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スタッフ日記[国際協力の現場から]

福島は今-東日本大震災12年

2023年3月3日

東北地方を中心に未曽有の被害をもたらした東日本大震災(2011年)から12年。被災地ではインフラが整備され、避難していた住民の帰還が進む一方、なお多くの課題が残されています。AAR東北担当の大原真一郎が福島県の現状と支援活動についてお伝えします。

過疎化・高齢化が深刻な原発周辺地域

東日本大震災から12年の時が過ぎました。福島第一原子力発電所の大事故の負の遺産である放射能汚染問題は、未だ解決には至っていません。地元の認定NPO法人「いわき放射能市民測定室たらちね」によると、各地の土壌や海水、山野地で採取されるキノコ、山菜からは現在も高い放射能数値が確認されています。原発から排出される冷却水、いわゆる処理水も、充分な情報提供や住民の了解がないまま、海洋放出することが決定されようとしています。

そうした状況の福島第一原子力発電所の周辺地区の過疎化・高齢化は著しく深刻で、新型コロナウイルス感染拡大の影響と相まって、孤独死の事例が散発しています。2017年4月に強制避難解除になった福島県のある地区の80代男性は「近所の40代男性が死後数日も経ってから発見された。警察が検死したところ餓死だったそうだ」と話していました。

AARはこうした事態を防ごうと、福島県内の地方自治体や自治会、社会福祉協議会、医療機関と連携し、マッサージや傾聴活動、菜園活動、手芸教室などさまざまな交流イベントを開催してきました。2022年4月~12月に98回、2011年からを合わせると1000回以上実施し、孤立防止とコミュニティの再構築の支援を続けています。

屋内で歓談する人たち

交流イベントでマッサージの順番を待ちながら、歓談。中央が大原=2019年1月、福島県南相馬市

孤立防止の交流支援を継続する中で、福島県川俣町小島地区の住民から次のような話を聞きました。

「東日本大震災のとき、(原発に近い)双葉町や浪江町から大勢が避難してきて大渋滞だった。何が起きたか全くわからないまま、私たちは避難所で炊き出しなどのお世話をしたんです。避難所にお風呂がないから、自宅の風呂を貸した家庭も多かった。そういう地域のつながりによる助け合いは、昔より弱くなったとはいえ今も残っていて、震災の時それが活かせたんです。2019年の台風19号の時も川が氾濫してすごい被害だったけど、死ぬ人はいなかったのは、普段からのつながりがあって、皆で声を掛け合ったからです。死者は出なかったとはいっても、家が流されたり田畑が数年使えなくなったり、被害は甚大だったので、自治会として広瀬川の浸水ハザードマップ作成や河川の抜本的な改修を町に要望したんですね。でも、町は話だけは聞くけど反応が全くないんです」

地域で取り組む被害地図づくり

AARはこうした住民の声を受けて、被災住民が台風19号による河川災害の被害状況を地図に書き込み、それを広く地域社会に発信してはどうかと提案をしました。そして、川俣町社会福祉協議会の協力もあり、県立川俣高校の全校生徒が被害地域を回って被災住民からの聞き取りや現場検証を行い、被害を可視化するプロジェクトが始動しました。

高校生10人くらいが、男性に話を聞く様子

被害状況を聞き取る県立川俣高校の生徒=2022年9月9日福島県川俣町

被災住民が被害状況を地図に書き込むイベントを実施し、その後、高校生が4回の現地調査を通して被災住民と交流しながら、被害状況をインターネット上の地図にまとめました。2022年12月11日に行われた福島県主催の防災イベントで、川俣高校の生徒、自治会とAAR職員が成果発表を行いました。会場を視察した内堀雅雄知事や地元メディアにも成果を伝え、福島県が今年3月に広瀬川の水害危険地域(ハザードマップ)を作成・公表することにつながりました。

イベントブースで説明する高校生

福島県郡山市で開催された防災イベントで地図を発表する県立川俣高校の生徒たち

80代男性はこう話します。

「われわれの地域は震災以降、特に人口が減って年寄ばかりなんだけど、震災や台風の水害の時は住民総出で助け合います。“結”(ゆい)です。田植えや刈り取りはバラバラではとても大変な作業だから、集落の全員でやってきた。そうでないと生きられなかった。だから結というつながりが残っている。今回のみんなで作った被害地図が完成したのも、その結があるからだと思います」

AARは引き続き、被災地の孤立防止の交流活動、震災の教訓を生かした防災・減災の取り組みを続けてまいります。

複数の男女が大きな地図を囲む様子

被害状況を地図に書き込む住民

大原 真一郎OOHARA ShinichiroAAR東北担当

製造メーカー勤務を経て、2011年8月にAAR入職。宮城県仙台市を拠点に岩手・宮城・福島で復興支援に取り組む。2016年熊本地震、2018年西日本豪雨、2018年北海道地震、2019年台風19号などでも緊急支援に従事。(宮城県出身)

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