ロシアの軍事侵攻が続くウクライナで、人々の安全を脅かし、今後の帰還や復興の妨げになると懸念されているのが地雷・不発弾問題です。国連機関などの報告書に基づき、2023年4月現在の地雷・不発弾による「汚染状況」を見てみましょう。
国土の4割が地雷原/民間人の犠牲632人
ウクライナの国土のどれくらいが地雷・不発弾によって危険にさらされているのか、正確には分かっていませんが、同国のシュミハリ首相は今年1月、「国土の40%に当たる25万キロメートルが地雷原になっている」との見方を示しています※1。日本に置き換えると、本州全体と四国を合わせたほどの広大な面積になります。しかし、軍事衝突が長引けば「汚染地域」はさらに拡大します。
国連高等人権弁務官事務所(OHCHR)の報告によると、軍事侵攻が始まった2022年2月24日から今年2月の間に、ウクライナでは地雷・不発弾によって632人の民間人が死傷し、このうち219人が死亡しました。死者の中には子ども18人も含まれています※2。
これはあくまで報告された件数であって、実際にはもっと多くの犠牲者が出ている可能性があります。上記期間の軍事攻撃による民間人の死傷者は、合計2万1,293人(死者8,006人・負傷者1万3,287人)に上り、地雷・不発弾による被害はこの3%に相当します。
被害の発生を地域別にみると、激戦が続くハルキウ州が全体の28%を占め、次いでドネツク州21%、南部ヘルソン州14%となっています。既に戦闘が収束したチェルニヒウ州、スームィ州、キーウ州でも多くの被害が出ています。
地雷・残留爆発物による死傷者の地域分布
大半はロシア製/ウクライナ側も使用か
使用された地雷などの種類について、ジュネーブ人道的地雷除去国際センター(Geneva International Centre for Humanitarian Demining) が報告しています※3。大部分の武器・弾薬は軍事侵攻の当事者ロシアで生産されたものですが、ウクライナ政府が対人地雷を使用している可能性も指摘されます※4。いくつかの場所で使用が疑われているのが、「チョウチョ型地雷」と呼ばれる空中散布型のPFM-1S(広く散らばるようにチョウチョに似た形状で、緑色や茶色に塗られている)です。ウクライナは対人地雷の使用を禁止したオタワ条約の締約国であり、仮に使用していれば条約違反になります。また、自国で対人地雷を使用すれば、戦闘終結後も地域住民を苦しめることになります。
小麦の生産量が前年比4割ダウン
ウクライナでは農地にも多くの地雷・不発弾が残存していると考えられ、農業用トラクターが対戦車地雷に触れて大破する事故も発生しています。ウクライナは小麦のほか、食用油の原料になるヒマワリの種などを生産する農業国です。国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、広大な農地に地雷・不発弾が残っているため、農作物が収穫できないままになっています※5。その結果、同国の2022年の小麦収穫量は約2,000万トンと推定され、豊作だった2021年を約38%、平均水準を約25%下回る見込みです。また、FAOの2023年の対応プランでも、通常の農作業ができないことで、同国の農業生産が深刻な打撃を受けると指摘されています※6。爆発物の除去活動に今後どれだけ時間がかかるかによっては、ウクライナだけでなく世界規模の食糧供給に影響を及ぼしかねません。
ウクライナ政府の地雷対策機関をはじめ、国際的な地雷除去NGOの多くがウクライナに集結し、現地調査や除去作業、被害を避けるための啓発活動、被害者の支援を行っています。また、日本政府を含めて、多くの国々が地雷対策支援に乗り出しました。AAR Japan[難民を助ける会]も長年連携する英国のNGOヘイロー・トラストを通じて、ウクライナの地雷除去活動を進めています。
※1 Radio Free Furop Radio Liberty, “Ukraine Has Largest Minefield In The World, Prime Minister Says”
※2 UNITED NATIONS HUMAN RIGHTS OFFICE OF THE HIGH COMMISSIONER, “Civilian casualties in Ukraine from 24 February 2022 to 15 February 2023”, 21 February
※3 GICHD, “GICHD EO Guide For Ukraine – Second Edition_20220803”
※4 Human Rights Watch, “Ukraine: Banned Landmines Harm Civilians Ukraine Should Investigate Forces’ Apparent Use; Russian Use Continues” January 31, 2023 12:01AM EST
※5 Food and Agriculture organization of the United Nation, “GIEWS – Global Information and Early Warning System Country Briefs Ukraine Reference Date 16-December-2022”
※6 FAO. 2023. Ukraine: Response programme: January–December 2023. Restoring food systems and protecting food security in Ukraine. Rome.
紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局
AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。