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ウクライナ地雷対策会議2025 成果と課題

2025年10月27日

2025年10月22日(火)と23日(水)に、東京にてウクライナ地雷対策会議2025(UKRAINE MINE ACTION CONFERENCE 2025:以下UMAC 2025)が開催されました。新聞やテレビなどのニュースで会議について耳にされた方も多いと思います。この会議の成果と課題について、地雷対策担当の紺野誠二が解説します。

登壇者発表中の様子

ウクライナ地雷対策会議のサイドイベント

UMACとは?

ウクライナの地雷対策全般について、関心のある各国が議論を行う国際会議です。2023年クロアチアのザグレブで第1回目、昨年はスイスのローザンヌで2回目が開催され、3回目となる今回は「復興に向けた加速」というテーマのもとに議論がなされました。ウクライナという特定の国の「地雷対策」に特化したこのような国際会議は極めて珍しいものだといえます。地雷問題に長年取り組んできた立場からすると、このような会議が日本で開催されるようになったことは、政府の取り組みの成果として前向きに評価したいと思います。

初日は茂木敏充外務大臣がオープニングスピーチ[1]を行い、「ウクライナ地雷対策支援イニシアティブ」[2]を表明しました。日本が今後もウクライナの地雷対策に積極的に関わっていく、という意味では非常に重要なイニシアティブであるといえます。とはいえ、課題も存在しており、その点について触れていきたいと思います。

地雷対策における技術革新

「ウクライナの地雷対策の最大の特徴は何ですか?」と質問されたら、私は「テクノロジーの進展」を挙げたいと思います。ウクライナには多くの国から地雷除去の機械が提供されており、ウクライナ国内にも地雷除去の機械を開発する企業が多く存在します。日本の企業も負けてはいません。サイドイベントの会場では、日本、ウクライナの地雷除去機械を開発する企業がブースを出展しており、メディアの取材も多く入るなど盛況でした。

ウクライナの地雷除去で大きく進展を見せているのがなんといってもドローンの活用です。ドローンにカメラを装着し地雷のあると思われる場所を撮影し、その画像を解析することで、地雷除去の必要性の有無を一定程度判断できます。これは極めて重要なポイントです。多くの方にとって地雷除去の機械といえば、ショベルカーのような重機や金属探知機の改良版をイメージされることと思いますが、現場でまず必要とされるのは「いかに除去活動を行う面積を小さくするか」です。2025年9月時点で、ウクライナの領土の20%弱に該当する136,952㎢が危険のある地域と認識されており[3]、作業を行う面積をできる限り減らすことが重要になります。また、除去の機材を適切に扱えるようになるには訓練が必要であり、人材の育成も重要になります。日本政府、そしてJICAは特に除去機材の供与や除去作業の中核を担える人材を育成するべく、多額の支援を行っています。長年日本政府が地雷対策で支援してきたカンボジアの政府の地雷対策機関を通じてのプロジェクトも行われています。

今後の国際的な地雷対策の動向を占ううえでも、ウクライナの地雷除去、特に機械やデジタル情報の活用については目が離せません。ウクライナで導入した技術を、他の国の地雷対策で活用できるようになれば、世界各地での地雷除去活動にとっても大きなプラスとなるはずです。

アウトプットではなくアウトカムベースの地雷対策を

この表現を初めて耳にされる方も多いかもしれませんが、大きくまとめると、アウトプットとは「その実現のための作業や成果物」を、アウトカムとは「最終的な結果」を意味します[4]。この二つの違いは極めて大きく、ウクライナの地雷対策においては特にアウトカムの達成が求められています。

例えばウクライナの地雷原で10個の地雷を除去したとします。これがアウトプットです。さて、この10個の地雷をどこで除去したかが極めて重要になってきます。例えば、人里離れた山地と、駅前のような多くの人が集まる場所。同じ10個を除去するのでも、その意味はかなり違うということがお分かりいただけるかと思います。地雷除去を行ううえでは莫大な資金が必要になってきます。ですので、資金をいかに効率的に、かつ、多くのインパクトを残せるのか。人々が安全に暮らせるようになるために重要なのはアウトカム重視の視点です。

