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アメリカの対外支援縮小 世界の地雷対策に影響

2025年3月14日

トランプ大統領の就任以来、米国では矢継ぎ早に様々な政策転換が行われています。ルビオ米国務長官は3月10日、米国の対外援助を担当する国際開発局(USAID)の事業の83%を打ち切ったと明らかにしました。米国は地雷対策への世界最大の資金拠出国であり、すでに地雷対策活動を停止せざるを得ないNGOが相次いでいます。米国の政策変更が今後世界の地雷対策に与える影響について考えます。

地雷除去の様子

地雷を起爆させるトリップワイヤーを探すヘイローの除去要員=ウクライナの首都キーウ近郊(紺野誠二撮影)

トランプ大統領は就任初日の1月20日、「米国の対外援助の見直しと再編制(REEVALUATING AND REALIGNING UNITED STATES FOREIGN AID)」という大統領令を発令しました[1]。この中で「米国の対外開発援助は、プログラムの効率性と米国の外交政策との整合性を評価するため、90日間一時停止する」としています。米国の国際開発局(United States Agency for International Development、通称USAID)については、廃止を含む見直しがなされています。

大手国際NGO 次々地雷対策を停止

既にいくつかの大手国際NGOは米国政府の資金による地雷対策活動の停止を余儀なくされています。例えば、ノルウェーに本部を置く「Norwegian People’s Aid(NPA)」は12カ国で米国政府資金による活動を停止しており[2]、さらに90日間の援助一時停止期間中に事業期間が満了となるイラク、パラオ、タジキスタンでの活動終了の準備を進めています[3]。イギリスに本部を置く「Mine’s Advisory Group(MAG)」も、米国政府の資金による活動停止を1月27日に発表し[4]、カンボジアでも除去活動が一時停止となっています。ちなみにAAR Japan[難民を助ける会]は米国政府からの資金を受けていないため、事業への影響は出ていません。

この状況に対し、地雷対策をはじめ爆発物などに関するアドボカシー活動を行っているNGOであるACTION ON ARMED VIOLENCE (AOAV、本部イギリス)のエグゼクティブ・ディレクター、イアン・オーバートン(Iain Overton)氏は「地雷除去の努力を止めることは、人間の苦しみを長引かせ、世界の安全保障を危うくするという壊滅的な結果をもたらしかねない。もしこれが一時停止よりも長引けば、無数の人命を危険にさらす近視眼的な決定となりかねない」と米国政府を批判しています[5]。米国政府以外の資金による活動は継続されていますが、地雷対策に大きな影響が出ていることは間違いありません。

米国は世界地雷対策費の約4割を拠出

米国は対人地雷全面禁止条約(通称オタワ条約)の締約国ではなく、クラスター弾に関する条約(オスロ条約)にも参加していません。しかし、長年にわたって国際的な地雷対策の最大の拠出国であり続けてきました。Landmine Monitor Report 2024によれば、2023年の地雷対策への国際社会からの支援額は7億9,830万ドル。うち米国政府の拠出額は3億980万ドルで、38.8%を占めます。2番目に多いのはドイツの8,030万ドルで、米国は文字通り「ケタ違い」の額です。日本は6,750万ドルで、米国の5分の1強です。

そもそも国際社会の地雷対策への拠出が大幅に増えたのは1999年のオタワ条約(対人地雷禁止条約)の発効がきっかけでした。オタワ条約第6条で、地雷対策への国際的な協力および援助が求められたためです。米国の地雷対策への拠出額も、1999年の約8,129万ドルから、2010年に約12,958万ドルとなり、以後も右肩上がりでした。

世界の地雷対策への拠出額は、2019-2021年ごろまでは総額5億5,000万ドル前後で推移しており、2022年に8億ドル近くまで急増しました。米国のウクライナへの拠出が増えたためです。同国は2019-2021年にもウクライナの地雷対策に850万ドル規模の拠出をしていましたが、2022、2023年はいずれも推定9,000万ドル以上と約10倍になっています。

