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国際女性デー アフガニスタンの女性たちは今

2023年3月8日

3月8日は、国連の国際女性デーです。「国際女性デーは何の意味も持ちません。彼らは女性たちには何の価値もなく、働く権利も、学ぶ権利もないと言っています」。タリバン暫定政権下のアフガニスタンからは、女性たちの悲痛な声が聞こえてきます。(東京事務所・紺野誠二)

地面に座っている女性たちの写真

AARからの支援物資の配付を待つアフガニスタンの女性たち=2022年12月

280人以上の女性や少女が不自然死

国連人道問題調整事務所(UN Office for the Coordination of Humanitarian Affairs)が毎年発表している”Afghanistan Humanitarian Needs Overview”によれば、2023年にアフガニスタンで緊急人道援助を必要としている人々は約2,830万人にのぼります。これは同国の人口の3分の2に該当します。このような厳しい状況は、長年続く干ばつや紛争などのさまざまな要因によるものです。そして、これらの影響を最も被っている人々は、女性や子ども、障がい者、民族や宗教などのマイノリティーの人々です。

2月9日に国連人権理事会の第52回会合で、「アフガニスタンの人権状況」について(“Situation of human rights in Afghanistan Report of the Special Rapporteur on the situation of human rights in Afghanistan, Richard Bennett”)という報告が出されました※1

これは2022年7月-12月のアフガニスタンの人権状況について書かれたものです。この報告書は、女性と少女の権利が侵害されていることについて大きな懸念を示しています。例えば、タリバン暫定政権の成立後280人以上の女性や少女が不自然な死を遂げた報道があること――うち少なくとも75人が故意に殺害されたこと、130人が紛争や自爆テロに関連して殺害されたこと、家庭内暴力によるものが20例に上ること――が報告されています。

うつ病や自殺も増加

アフガニスタンでは、暫定政権成立後、女性が中学校以上の学校に通学することや、役所などの仕事に就くこと、男性の家族の同伴なしに外出することなどが禁止されてきました。最近ではさらに、公園やジム、公衆浴場に行くこと、NGOを含むあらゆる仕事に従事することが禁止されました。同報告書では、経済的な危機や女性に対する人道的な扱いが行われないことを背景に、女性や障がい者の女性に対する強制的な結婚や児童結婚が増えていること、また思春期の少女たちにうつ病や自殺が増えていると指摘しています。このような状況は、無論、男性たちの精神状況にも悪影響を及ぼしています。

布で顔を覆った母親が子どもを抱いている写真

ブルカに身を包み、子どもを抱くアフガニスタンの女性

アフガニスタンの社会は、我々日本で暮らす人々からすると伝統的かつ保守的なものです。特に現在のタリバン政権において中心的な役割を担っているパシュトゥーン人と呼ばれる人々は、パシュトゥーンワーリーと呼ばれる独自の考えを持っています。地域の文化に根差した独自の考え方は一定程度尊重されるべきものです。しかし、女性の権利が阻害されることは、あってはならないことです。

NGOでも女性の就労が認められなくなったことを受け、アフガニスタンでの支援活動を停止しているNGOもあります。AARは引き続き支援活動を続けています。暫定政権の方針に賛成しているわけではありませんが、支援を必要としている人々が多数おり、支援をストップするわけにはいかないからです。

届かない女性への支援

しかし、どこのNGOからも女性スタッフがいなくなってしまったことで、最終的にアフガニスタンの女性たちとその子どもたちは、適切な支援を受けられず、大きな不利益を被っているといえます。

全身に布をまとった女性が歩いている写真

支援物資を受け取り、家路を急ぐアフガニスタンの女性=2022年12月

例えば、当会が行っている地雷などの爆発物回避教育でも、少女に対しては男性が教育を行うことはできますし、実際に行っています。一方、成人女性に対しての教育は女性職員でないと行うことができません。アフガニスタンにおいてはどの政権下であれ、この状況は変わりません。私は以前カブール郊外のあるお宅を訪問したことがありますが、女性に会うことはまったくできませんでした。女性職員が勤務できない現状では、女性たちは爆発物回避教育を受けられないことになり、被害を未然に防ぐことも難しくなってきます。

また、以下のような例も聞いています。ある調査によれば男性が世帯主の世帯の平均名目収入は6,749アフガニ(約10,461円:1アフガニ=1.55円で計算)ですが、女性が世帯主の場合は5,252アフガニ(約8,141円)、と1,497アフガニ(約2,320円)の開きがあります※2 。これは女性がそもそも外出しにくいという文化的な背景が影響を及ぼしていると思われます。NGOが、女性が世帯主の家庭に支援を行おうとしても、女性職員がいなければ話を聞くことも、ニーズを確認することも難しい。女性の就業が制限されている今、女性が世帯主である家庭は、収入を失い、さらに困窮しているはずです。

当会では食料などを配付した後に、受益者の方に食料の質は適切だったか、量は充分だったか等の確認や聞き取り調査を行っています。一番正確な状況を把握しているのは、台所を預かることの多い女性たちです。女性たちからの聞き取り作業も、女性職員がいないとできません。

細る障がい者支援

さらに「アフガニスタンの人権状況」の報告書では、2021年8月以降、アフガニスタンでは障がい者への支援が大幅に減っています。経済状況の悪化や女性の就労制限などで、支援が全く行き届かない状況になっているのです。視覚障がいや聴覚障がいの人々が使用する補聴器などの補助具が不足しており、精神障がいや知的障がいのある人はほとんど支援を受けられていません。特に女性や少女の障がい者は、女性であることと障がいがあることの二重の障壁に苦しめられています。

「支援をやめないで」

今年の国際女性デーを前に、コメントを求められた女性の一人はこんな風に訴えています。
「私はあなた方に問いたい。あなた方は私たちアフガニスタン女性に尋ねる。現在の状況と今の政府によって課せられた制限について、そして、その影響と変化について、どう感じているか、と。
しかしどう理解できようか。現政権を恐れるあまり、不条理な命令にも即座に従う職場の同僚、そして家族からも、権利を奪われ、自分の人生から追放されてしまった今の我々女性たちの状況を。
あなた方は問う。そのような目に遭った女性たちに『将来について何を思うか』と。しかし、今この時も、地獄のような状況で焼き尽くされつつある女性たちがそのような問いに何と答えられるだろうか。
あなた方に分かるだろうか。いつも通りに出勤したある日の朝、突然、『これからあなた方がオフィスに来る権利はない』と言われた女性たちの気持ちが。その時の気持ちは到底、言葉では言い表すことはできない。」

「私たちの声を世界に伝えて欲しい。アフガニスタンの女性たちは非常に貧しく、無力になりつつある。我々の神以外には、誰も私たちの心の声を聞くことなどできない。どうか、神の助けを借りて、この悪い状況から私たちを救って欲しい。せめて、アフガニスタンの女性たちを支援することはやめないで欲しい」

難民を助ける会は女性や障がい者の権利を非常に重要なものだと考えています。支援をまさに今、最も必要としている人にアプローチできるように最善を尽くしていきます。

※1 Situation of human rights in Afghanistan – Report of the Special Rapporteur on the situation of human rights in Afghanistan, Richard Bennett (A/HRC/52/84) (Advance Edited Version) 

※2 “Whole of Afghanistan Assessment 2022 Key Findings Presentation – Inter-Cluster Coordination Team, Kabul, 20 September 2022”

紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局

AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。

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