世界各地の紛争地に埋設され、紛争が終結した後も一般住民を死傷させる対人地雷。「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約」(オタワ条約)が1999年3月1日に発効して20年以上が経過しましたが、その被害は今も世界各地で後を絶ちません。対人地雷あるいは不発弾だけでなく、近年は反政府武装勢力などが使う即席爆発装置(IED)の被害が急増しています。
地雷問題の現状について、世界編・日本編の2回にわたって数字をキーワードに見てみましょう。まず数字を見て、それが何を意味するのか考えてみてください。
► 164
オタワ条約の締約国は2023年3月15日時点で164カ国です。この164カ国を地理的にみると大きな特徴があります。例えば南北アメリカ地域では、米国とキューバを除くすべての国が締約国になっています。アフリカではエジプト、リビア、モロッコ以外は締約国です(西サハラを除く)。ところが、アジアに目を移すと締約国の数は大幅に減って、特に東アジアでは締約国が日本だけという非常に寂しい状況にあります。
► 5,544
地雷禁止国際キャンペーンの「Landmine Monitor 2022」に出てくる数字です。これは2021年に世界中から報告された地雷・不発弾などの被害者の数です。実は対人地雷だけの被害者は減っていると考えられています。というのも、地雷除去はその性格上、新しい地雷が埋設されない限り、活動を続ければ続けるほど兵器の数は減っていくからです。対人地雷という兵器による被害が減っているにも関わらず、顕著に被害者数の減少がみられない理由は、何といっても即席爆発装置(IED)が増えていることです。これによって被害に遭い、死傷する人の数が多いのです。
2019年に除去された対人地雷は12万3,000個以上、2021年には11万7,000個以上と報告されています。従って、地雷除去活動はそれなりに進んでいると言えます。2021年に最も大きな面積を除去したのはカンボジアとクロアチアです。合わせて78㎢の土地を安全にし、7,500個以上の対人地雷を除去しています。
2019年に5,554人だった被害者は 2020年は7,073人(※1)、2021年は5,544人(※2)を記録しています。死傷者数の増減に大きな影響を及ぼしているのは、シリアとアフガニスタンの情勢です。なお、2022年の死傷者数は増加する懸念があります。その理由は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻です。
► 5,000万
これは、世界中にあると考えられている貯蔵対人地雷の数です。約5,000万未満ではないかと考えられています。オタワ条約の締約国では、条約で認められている例外的な保有を除くと、164カ国のうち160カ国が貯蔵地雷を保有していません。ですが、締約国に入っていない33カ国のうち30カ国は貯蔵地雷を有していると考えられています。
ただし、貯蔵地雷の数字はかなりあいまいです。というのも、締結国ではない中国の貯蔵対人地雷の数によって、この数字は大きく左右されるからです。中国は過去に1億1,000万個保有していると考えられていましたが、中国が2014年に「Landmine Monitor」に報告したのは、「500万個以下だが、数え方にもよるので不確定」というものでした。
貯蔵対人地雷の実態は依然として分かりません。オタワ条約の締約国は貯蔵対人地雷の数を報告する義務がありますが、非締約国からの報告はなされないためです。
► 55
これは「回避教育」が行われた国・地域の数です。地雷の被害に遭わないように、どんな形状の地雷があるか、それを見つけた時はどう行動すればいいかを、子どもを含む地域住民に伝える啓発活動を意味します。以前は「地雷回避教育」と呼んでいましたが、先述した通り、対人地雷や不発弾だけでなく、近年はIEDが急増して被害の実態はずいぶん変わってきています。そのため、今日では「Mine Risk Education」ではなく、「Explosive Ordnance Risk Education」という表現が用いられるようになりました。「爆発物回避教育」と表記したほうが分かりやすいかもしれません。回避教育の重要性は、最近特に強調されいています。
オタワ条約締約国のうち、2021年には30の締約国で回避教育が行われました。この分野は地雷対策の中で新型コロナウイルス感染症の影響を最も大きく受けた可能性があります。感染拡大予防のため、3密を避けることが世界中で推奨されたことにより、例えば学校の教室などで直接教えることが難しくなりました。当会では、感染予防に十分配慮をしながら、回避教育活動を行いました。
► 2,560万
2021年度の地雷対策分野の中で、被害者支援に割り当てられた金額は2,560万ドル、総額のわずか5%に過ぎません。残念ではありますが、被害者支援への拠出額は2019年度が4,310万ドル、2020年度が3,330万ドルと近年大幅に減っています。これは極めて憂慮すべき事態だと考えます。国連地雷対策サービス部(UNMAS)が主導する地雷対策では、除去活動や回避教育活動への各国ドナーからの資金拠出は比較的集まりやすいと言われています。他方、被害者支援にはなかなか手が届かないというのが実情です。
AAR Japanは地雷被害者を含む障がい者の支援を各地で継続しています。ウガンダで現地NGOと協力して、地雷・不発弾の被害者支援を実施しているほか、ミャンマーで約20年運営している障がい者のための職業訓練校では、地雷被害者の訓練生や教員を受け入れています。
AAR Japanの地雷対策の取り組み
国連地雷対策サービス部(UNMAS)の地雷対策は、次の5本の柱で成り立っています。それは、地雷除去(Clearance)、回避教育(Risk Education)、貯蔵地雷の廃棄(Stockpile destruction)、被害者支援(Victim Assistance)、廃絶活動(Advocacy)です。このうち、AARは貯蔵地雷の廃棄を除く4つの活動に取り組んでいます。貯蔵地雷の廃棄は基本的にオタワ条約締約国の政府が行いますが、専門性を持つNGOが手助けするケースもあります。
地雷除去:当会の協力団体である英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」がアフガニスタン、ウクライナで実施する地雷除去を資金面で支援しています。
回避教育:アフガニスタン、シリアで実施しています。
被害者支援:ウガンダ、シリアで地雷被害者をサポートしています。
廃絶活動:AARは対人地雷の製造・使用の廃止を目指す国際的なNGOの連合体「地雷禁止国際キャンペーン」(ICBL)の主要メンバーとして、ノーベル平和賞(1997年)を共同受賞しました。地雷廃絶キャンペーンの絵本『地雷ではなく花をください』シリーズを通じて、地雷問題についての理解を日本社会で広げるとともに、講演や出前授業などでも地雷廃絶を呼び掛けています。
紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局
AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。