ロシア軍との戦闘が続くウクライナ南部ヘルソン州を流れるドニプロ川で2023年6月6日、水力発電所のダムが決壊し、下流域で大規模な洪水が発生しました。国連人道問題調整事務所(UNOCHA)の発表によると*1、同月9日には620平方キロ(東京23区とほぼ同じ面積)が浸水したものの、その後徐々に水が引き、13日には180平方キロに減少しました。このダムは地域の水がめの役割を担っており、20万人以上が十分な生活用水を入手できなくなりました。ここでは地雷対策における今回のダム決壊の影響を考えます。
ヘルソン州の地雷の状況
国連人権高等弁務官事務所(UNOHCHR)は軍事侵攻が始まった2022年2月24日から2023年2月15日の間、ヘルソン州で地雷や爆発性戦争残存物によって民間人42人が死亡、45人が負傷したと報告してます*2。これは激しい軍事衝突が続くハルキウ州、ドネツク州に次いで3番目に多い犠牲者数です。
地雷は大きく2種類に分けられます。ひとつは対人地雷全面禁止条約(通称オタワ条約)で禁止されている対人地雷で、もうひとつは対車両(戦車)地雷です。対人地雷は大判焼きほどの大きさのものもあり、火薬も100~数100グラム程度です。最新の報告書によると*3、ヘルソン州ではPMN-2(旧ソ連およびロシア製)やPMN-4(ロシア製)など、踏むと爆発する爆風式地雷の存在も確認されています。
洪水の地雷への影響
ドニプロ川が横断するヘルソン州は、今回の洪水によって甚大な被害を受けています。洪水が起きると地雷はどうなるのかは、実はあまりよく知られていません。しかし、上述の対人地雷は非常に軽く、浅く埋められることも多いため、洪水で流されてしまった可能性があります。
また、同州ではOZM-72(旧ソ連およびロシア製)というタイプの対人地雷の存在も確認されています。この地雷は釣り糸のようなトリップワイヤーが引っ張られると爆発します。洪水によって爆発してしまった可能性もありますし、すぐに作動する状態のまま残されている可能性もあります。
今回の軍事衝突では、ロシア、ウクライナ両軍が対戦車地雷を使用していることが明らかになっています。対戦車地雷は5キロほどあるため、対人地雷よりは流されにくいと考えられます。とはいえ、埋められていた場所や水流の強さによっては移動している可能性もあります。他にも、ロケット弾などの爆発性戦争残存物が洪水によって流されていることも考えられます。
地雷原の再調査
地雷除去団体は地域住民からの聞き取り調査などを行い、地雷がある場所の目星をつけます。地雷があると考えられる場所には、人が立ち入らないようにどくろマークの赤い看板を設置します。その後、リスクの高い地域から除去活動を進めます。
今回の洪水で地雷が流されたとすれば、地雷原となり得る土地が広がったことを意味します。ある程度地雷原を特定できていたとしても、再度調査しなければなりません。また、洪水で流れ付いた物体が地雷や爆発性戦争残存物なのかどうか、被災地域の住民が判断できるようにする必要があります。危険な爆発物への理解を深めるための活動は、現地で活動する団体によって既に開始されています。
ダムの決壊と洪水によって、ウクライナの地雷対策はますます多くの資金と時間がかかることになります。地雷除去はこうした予測できない事態や困難の連続です。しかし、活動を続けていけば状況は必ず改善します。米国の弁護士・作家のクリスチャン・ネステル・ボヴィーは「すべてが失われようとも、まだ未来が残っている」という言葉を残しました。試されているのは、あきらめずに続けていくという私たちの覚悟、そして強い意志だと思います。
*1 https://reliefweb.int/report/ukraine/ukraine-humanitarian-impact-and-response-flash-update-7-destruction-kakhovka-dam-16-jun-2023-enuk
*2 https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/press/hrmmu-civilian-casualties-24feb2022-15feb2023-en.pdf
*3 https://reliefweb.int/report/ukraine/landmine-use-ukraine
紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局
AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。