1. 前文
子どものセーフガーディング(Child Safeguarding、以下CS)とは、組織の役職員・関係者によって、また事業活動において、子どもにいかなる危害も及ぼさないよう、つまり虐待・搾取や危険のリスクにさらすことのないよう努めることであり、万一、活動を通じて子どもの安全にかかわる懸念が生じたときには、しかるべき関係機関に報告し、それを組織の責任として取り組むことである1。
難民を助ける会[AAR Japan](以下AAR)は、紛争・自然災害・貧困などにより困難な状況に置かれている人々に必要な支援を届けることを使命とする人道・開発支援団体として、個々の能力、民族、信仰、性別、セクシュアリティ2、文化などの違いに関わらず、すべての子どもがあらゆる形態の暴力や虐待から保護される平等な権利を有することを認識している。貧困や不平等、子どもの権利を尊重しない文化的慣行、人道危機などは、子どもを虐待や暴力、搾取に対しより脆弱にする。また、子どもたちを保護する責務を負う者であっても、子どもたちに危害を加えることがあり得る。
従ってAARは、支援活動を通じて関わる、または影響を与えるすべての子どもが守られ、危険にさらされることのないよう、CSの導入と徹底に尽力する。この方針は、AAR職員およびパートナー団体、またAARの活動に関わるすべての人々に求められ、期待される行動を示すものである。
2. 適用範囲
この方針は、AARとの契約関係の有無にかかわらず、AARの活動に関わるすべての個人および組織に適用される。これには、職員、理事、ボランティア、インターン、コンサルタント、受託業者、調達業者、販売業者、訪問者(例:ジャーナリスト、研究者)、その他AARに関連する個人と組織が含まれる。この方針は、勤務時間中および勤務時間外に適用される。
3. 定義
3.1 子ども3:
各国が定める成人年齢の定義にかかわらず、18歳未満のすべての者。
3.2 子どものセーフガーディング4:
組織の役職員・関係者によって、また事業活動において、子どもにいかなる危害も及ぼさないよう、つまり虐待・搾取や危険のリスクにさらすことのないよう努めることであり、万一、活動を通じて子どもの安全にかかわる懸念が生じたときには、しかるべき関係機関に報告を行い、それを組織の責任として取り組むこと。
3.3 子どもの虐待5:
子どもに対する責任、あるいは子どもとの信頼や力関係を背景にした、子どもの健康、生存、発達、尊厳に、実際のまたは潜在的な危害をもたらす、故意のまたは過失によるあらゆる形態の行為のこと。これには、身体的、性的、心理的な虐待、ネグレクト・養育怠慢、子どもの性的または商業的搾取が含まれる。虐待は、家庭や施設、コミュニティ、信仰の場において、あるいはソーシャルメディアやインターネットを介して行われる可能性がある。また、虐待は、大人だけが加害者になるとは限らず、他の子どもによって行われる場合もある。
a. 身体的虐待:
加害者が大人か子どもかに関わらず、誰かの身体を実際に傷つけること、もしくは身体を傷つける可能性のある行為を行うこと。叩く、揺さぶる、有毒物を与える、溺れさせる、火傷させるなどが含まれるが、これらに限定されない。
b. 性的虐待:
子どもが理解していない、同意せざるを得ない状況下で、無理やり、もしくは、そそのかして子どもに性的行為をする、またはさせること。レイプ、オーラルセックス、マスターベーションやキス、押し付ける、触るといった性器の挿入を伴わない行為なども含まれるが、これらに限定されない。さらに、性的なものを見せる、子どもを使って性的な写真や画像を作成する、性的に不適切な振る舞いを子どもにさせることも含まれる。
c. 子どもの性的搾取:
金銭、ギフト、食料、住居、みせかけの愛情、社会的地位など、子どもやその家族が必要なものと引き換えに、子どもに性的な行為をさせること。多くは、子どもと親しくなる、信頼を得る、ドラッグやアルコールを与えるなどして、巧みに子どもを操り強要することで行われる。両者の間には、同意があったと主張されることがあるが、力関係が不均衡である場合には、被害者側には限られた選択肢しか与えられていないため、同意があったとは見なされない。
d. ネグレクト・養育怠慢:
子どもの身体的・精神的・道徳的発達に悪影響を及ぼしかねないほど、継続して子どもの基本的な要求を満たさないこと。子どもを適切に養育・監督せず危険から守らないこと、栄養のある十分な食事を与えないこと、安全に暮らしたり働く環境を提供しないこと、妊娠中の母親が薬品やアルコールを不適切に服用することやそれを容認すること、障がいのある子どもの世話を行わなかったり不適切に扱ったりすることなども含まれる。
e. 心理的虐待:
子どもの心理発達に影響を及ぼすほど、継続して心理的に不当に扱うこと。行動を制限する、貶める、辱める、いじめる (オンライン上のいじめも含む)、脅す、怖がらせる、差別する、ばかにする、またその他の非身体的な形態での攻撃的または拒絶的な扱いが含まれる。
f. 商業的搾取:
子どもの心身の健康、教育、モラル、社会的・情緒的発達を阻害するほど、他者の利益のために子どもを仕事やその他活動に従事させること。児童労働(義務教育を妨げる労働や、法律で禁止されている 18歳未満の危険で有害な労働をさす)などが含まれる。
