2021年1月、バングラデシュ事務所で、総務会計を担当する職員ジュバイルが、旧知のナフィシャさんと結婚しました。富裕層に限らず結婚式を大規模に行う当国では、500人ほどの参列も珍しくありません。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「晴れの舞台を大規模に祝いたい」と望む家族を2人はなんとか説得し、近親者36人に絞って実施しました。昔ながらの慣習を大事にする当地において、結婚式と2人の新生活はいかに。バングラデシュ事務所の宮地佳那子がレポートします。
バングラデシュにおいて、ムスリムの一般的な結婚の前提条件は、1. 当事者双方の同意、2. 2人の証人、3. マフル (Mahr) という新郎から新婦への贈与(現金、貴金属、不動産など)だそうです。マフルは新郎側の経済状況によって、結婚後や分割での贈呈も可能です。これらに加えて、お互い、結婚前にプレゼントを贈り合うのも一般的です。2人の場合も、新郎のジュバイルからはサリーや化粧品など、新婦のナフィシャさんからはスーツや時計などを贈りました。
結婚式(ニカ=nikah)は、2人の実家があるダッカのレストランで執り行われました。イスラムの慣習に則って、結婚前の新郎新婦は、少し離れて座ります。結婚の登録官と、親戚のなかで証人となる男性2人が、最初に新婦を訪れ、登録官が結婚の契約書を読み上げ、新婦が復唱します。次に、登録官と証人は新郎を訪れ、証人が新郎の手をにぎっている間、登録官が契約書を読み上げ、新郎が復唱します。
ナフィシャさんは契約書が読み上げられる間、涙を流していました。バングラデシュの慣習では、女性は結婚すると、実家への帰省は稀になり、義理の家族をとても気遣うようになるため、その責任を感じていたのです。
夫も、経済的な支出をはじめ、多くの責任を伴うためジュバイルも緊張の面持ちです。
その後、式の責任者が結婚の説教(クトバ= Khutba)を始めました。アッラーを称えることから始まる、旋律の美しい説教です。説き終わると、参加者に2人の正式な結婚を宣言します。
式は通常に比べて簡素であるものの、厳粛で緊張感が漂っていました。翌日から2日間は、互いの実家を訪れ、小人数で食事を楽しみ、緊張もほどけたようです。
その後間もなく、2人はダッカからコックスバザールに戻ってきました。
「何があっても支え合って尊重し合いたい」
「お義母さん、お元気ですか?」「朝ごはんは食べましたか?」「お気をつけて」
ナフィシャさんは、慣習にならい、夫の両親や兄に電話をする毎日が始まりました。通勤中の時間を活用しますが、毎回話題を見つけるのは大変で、会話が冒頭のように短いものや、ありきたりなものになるのも無理はありません。
また、結婚を機に、2人は新居のアパートに移り住みました。…と言っても、共用部分はまだ工事中。工事が完了すれば、屋上では海に沈む夕日を眺めながら、仲睦まじい時間を過ごせそうです。
共働きなので、家事は分担しています。ジュバイルは朝食作りや皿洗いを担当。ナフィシャさんは帰宅後に夕食作りと翌日の昼食の作り置きをします。洗濯機はなく、基本的に衣類は自分のものを自分で洗います。掃除機もありませんが、床や壁の拭き掃除が欠かせません。なにせアパートは工事中で、乾季(11月から3月頃)の現在、土埃がひどいのです。
慣習にならって義母への日々の連絡や、共働きしながら家事をこなすのは大変ですが、2人で一緒に暮らせる喜びは格別なようです。悲喜こもごもの新婚生活ですが、2人は「何があっても、支え合って、尊重しあいたい」と笑顔でした。どうぞいつまでもお幸せに!
宮地佳那子MIYACHI Kanakoバングラデシュ・コックスバザール事務所
大学時代のオーストラリア留学で、国際人権NGOの活動に携わる。新聞記者、母子保健専門のNGOを経て、2019年11月からAARへ。平和構築の修士号取得。「ジェンダーの観点から難民支援に関わりたい」神奈川県出身