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障がい者・外国人支援の実例を共有 能登半島地震1年シンポジウム

2025年1月16日

能登半島地震から1年を迎え、AAR Japan[難民を助ける会]が1月11日開催したオンラインシンポジウム「誰も取り残さない復興~障がい者・外国人とともに」では、災害発生時により大きな困難に直面する障がい者や外国人居住者などへの支援の実例と課題について、ゲスト登壇者とAAR職員が詳しく報告しました。

障がい者「取り残されるリスク」浮き彫りに

「ななお・なかのと就労支援センター」(石川県七尾市)の木谷昌平センター長は、地震発生直後の様子について、食料の備蓄など最低限の備えをしていたものの、道路の寸断や断水が長引いたことで、「これほど生活しづらくなるとは思ってもみなかった」と振り返りました。また、障がい者が避難所で生活することについて「避難所は大部屋で合宿するようなもので、うまく過ごせる方ばかりではない」と指摘。「他の避難者を気にして体調を崩したり、手伝おうとして空回りしたり、周りからうるさいと言われて落ち込んだり。しまいには避難所から追い出されてしまった障がい者もいた」と厳しい実情を紹介しました。

避難所で生活できない障がい者の中には、半壊以上の判定を受けた危険な自宅に住み続けたり、水や食料など重たい支援物資を配付所まで取りに行けなかったり、「普段はない生活のしづらさが生じた」と指摘。七尾市には障がい者が安心して避難生活を送れる福祉避難所が1カ所しかなく、滞在可能な人数も限られていることから、「今後は福祉避難所を整備していきたい」と話しました。

また、震災後に自身の障がい福祉事業所で災害廃棄物の仕分けの仕事を請け負い、感謝された経験から、「災害時は皆で助け合う必要があり、緊急時だからこそ障がい者への偏見は生まれにくい。仕事とうまくマッチングすれば、障がいがあっても働くことができるという意識を持ってもらうことができた」と振り返りました。

木谷センター長とAAR生田目の写真。傍らに工具が並ぶ

木谷センター長が福祉避難所として整備を進めている福祉事業所「LABO」=石川県七尾市で2024年11月

外国人居住者との情報共有に課題

七尾市国際交流協会の大星三千代理事長は、震災後に外国人技能実習生と連絡を取り合った経緯について、「地震直後にLINEや電話で状況を聞くと『大丈夫』と言っていた人たちも、実際に会って情報交換すると本音で不安を話してくれた。日本語がわからず、刻々と変化する情報が届いていなかったり、避難所での生活が難しかったりするなどの問題を抱えていた」と振り返りました。

言葉や慣習の違いから避難所生活に耐えられず出て行ってしまったケースや、生活用水を確保できる井戸の情報が伝わっておらず、支援物資のミネラルウォーターをトイレ用水として使っていたケースなどを紹介。大星理事長は、「自分の国の人と自分の言葉で話すことが一番安心できるし、必要な情報も広まりやすい」とし、「今後は、日本人と外国人の間だけでなく、外国人同士のネットワークづくりにも取り組んでいきたい」と話しました。

技能実習生たちと大星さん、AAR職員、活動協力者の集合写真

外国人同士のネットワーク強化を目的に実施した交流会=2024年11月

「つながり」「インクルーシブ防災」が重要

AAR国内災害担当の堀尾麗華による活動報告では、①炊き出し、②緊急支援物資の配付、③福祉施設・障がい者への支援、④コミュニティ支援、⑤外国人被災者支援、⑥仮設支援の各活動について紹介。仮設住宅で行っているサロン活動について、堀尾は「仮設住宅では異なった地域の人同士が入居しているケースが多く、孤立が起こりやすい」と指摘し、「コミュニティを再構築することで災害関連死を予防できる」と話しました。

また、パネルディスカッションでは、同じく国内災害担当の生田目充も加わり、活発な議論が展開されました。障がい者や外国人などの共通の課題として「情報へのアクセスのしづらさ」が挙げられ、福祉施設や地域との「つながり」が、「誰も取り残さない」ために必要だと話し合われました。また、木谷センター長は、緊急時に障がい者の情報を行政と福祉施設の間で共有できる仕組みづくりにも言及し、「行政だけでできないこともあると思うので、平時から打ち合わせておくことが大事」と述べました。

参加者からは「障がい者や外国人の防災にどのように取り組むべきか」との質問が寄せられ、生田目は「避難現場では近所の人とか、日本語教室の先生とか、もともと知り合いだった人が、障がい者や外国人の大きな頼りとなった。こうしたつながりを大切に、町内会レベルで、障がい者や外国人が参加するインクルーシブな(あらゆる人の命を支えるための)防災に取り組むことが重要になる」と強調しました。

シンポジウムの終わりに、木谷センター長は「今後も皆さまの気持ちを能登に向けていただけたら、明日も頑張れます」。大星理事長は「皆さまとの新たなつながりが私たちにとって大きな宝。お伝えしたことが今後の備えになれば」と締めくくり、「誰も取り残さない復興」への思いを全員で共有しました。ご参加いただいた皆様に心より御礼申し上げます。

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