というのは同じく緒方さんの有名な言葉ですが、政治以外の手段で、人道問題に取り組むことは私たち市民の仕事です。

    ガザに注目が集まる中、ウクライナ難民、シリア難民、シリア・トルコの地震被災者、スーダン難民、南スーダン難民、アフガニスタン難民・避難民、ロヒンギャ難民、といった人たちが、「忘れられた難民」「忘れられた危機」「顧みられない危機」という状況に陥っています。

    一人の人間、一つの組織、そして難民を助ける会が、現在進行中の、すべての人道危機・難民問題に介入し、対応することは不可能です。

    しかし、それでも必ずできることはあるはずです。また、こうした難民支援は、難民問題そのものを解決することはなくとも、将来の帰還、コミュニティの再建や復興を担うことになる人々の命をつなぎ、彼ら自身が立ち上がる未来につながります。市民の活動の積み重ねは、たとえ一つひとつは小さくとも、事態を抜本的に改善するような潮流を生み出しうる可能性を秘めていると信じます。

    2024年「世界難民の日」を前に、皆さまとともに、それぞれの立場で、その時、その時にできることに、取り組んでまいりたいと思います。

    長 有紀枝OSA Yukie会長

    2008年7月よりAAR理事長、2021年6月より同会長。2010年4月より立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科・立教大学社会学部教授(茨城県出身)

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