以下、本ポリシーでは、ここで定義されたすべての形態の子どもの虐待を、「子どもの虐待」と、すべての形態の子どもの搾取を「子どもの搾取」という。
4. 基本方針
あらゆる形態の暴力や虐待、搾取から子どもを守り、AARの活動の信頼性を確保するために、以下の基本方針が遵守されなければならない。
4.1 子どもの虐待および搾取は重大な不正行為に該当し、懲戒処分の対象となる6。
4.2 子ども(18歳未満)との性行為は、各国の国内法で定められる成人年齢や性的同意年齢に関係なく禁止する。子どもの年齢の誤認は行為を正当化する理由にならない。
4.3 AAR職員および関係者は、職務においても私生活においても、厳格な行動基準に基づいて子どもと接しなければならない。AAR職員および関係者には、この方針を理解し、遵守し、推進する責任がある。方針に違反する行為の予防や通報、適切な対処のためにできるすべての行動をとらなければならない。
4.4 AARは、CSの取り組みに子ども自身が参加することを徹底する。子どもが自分たちの権利について理解し、自分たちに対する行動に関し、何が適切で、何が容認できないものなのか、また問題や懸念が生じた場合にはどのように対処できるか知っておくようにする。
4.5 AAR職員や関係者が、他のAAR職員・関係者7による子どもの虐待や搾取に関する懸念や疑念を持った場合は、確立された制度を通じて AARに通報しなくてはならない。
4.6 AAR職員および関係者は、子どもの虐待や搾取を予防する環境を醸成、維持することが期待される。特に管理職は、安全な環境を維持するために、関係者間の開かれた議論や対話の文化の促進を通じて、子どもの虐待や搾取の予防および対応の仕組みづくりを行う責任を負う。
5. CSへのアプローチ
AARは、以下の条項に記載されている予防、通報、対処を通じて、子どもの虐待や搾取の予防および対策に取り組む。具体的な手順の例については、別添(手順ガイドライン)を参照のこと。手順書は、各事務所の必要性や人員体制などに応じて適宜変更、適応される。
6. 予防
AARは、健全な環境を醸成、強化、維持し、子どもの虐待や搾取のリスクを最小限に抑えるために、すべての AAR職員および関係者が厳格な行動基準を認識し、模範的な言動を身に着けるための取組を徹底する。これには、AAR職員および関係者やコミュニティの人々のCSに関する意識の向上、安全な職員採用の実施、安全なプログラムとプロジェクトの構築、適切なメディア活用などが含まれるが、これらに限定されない。
7. 通報
7.1 AAR職員および関係者は、AAR職員または関係者による子どもの虐待や搾取の事実や疑惑を迅速に通報し、調査に協力する義務がある。子どもの虐待や搾取の事実や疑惑を見聞きした者は、別添にある手順ガイドラインに沿って報告、相談、または苦情の申し立てをしなくてはならない。通報にあたっては、事案に該当すると思われる出来事の詳細な記録を作成することが望ましい。
7.2 AARは、虚偽または悪意のある通報が意図的になされることを許容しない。虚偽または悪意のある通報がなされたことが判明した際は、厳重に罰せられる。
8. 対処
8.1 子どもの虐待や搾取の事実や疑惑が報告された場合には、手順ガイドラインに沿って関係者全員の個人情報の保護を徹底しながら、報告された事案に迅速に対処する。
8.2 報告された事案が立証された場合は、就業規則やその他関連する方針に基づき、懲戒処分を含む厳重な処分を行い、再発防止に取り組む。
8.3 AARは、CS事案を相談・通報したことや調査に協力したことなどを理由に、相談者や通報者を不利益に取り扱うことをしない。
9. 関連する方針・文書
- AAR のビジョン、ミッション、行動規範
- AAR の人権方針
2021年10月29日
AAR Japan [難民を助ける会]
1 Keeping Children Safe, Understanding Child Safeguarding, 2014, pp.28./外務省(2020年)「子どもと若者のセーフガーディング・最低基準のためのガイド」
2 性自認や性的指向などからなる個々の性のあり方
3 U.N. Convention on the Rights of the Child 1989
4 Keeping Children Safe, 2014. Understanding Child Safeguarding, pp.28.
5 Keeping Children Safe, 2014. Understanding Child Safeguarding, pp.24-25./ 外務省(2020 年)「子どもと若者のセーフガーディング・最低基準のためのガイド」
6 懲戒処分は、その性質上、AARに雇用関係にある職員に適用される。理事、訪問者、調達業者、パートナー団体など雇用関係のないAAR関係者よって子どもの虐待が発生した場合には、理事の解任、事業地への訪問の即時中止および将来的な訪問の禁止、調達業者との契約およびパートナーシップの解約等、AARとの関係性に基づいた措置の対象となる。
7 AAR関係者以外の人員による子どもの虐待の疑念や疑惑がある場合には、外部の通報制度を利用して、関連する苦情処理機関に対し通報することが奨励される。