解説コーナー Commentary

進まないアフリカの地雷対策

2024年8月5日

世界の紛争地で地雷対策が進む中、アフリカの地雷問題は改善の道を歩んできましたが、今、大きな変化が生じています。政治状況の不安定を背景に、即席爆発装置(IED)の使用が急増しているのです。この5年ほどの間のアフリカでの変化を解説します。

地雷汚染状況の世界地図

対人地雷による汚染状況。濃いピンクが汚染地域、オレンジが汚染残留地域、薄いピンクがIEDの汚染の疑いがある地域、グレーが除去完了地域=出典「Landmine Monitor 2023」

オタワ条約締約国 横ばいのまま

「今すぐ地雷・爆発物回避教育をする必要がある。国際的な支援が必要なんだよ」。今年4月、スイス・ジュネーブで開かれた地雷対策の国際会議「第27回国際地雷対策プログラム責任者会合)で会った国連地雷対策サービス部(UNMAS)のスーダン事務所長に、真剣なまなざしで言葉をかけられました。背景には一体何があるのでしょうか。

まずは対人地雷禁止条約(通称オタワ条約)の締約状況を見てみましょう。5年前の2019年7月、AARホームページに「アフリカの地雷問題を考える」という記事を掲載しました※¹。当時と比べると、依然としてエジプト、リビア、モロッコが対人地雷禁止条約(通称オタワ条約)の締約国になっていません。残念ながら、この点では進展は全くみられません。

モザンビーク 地雷対策先進国から一転

大きな変化は、アフリカの地雷対策先進国とされてきたモザンビークでの内戦激化です。同国北部カーボ・デルガド州で、2017年から断続的に政府軍と反政府勢力による戦闘が続いていましたが、2020年以降、激しさを増しています。国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)によると※²、58万2,764人の国内避難民が生じています。地雷除去活動を地道に行い、一度はMine-free(地雷除去の完了)を宣言した同国ですが、2023年のプロテクション・クラスターの報告※³では、同州の北東部でIEDによる被害が少なくとも16件ありました。モザンビークはオタワ条約の締約国で、対人地雷の使用が禁止されており、これらは反政府勢力による使用と考えられます。

IED 第三者による再利用の危険も

アフリカにおけるIEDによる被害は、深刻さを増しています。4月の国際会議でも、ナイジェリアなど複数の国での被害情報が報告されました。また、西アフリカのマリでは、道路や橋、野原にIEDが仕掛けられたり、爆発性残存物(ERW=不発弾や放置された爆弾など)があったりすることで、地域の人々の行動に大きな支障が出ています。2022年には230件、2023年には249件の爆発事故が発生しました※⁴

紛争地一帯では、未使用の地雷や砲弾が野ざらしになっていることがあり、それが爆発したり、第三者がそれらをIEDの材料として再利用したりするリスクが指摘されています。そのため、地雷対策、特に除去活動を行う団体が、武器(特に銃などの小火器)や弾薬の管理も行うようになっています。具体的には小火器にマーキングし、記録して、治安当局が管理できるようにすることで不正流失を予防します。また、野ざらしにされていた弾薬や砲弾、地雷などは一度回収し、まとめて爆破処理します。「NGOがそんなことまでするんだ!」と驚かれるかもしれませんが、やらざるを得なくなったということです。ただし、これはアフリカに限った話ではありません。

スーダン 地雷による汚染が首都にも

アフリカでの地雷の状況を語る時、忘れてはいけないのはスーダンです。2023年4月にスーダン国軍(Sudanese Armed Forces)と即応支援部隊(Rapid Support Forces)と呼ばれる準軍事組織の間で発生した武力衝突で、UNHCRは678万6,816人が国内避難民となり、周辺国に逃れた人々は185万5,311人に上ると報告しています※⁵。国連のクレメンテ・N・サラミ・スーダン人道調整官は2024年5月30日、スーダン北部アル・ファシェールの状況をめぐって、「すべての当事者は、人口密集地における爆発性兵器の使用を避けなければならない」との声明を発表しています※⁶

「回避教育を手伝って」

ジュネーブの国際会議の際、UNMASスーダン事務所長は、今回の軍事衝突では首都ハルツームで激しい戦闘が生じたため、東部のポート・スーダンに事務所を構えていると話していました。また、ハルツームや周辺でも今後、除去活動や爆発物回避教育、被害者の支援が必須となること、ポート・スーダンにいる国内避難民に回避教育を行っているが、十分に実施できていないことなどを教えてくれて、「回避教育を手伝ってほしい」という言葉もありました。当会はスーダンで2006年から2019年まで爆発物回避教育を行っており、同国でのニーズの高さを改めて実感しました。

義足をテーブルに置いた青年

義足を手に生活状況を説明する地雷被害者=ウガンダ西部ホイマ県で2024年2月23日撮影

このほか、リビアやエチオピアなどアフリカには地雷対策が必要で、活動が続けられている国が多数あり、残念ながら5年前と比較して状況が好転したとは言い難い状況にあります。今年2月、俳優のサヘル・ローズさんが当会とともに訪問したウガンダは、2012年に地雷や不発弾の除去が完了した国ですが、同国でも地雷や不発弾による死傷者が報告されているだけで2,808人(2019年末)おり※⁷、被害者への支援が引き続き必要とされています。

※1 https://aarjapan.gr.jp/report/1295/
※2 UNHCR Mozambique: Operational Update April 2024,
※3 プロテクション・クラスターは、UNCHRのリーダーシップの下で運営されるNGOや国際機関などのネットワーク。紛争や自然災害などを含む人道危機に際して保護分野の活動を行う。地雷対策はプロテクション・クラスターの傘下のひとつに位置付けられる。
Mozambique Protection Cluster – Security and Protection Solutions Indicators 2023,

※4 https://www.unocha.org/publications/report/mali/mali-humanitarian-access-constraints-january-december-2023
※5 Sudan Situation: Regional Displacement Update ( as of 27 May 2024),
※6 Statement by the Resident and Humanitarian Coordinator for Sudan, Clementine Nkweta-Salami, on the situation in Al Fasher, North Darfur State [EN/AR]
※7 Landmine Monitor Uganda Country Page, (2024年7月18日閲覧)

紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局

AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。

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