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スタッフ日記[国際協力の現場から]

子どもたちのために生きる校長先生:パキスタン

2024年7月12日

パキスタンでは約2,620万人の学齢期の子どもたちが学校に通っておらず*1、中でも障がい児の就学は困難を極めています。その背景には、障がいに対する根強い差別意識、通学の困難さ、障がいに応じた教育を行う教員の技能不足、校内のアクセシビリティの欠如などがあります。

手洗い場の前で十数人の子どもたちが手のひらをこちらに向けている

きれいに洗った手を見せてくれる子どもたち=2019年3月

AAR Japan[難民を助ける会]は、パキスタン北西部のハイバル・パフトゥンハー州(以下、KP州)で、学校の水衛生環境を改善する活動を行ってきました。2019年からは、障がい児も地域の公立小学校で学べるように、インクルーシブ教育を推進する活動をKP州ハリプール郡で実施しています。

具体的には、バリアフリー施設の整備や教員向けのインクルーシブ教育研修の実施などで、また、対象校の学区に暮らす障がい児の家を訪問して、保護者に障がい児の就学を促す活動も行っています。加えて、インクルーシブ教育推進の予算を確保するよう、KP州政府への働きかけも行っています。

これまでに私が訪問したいくつもの小学校の中で、教育環境の改善のために特にがんばっていたのが、ウメルカナ小学校のイクバル校長先生です。イクバル先生は2023年11月に退職されましたが、自らも車いすを使用し、障がいのある子どもたちのロールモデルになっていました。

AARは、同校にバリアフリー・トイレや手すりを設置し、また、障がいへの理解を深めるために教師や子どもたちへの啓発活動も行いました。

「以前は、学校の正門から校舎までの道が舗装されておらず、教室に行くまでに階段もあったため、他の先生が校門から教室まで連れて行ってくれていました。また、校内のいたるところにある段差のため、教室から別の教室に移動することも非常に困難でした。AARのバリアフリー工事のおかげでそれらの困難が解消され、感謝しています」と、イクバル先生は話してくれました。

二人の男性が席について話している

退職前のイクバル校長先生(右)

先日、2019年にAARがバリアフリー・トイレや手洗い場の建設を支援したダラー女子小学校を、AAR現地スタッフが訪問しました。子どもたちが毎日使うものなのでどうしても汚れますし、年数が経てば傷みも出てきます。

入口の前にスロープが付いたトイレの外観

5年前にAARが支援した小学校のバリアフリー・トイレが、現在もきれいに使われている

しかし、用務員さんたちが日々丁寧に維持管理をしてくれていたおかげで、トイレや手洗い場はきれいな状態に保たれていました。このような状態で使っていてくれると、支援をしてよかったなと心から思います。

当時の校長先生は既に退職されていましたが、「自分も地域の障がいのある子どもたちのためにボランティアをしたい」と申し出てくれました。

新しい手洗い場の写真

5年前、設置した際に撮影した手洗い場

手洗い場で男性が水を汲んでいる

今回撮影した手洗い場。タイルや蛇口が一部損傷しているが、きれいに保たれている

パキスタンの子どもたち、特に障がい児の教育環境は、決して十分に整備されているわけではありません。そのような中でも、子どもたちが教育を受け、よりよい未来を切り開けるようにと、がんばっている校長先生がパキスタンの小学校には大勢いらっしゃいます。

教育予算が限られているため、必要な教材を自費で購入する校長先生もいましたし、「障がい児の受け入れのために教室を使ってほしい」と申し出てくれた校長先生もいました。病に倒れ、車いすを使用するようになっても、子どもたちに生涯を捧げ、最近逝去された校長先生もいます。

そのような校長先生に心から感謝しながら、パキスタンの子どもたちの教育環境を改善する活動を、校長先生や先生たちとともに続けていきます。

※この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。

*1 UNICEF, “Country Office Annual Report 2023 Pakistan” Page 1

紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局

AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は地雷問題やパキスタン事業を担当

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