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水鳥真美常任理事による寄稿が新聞に掲載されました。

2025年1月15日

2025年1月9日の毎日新聞朝刊「発言」欄に、当会常任理事の水鳥真美・前国連事務総長特別代表(防災担当)兼国連防災機関長による寄稿「命と生活を守る防災庁に」が掲載されました。
以下に全文を転載します。

命と生活を守る防災庁に=水鳥真美 前国連事務総長特別代表(防災担当)兼国連防災機関長

10年前、国連加盟国が満場一致で採択した「仙台防災枠組」は、その後の地質災害、気象災害の激甚化、コロナ禍の発生を予測していたかのような先駆的内容である。そして、この日本生まれの国際合意の要諦は「これからの防災対策は、災害発生後の対応依存から、平時の災害リスク軽減に重心を移さなければならない」である。

能登半島地震発生から1年。今も続く被災者の苦悩に接する時、災害発生時の迅速、的確な対応、事後の復旧、復興の必要性を実感する。仙台防災枠組は災害発生後の対応の必要性を軽んじるものでは毛頭ない。一方、社会に蔓延する災害リスクを平時に軽減して強靭性を築かなければ、「災害発生、対応、復旧、復興、再び災害発生」という負の連鎖は続き、奪われる命、財産、生活は肥大化する。防災分野で世界の手本である日本ですら、現状の対策では不十分との認識がある中、石破茂首相が政治的優先課題として防災庁設置を掲げたことは歓迎されるべきことであり、防災庁が負の連鎖を断ち切ることが期待される。

防災庁が取り組むべき災害リスク軽減の内容を仙台防災枠組の「優先行動」に即して見てみたい。

第一に「災害リスクを理解すること」である。災害リスクというと地震、津波、台風などのハザードが思い浮かぶが、リスクを構成する要素は広範である。どこでどれだけの人々がどのように生活を営んでいるかというハザードへの暴露の状況、災害弱者とも呼ばれる女性・子供、障がい者、高齢者、外国人らに関する脆弱性の状況も把握しなくてはならない。災害対応能力の水準も重要である。脆弱性については、データを集め、対象者の声を聞くのみならず、彼らを方針・政策の策定に参画させてこそ、「誰一人取り残さない防災対策」が実現できる。

第二は「災害リスクに関するガバナンス強化」である。防災庁の予算・人員が十分でなければ、事後対応に追われてリスク軽減に手が回らない。同時に、事前・事後の防災対策に関わる多くの中央省庁、更には地方自治体との関係で、防災庁が首相、首相官邸と直結した強い権限を持つことにより、いわゆる「調整官庁」としての業務に追われるのではなく、政策立案、役割分担、予算の配分を決定できることが必要である。また社会全体として災害リスクの軽減に取り組むことが不可欠である中、防災庁は、産官学、市民社会の連携を進めるパートナーシップの中核に位置することが必要となる。

三つ目は「強靭性への投資」だ。残念ながら世界的傾向は、生活にとり不可欠な道路、上下水道、電力といった基盤的インフラを構築する際、災害リスクを勘案した投資がなされていない。その結果、災害発生時におけるインフラの損壊、公共サービスの途絶が発生し、災害による被害が膨れ上がっている。事前の投資こそが、事後の安心につながることは自明であるが、いまだに実態となっていない。ここでも防災庁がインフラの構築に関わる多くの省庁、地方自治体の司令塔となることが必要である。

国民の命と生活を守る防災庁の誕生を心待ちにしている。

みずとり・まみ 元外交官。三井住友海上火災保険顧問。NPO法人難民を助ける会常任理事。

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