解説コーナー Commentary

世界一の地雷被害国:ミャンマー

2025年2月10日

地雷禁止国際キャンペーン(International Campaign to Ban Landmines, 略称ICBL)のランドマイン・モニターレポート2024(以下、LM2024と略)によると、2023年にミャンマーで報告された地雷による死傷者数は1,003人[1]で、世界最多となりました。その背景と対策について解説します。

2022年以降、被害者数が急増

ランドマイン・モニターレポートは、世界各地の地雷対策や地雷の被害の状況などを網羅した報告です。1999年に初めて発表され、最新のLM2024では2023年の状況が報告されています。

以前からミャンマーでは、地雷等による被害が数多く生じていました。ランドマイン・モニターレポート2019によれば、1999年から2018年までの20年間で、ミャンマーでは地雷や「即席爆発装置(IED)[2]」により4,623人の死傷が生じていました[3]。アフガニスタン[4]やコロンビアなど、より多くの被害が生じている国もありますが、年平均で約231人というミャンマーでの被害はかなり多いといえます。

ミャンマーの被害者数が特に増加したのは2022年以降で、同年は545人、2023年は1,003人となっています。

ウクライナの100分の1の国際支援

なぜミャンマーでの死傷者数が増えているのでしょうか。軍事衝突が死傷者数激増の根本的な原因であることは間違いありませんが、それだけではありません。例えば、ロシア軍とウクライナ軍による武力衝突が2022年から続いているウクライナでは、2023年の地雷や爆発性戦争残存物(ERW)による死傷者数は580人で、ミャンマーよりも少数です。

その理由は大きく二つあると考えられます。第一に、ミャンマーでの地雷対策、特に国際的なNGOや民間企業による地雷原を特定する調査や除去活動が、地域的な諸事情のため十分になされていません。回避教育もごく限られた地域でしか実施されていないのが現状です。これらの活動が行われれば、死傷者数を一定数抑止できると考えられます。

第二に、これは第一の点とも関連しますが、ミャンマーの地雷対策に対しての国際的な支援が、極めて乏しいことです。LM2024によれば地雷対策に対しての国際的な資金協力は2022年には79,840万ドル、2023年には79,830万ドルです。2019年から2021年には543~565万ドル台で推移していたことからすると、大きく伸びています。この伸びはウクライナへの支援が大半を占めています。確かにウクライナでの支援は極めて重要であり、AARも実施しています。とはいえウクライナは2023年には30,810万ドルの支援を受けていますが、ミャンマーはわずか330万ドル、つまりウクライナの約100分の1しかありません。この差は歴然としています。

一部地域から地雷対策や被害者支援を

内戦が続くミャンマーの状況が好転するか、と問われれば難しいのが現実です。紛争当事者に対人地雷を使用しないように求めていくことは不可欠ですが、他にできることはないでしょうか。

現実的にできることとしては、まず武力衝突が終息した地域での地雷対策、特に調査や除去、回避教育です。例えばアフガニスタンでは現タリバン暫定政権と前政府軍の間で戦闘が続く中でも除去活動や回避教育がされてきました。これらの活動は紛争と関係のない地域住民を守るうえで不可欠な活動だと紛争当事者に理解されてきたためです。

次いで、被害者の支援です。すでにミャンマーには数多くの被害者が生存し、障がいのある人も多くいます。義肢装具や車いす、AARが行っているような障がい者のための職業訓練などが欠かせません。国連の専門家の報告[5]からは、彼らのおかれた状況がいかに困難なものかが伝わってきますが、こうした支援は特に地方では行き届いていません。より脆弱な立場にある人々への支援は不可欠であり、腰を据えて長年取り組まなければならないことは言うまでもありません。

地雷対策のための国際的な支援の増額も必須です。例えば、ミャンマーでの人道支援計画では2024年に地雷対策で支援する対象者を200万人としていますが、実際に支援を受けているのは5万人で、目標の2%にすぎません[6]。ミャンマーへの国際的な支援金を増額しつつ、当面可能な支援の強化が求められています。

[1] UNICEFのデータでは1,052人となっている。
[2] IED : Improvised Explosive Device 即席で作られた爆発装置。形状は多岐に渡り、圧力鍋やポリタンク容器、自動車のバッテリー等の日用品を改造したものや、携帯電話型のものなど、一見して危険なものには見えないものが多く、探知も難しい。
[3] INTERNATIONAL CAMPAIGN TO BAN LANDMINES, “LANDMINE MONITOR 2019 26TH ANNUAL EDITION”, Page 54
[4] 例えば上記LM2019ではアフガニスタンでは同時期の死傷者数が27,670人となっている。
[5] UNITED NATIONS HUMAN RIGHTS OFFICE OF THE COMMISSIONER, “Myanmar amputees under siege by junta landmines, harassment and blockades of prosthetics, say UN experts”, November 22, 2024
[6] UNOCHA, “MYANMAR HUMANITARIAN NEEDS AND RESPONSE PLAN 2024 ADDENDUM”, Page 21, 

紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局

AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。

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