ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が大々的に報道されてきた中で、これまであまり取り上げられていないのがウクライナ国内の障がい者についてです。いったいどのような状況におかれているのでしょうか。
避難に特有の難しさ
ウクライナには約270万人の障がい者がいると推定されており、これは国民のおよそ6.5%に当たります。
7月5日現在、ウクライナでは1,200万人以上が避難生活を送っており、870万人がポーランドなど海外に避難しています※1。さらに1,570万人は避難できず、危険な地域に留まっているとされています。ロシアによる攻撃が続く中、障がい者は特に厳しい状況におかれています。
視覚障がい者の場合、住み慣れた家であればどこに何があるのかを記憶しておくことで比較的自由に行動できます。しかし、国内避難民になるとそのような生活は難しく、心身ともに大きな負担がのしかかります。空爆が身近に迫ってきても、すぐに地下のシェルターに逃げることはできません。聴覚障がい者は、空襲警報が鳴っても気づかない場合もあります。
環境の変化によるパニック
ヨーロッパ39カ国の知的障がい者とその家族でつくる「インクルージョン・ヨーロッパ(Inclusion Europe)」の報告によると、ウクライナでは落ち着いている障がい者がいる一方で、不安に駆られている障がい者も少なくないそうです。例えば、ある自閉症の子どもは非常に攻撃的になっている、と報告されています。
知的障がい者の支援団体でつくる「全国手をつなぐ育成連合会」(東京都新宿区)は声明の中で「とりわけ知的・発達障害者の場合には言語コミュニケーションが苦手なため緊急時に取り残されやすく、急激な環境変化がパニックを引き起こして避難を難しくしている可能性も懸念されます」と述べています※2。障がい者の家族の負担も今まで以上に大きくなっていることが容易に想像できます。
活動停止の施設も
おそらくもっとも脆弱な立場に置かれているのが、施設でケアを受けている障がい者です。ウクライナをはじめ、かつてソ連に属した国々では、多くの障がい児・障がい者が福祉施設で暮らしています。AARは、ウクライナ国内のいくつかの知的障がい者支援団体などに聞き取り調査を行いました。ある団体は、ロシアによる軍事侵攻の影響で行政からの予算が半分近く削減され、困り果てていました。地域の事情でさまざまな活動制限を受けており、入所者が施設から家族のところに戻らざるを得ない場合もあります。
AARが支援を開始した知的障がい者支援団体の職員は次のように話します。「国外に避難した家族がいる一方で、障がい者の状況を考えて、ウクライナに残っている家族もいます。障がい者の精神的な負担も大きく、家族の方々も疲弊しています。自閉スペクトラム症の場合、避難のため急激に生活環境が変化したことで、大変混乱しています。家族も障がい者も、いつまた軍事攻撃にさらされるのではないかという不安に苦しんでいます」。
盲学校も空爆被害
AARの理事でもある田畑美智子さん(前世界盲人連合アジア太平洋地域協議会会長)によると 、ウクライナ東部のハリキウには点字図書館があったそうですが、空爆により破壊されてしまったそうです※3。ハリキウの盲学校も空爆を受けました。生徒たちが無事だったのがせめてもの救いですが、障がいのある子どもたちの教育を受ける権利が侵害されています。他の障がい者福祉施設も大きな影響を受けています。
障がいのある人々への支援が、何よりも求められていると言えます。AARは、ウクライナの障がい者への支援を続けてまいります。
※1 https://reports.unocha.org/en/country/ukraine/
※2 全国手をつなぐ育成会連合会「ウクライナにおける障害者の安全確保と即時戦闘停止を求める声明 http://zen-iku.jp/info/4629.html
※3 世界盲人連合 アジア太平洋協議会のブログ(2022年5月10日閲覧)
紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局
AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。