どこに赴任するにも、多くの駐在員にとって悩みの種となるのが、言語の問題ではないでしょうか。仕事は英語で済むとはいえ、例えば市場での買い物やタクシーに乗るとき…現地の人々が使っている言語が必要になります。多言語が飛び交うトルコ・イスタンブール事務所の日常を、駐在員の小島秀亮が紹介します。
トルコの公用語は、トルコ語です。駐在するイスタンブールでは比較的多くの人が英語を話せますが、地方では多くの場合トルコ語しか通用しません。日本で日本語以外が通じにくいのと似ていますね。
ただ、2011年のシリア危機勃発以降、約360万人のシリア難民を受け入れているトルコでは、イスタンブールの街中でも大多数のシリア人が話すアラビア語を耳にする機会がたくさんあります。シリア国境に近い地域では、その割合はより高くなります。
イスタンブール事務所では、日本、トルコ、そしてシリアの3つの国籍プラスαの職員がともに仕事をしています。全職員での会議の際などは英語を使いますが、小さなグループに分かれれば、それぞれが話しやすい言語で会話が始まります。たとえば、1. 英語(全員の共通語)、2. 日本語(駐在員同士)、3. トルコ語(トルコ人同士、トルコ人・シリア人の間)、4. アラビア語(シリア人同士)といった具合です。
そして「プラスα」がクルド語です。クルド人は、「国を持たない最大の民族」と言われるように、自らの国家を持つことなくトルコやシリア、イラクなどに点在し、それぞれの生活圏で少数民族として暮らしています。
AARスタッフの中には、クルド系トルコ人やクルド系シリア人も多くいます。彼らは全員、クルド語のほかに、トルコ語とアラビア語を話せるので、クルド語を聞く機会はあまりありません(記事タイトルを「5言語」ではなく「4プラスα」にしたのは、こんな理由でした)。
さて、自他ともに認める「語学おたく」の私は、「まずはトルコ語をどうにかしなくては!」と夜な夜な家で勉強しつつ、仕事の休憩時間には、シリア人スタッフからアラビア語を、トルコ人スタッフからはトルコ語を習い、ゆくゆくはクルド語も…などと企んでいます。ここでは、インターネット上でも情報が少ない、アラビア語とクルド語のフレーズを、トルコ語と併せていくつかご紹介しましょう。
日本語 | トルコ語 | アラビア語 | クルド語 |
こんにちは | Merhaba! メルハバ |
مرحبأ マルハバン |
Raj baş. ラジュバシュ |
ありがとう | Teşekkürler! テシェキュルレル |
شكرأ シュクラン |
Spas. スパース |
元気ですか? | Nasılsın? ナスルスン |
كيف الحال؟ キーフルハール |
Çawa yî?
チャワイィ |
元気です | İyiyim イイイム |
كويس クワイエス |
Baş im. バシュム |
美味しい | Güzel ギュゼル |
طيب タイイブ |
Xweşe. ハシェ |
お腹すいた | Ben acıktım. ベン アジュクトゥム |
أنا جوعان/جوعانة アナジャウアーン(男) アナジャウアーナ(女) |
Ez birçîme. エズ ブルチーメ |
さらに、現地スタッフが厳選した3言語の諺をご紹介します。私と同じように、読者の中にも「語学おたく」が一定数いることを願いつつ…。
▼トルコ語 Damlaya damlaya göl olur.
(ダムラヤ・ダムラヤ・ギョル・オルル)
日本語の諺「塵も積もれば山となる」に該当します。これはわかりやすいですね。
▼アラビア語 إذا كان صاحبك عسل لا تلحسو كلو
(イザー・カーナ・サーヒブカ・アスィル・ラー・タルハスー・クッルー)
日本の諺で強いて言うなら「親しき中にも礼儀あり」や「仏の顔も三度まで」でしょうか。すごく親切でいつも優しい友達がいたとしても、その善意や優しさを良いように利用し過ぎると、いつかはその優しさも枯渇してしまう、善意に頼りすぎるなという教訓です。
▼クルド語 Şêr şêre, çi jine, çi mêre
(シェール・シェーレ・チジーネ・チメーレ)
この諺に匹敵する日本の諺は思い浮かびません。ここでのライオンは「勇敢な者」を表しています。つまり、勇敢な人に男も女も関係ない、勇気のある行動をする人は性別に関係なく存在するということです(これを同僚から聞いたとき、クルド人に男女平等の考え方が進んでいると驚きました)。
3つとも全く違う言語なのに、どことなく日本語と似た言い回しがあるのが面白いですね。どの言語でも「教訓」になり得ることは共通しているのでしょうか。皆さんがほんの少しでも、トルコ、シリア、そしてクルドを身近に感じていただけていたら嬉しいです。
どの言語も難しくなかなか上達しませんが、仕事をしながら好きなことを学べるのは大変嬉しい環境です。亀の歩みのようではありますが、少しずつ話せる言葉を増やし、いずれは難民の方々と簡単な事柄だけでも直接コミュニケーションをとれるようになりたいと、単語の暗記に勤しむ毎日です。
小島 秀亮KOJIMA Hideakiトルコ・イスタンブール事務所
大学院在学中に「国家の枠組みの外に置かれた人々」に関心を持ち始める。台湾のNGOやフランスの日本国総領事館での勤務を経て2021年にAAR入職。趣味は旅行と語学とトランペット。栃木県出身