そのために必要な視点は、どこを優先的に除去するのかという判断です。もちろん、最優先されるべきは人々の生活にかかわる場所です。ウクライナは農業が主要産業であり、農地に地雷が埋設されていれば、農産物の輸出もかなわず、政府の税収にもかかわってきます。優先的な場所を選ぶためにはどうすればよいのか、そこで必要になるのがデジタル情報であり、その情報を共有できるようになることです。ウクライナの政府もこの点については真剣に捉えており、まだ十分ではないものの、多くの情報が共有できるようになっています。

課題

技術革新にだけ目を向けていると、ウクライナの地雷対策はバラ色に見えてきます。すぐにでも問題が解決しそうな印象すら受けます。しかし、実態はそんなに甘いものではありません。まず、除去機械について、多くの企業が地雷の除去機械について発表していますが、それが現場で使われているのか、と言われれば、実は必ずしもそうではありません。もちろん、除去に役に立たない機械は論外としても、実用化に至っていないものも少なくありません。

地雷除去の機械は政府の承認なしで勝手に使えるものではなく、きちんと実証実験を行い、その性能だけではなく安全性が確認されなければ、現場では使えません。このプロセスにはかなりの時間を必要とします。ウクライナ政府の関係者に話を伺ったところ、「供与された資機材の中でもまだ、政府からの承認が下りていないため、使用できていないものもある」と教えてくれました。また、今回の議論や展示では農地などの大きな地雷原では使いやすい除去機械についてのものが多かったように思います。

しかし、地雷原はそれだけではありません。もし難民の方々が帰還できるようになると、除去活動の最優先になるのは、その住居です。一戸建ての家やアパートなど、そういった場所には不発弾やブービートラップが仕掛けられている可能性があり、除去要員自体の安全も脅かされます。それに対する機械開発までは進んでいないようです。イギリスの地雷除去専門団体のヘイロー・トラストの関係者と話した際には「アパートのがれき処理などは大型機械を使えるだろうけれど、ブービートラップの除去などは、ゆくゆくはロボットを使うようになるのでは」と語っていました。

次に、今回の会議自体でほとんど議論がなされなかったことがあります。それは被害に遭わないための教育と、地雷被害者を含む障がい者の支援です。地雷対策は、地雷除去だけではありません。今回の会合での議論はその多くの時間が「除去活動」に費やされていました。これには、日本の除去技術で地雷問題を解決したい、という日本政府の考えも強く反映されていると思います。

実際に、いくつかの報道を見ても「除去」についての言及ばかりで、地雷対策に関しての議論としては必ずしも十分でなかった印象を受けます。私も会議の最後に「地雷被害者を含む障がい者の支援で、デジタル技術をどのように活用しているのか、いい実例があれば教えてほしい」と質問しましたが、被害者を除去活動に従事してもらう、というような答えしか戻ってきませんでした。もちろん、経済の復興も欠かせませんが、やはり地雷対策は人を中心としたものであるべきだと考えます。被害に遭った人が十分な支援を受けられるようにしていく必要があります。

そして、今回の会議の議論で一番不足していたと感じたのは市民社会です。地雷除去を含めた地雷対策の現場での活動は、市民社会、つまりNGOがとても大きな役割を果たしています。しかし、NGOの果たしている役割や今後の期待についてあまり触れられていなかったのが事実です。日本の市民社会の参加も限られていました。

ウクライナの地雷対策は大きな進展を見せており、世界の地雷対策を変える可能性を秘めています。一方で、まだまだ十分でないことも事実です。AAR Japan[難民を助ける会]は、今後も地雷被害者支援などの活動を通して、ウクライナの地雷対策の取り組みを続けていきます。

[1] ウクライナ地雷対策会議(オープニング) -外務省
[2] ウクライナ地雷対策支援イニシアティブ 令和7(2025)年10月 -外務省
[3] Newsletter Ukraine Mine Action in Focus – Issue #4, September 2025 [EN/UK] – Ukraine | ReliefWeb
[4] アウトカムとアウトプットの違いを徹底解説!中学生にもわかる実践ガイド—何を作るかと、それを作る意味・評価の視点を分けて考える重要性

紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局

AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。

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