大半は米国国務省から

実は、米国政府の最大の地雷対策資金拠出機関は、USAIDではなく、米国国務省です。同省が毎年発行する報告書“To Walk the Earth in Safety”[6]と、Landmine Monitor Report 2024を突き合わせると、米国の地雷対策の拠出の大半[7]は、同省の核不拡散・反テロ・地雷除去・関連プログラム(Department of State – Nonproliferation, Anti-terrorism, Demining and Related Programs)や国防省から出ていることが分かります。2023会計年度の拠出額は、国務省からの拠出が2つの資金ソース合計で3億5,061万ドル、国防省からの拠出額が3,417万ドル、USAIDからの拠出額が1,347万ドルで、合計3億9,826万ドルになっていました。合計額には地雷対策だけではなく、通常兵器の廃棄のための拠出も含まれていますが、大半は地雷対策への拠出です。

国務省も資金停止 国防省は8%に削減

現状では、USAIDだけでなく、国務省からの資金拠出も停止されています。米ニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、国務省で地雷対策を担当する武器撤去室(Office of Weapons Removal and Abatement)のカレン・R・チャンドラー室長(Karen R. Chandler) は、資金拠出の停止を認めたうえで、「国際的な地雷対策への拠出については、米国の対外援助の見直しに関する大統領の大統領令に沿ったもの」だとしています[8]

国防省の資金拠出については、ピート・ヘグセス(Pete Hegseth)国防長官が、現行予算から8%(約500億ドル相当)を削減し、トランプ大統領の提唱する「国防における米国第一主義」の優先事項に集中させる、と2月20日に発表しています[9]。現時点ではこの8%の中に地雷対策への拠出が含まれるか、逆に資源を優先的に集中される事項に含まれるのかどうかは、はっきり示されていません。

一連の動きに対し、イギリスの地雷除去大手NGO、MAGのCEO、ダレン・コルマック(Darren Cormack)氏は「私たちの活動は、米国の国益に合致していることから、トランプ大統領の第一次政権を含むすべての米国政府政権から強力かつ超党派的な支持を得ています。今後数年間、トランプ新政権と協力していくことを望んでいます」との声明を出しています[10]。イギリスの地雷除去NGO「The HALO TRUST」の米国事務所のディレクター、クリス・ハートリー(Chris Whatley)氏も同様の見解を示しています[11]

かつての米軍派遣国を積極的に支援

コルマック氏らの主張は、これまで米国がどのような国の地雷対策を重点的に支援してきたかを見るとよく分かります。米国国務省の地雷対策を含む通常兵器破壊プログラム(Conventional Weapons Destruction Programme)の拠出額や、Landmine Monitor Reportを見ると、カンボジアやボスニア・ヘルツェゴヴィナ等が上がり、さらにアフガニスタン、イラク、ベトナム、ラオス、コロンビアが続きます。コロンビア以外の国々には、いずれも米軍が派遣された歴史があります。突出して拠出額が多いイラクとアフガニスタンは「テロとの戦い」で戦場となり、ラオスとベトナムにはベトナム戦争の負の歴史が刻まれています。米軍はラオスに多くのクラスター弾を投下し、今も住民の安全を脅かしています。このことは米国が必ずしも国際協力の枠組みだけでなく、関係改善を必要とする国への支援を重視し、国益の観点からも地雷対策の資金拠出をしてきたことを示唆しています。

もちろんそれだけではなく、2023会計年度ではタジキスタンやルワンダなどの国々の地雷対策にも資金を拠出しており、地雷対策のため同国の支援は欠かせません。AARとしては、米国が引き続き国際的な地雷対策に貢献していくように、他のNGOと連携して働きかけを行っていきたいと考えます。

[1] REEVALUATING AND REALIGNING UNITED STATES FOREIGN AID
[2] Statement from NPA: All of NPA’s US-funded activities are put on pause
[3] Termination of activity on expiring US grants 
[4] MAG, “MAG statement on US funding suspension”, January 27, 2025  
[5] U.S. halts global mine-clearing efforts amid foreign aid review
[6] To Walk the Earth in Safety (2024)
[7] Landmine Monitor Report 2024に掲載されている拠出額合計309,756,000米ドルのうち、東南アジア地域への拠出額4,250,000米ドル(全体の約1.4%)だけは拠出を特定できず。

[8] The NEW York Times, “State Dept. Halts Global Mine-Clearing Programs”, January 25, 2025
[9] U.S. Department of Defense, “Hegseth Addresses Strengthening Military by Cutting Excess, Refocusing DOD Budget”, February 20, 2025.
[10] MAG, “MAG statement on US funding suspension”, January 27, 2025  
[11] The NEW York Times, “State Dept. Halts Global Mine-Clearing Programs”, January 25, 2025

紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局

AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。

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