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相次ぐ人道危機 忘れられる人々:「難民の日」に寄せて

2025年6月16日

6月20日は国連が定める「世界難民の日」。世界各地で紛争や迫害から逃れ、厳しい避難生活を余儀なくされた難民・国内避難民は近年増加の一途をたどり、日本の人口とほぼ同じ1億2,320万人に上ります(2024年末時点)。ウクライナやパレスチナ自治区ガザの人道危機が関心を集める一方で、アジア・アフリカなどの難民への関心は薄れ、国際社会で忘れられつつあります。加えて、米国トランプ政権による海外援助の大幅削減は人道支援活動に大きな打撃となり、難民を取り巻く環境は厳しさを増しています。

100万人超が暮らす難民キャンプ

バングラデシュ南東部のコックスバザール県には、隣国ミャンマーでの弾圧・迫害を逃れた100万人超のイスラム少数民族ロヒンギャが暮らす「世界最大の難民キャンプ」群が広がります。2017年の大量流入から8年、国際機関やNGOの支援を受けて、かつてのビニールと竹材で建てられたテントは、簡素な小屋くらいに改善され、道路や給水施設、排水路などのインフラも整いました。しかし、キャンプでは今も正規の学校教育はなく、仕事に就いて働くことも表向き認められていません。

難民キャンプにある仮設学校の様子

ロヒンギャ難民キャンプの仮設学校で学ぶ子どもたち=バングラデシュ南東部コックスバザールで2025年5月12日(中坪央暁撮影)

難民問題の最も理想的な解決は、祖国への安全な帰還ですが、現状ではロヒンギャ難民にその望みはありません。ミャンマーでは2021年に民主化の流れが断ち切られて以降、各地で武力衝突が続いて実質的な内戦状態にあり、とりわけロヒンギャの居住地域では住民の殺害や強制的な徴兵など深刻な人権侵害が起きています。昨年来、12万人近い新たな難民がコックスバザールに逃れており、避難して来た男性は「村々が襲われて多くの住民が拷問されたり殺されたりしており、とても帰れる状況ではない」と訴えます。

ただでさえ国際社会の関心が低下し、支援が先細る傾向にあるロヒンギャ難民キャンプは今年3月、トランプ政権による海外援助打ち切りの影響で、国連機関の食料配給が半減される瀬戸際まで追い詰められました。この事態は直前に辛うじて回避されたものの、多くの国連機関職員が解雇されたり、地元NGOへの助成が減ったりして支援活動の縮小は避けられません。八方塞がりの状況に絶望した難民が密航業者の手引きでキャンプを抜け出し、海路でマレーシアやインドネシアを目指すケースは後を絶たず、5月にはミャンマー沖で密航船2隻が沈没して427人が死亡する悲劇が起きています。

小さな「希望の種」をまく支援

そのロヒンギャ難民キャンプで、AARは現地協力団体と連携して難民の障がい者を支援しているほか、女性や若者の社会参加を促す啓発プログラムを実施しています。

内戦状態に陥ったミャンマーで母親と弟を失い、父親らとともに逃れて来たという15歳の少女は、幼い頃からポリオを患って左脚が不自由です。私たちが届けた歩行補助具を試してみて、「これで生活がしやすくなります。提供してくれた皆さんに感謝します」と笑顔を見せ、「将来は結婚して家庭を持ち、自分で洋裁の仕事を始めたいと思います」と夢を語ってくれました。

AARが実施する啓発プログラムの参加者

啓発プログラムに参加して積極的に発言する女性たち

また、AARが建設した活動施設で開かれる女性向けの啓発プログラムには、赤ん坊を抱いた若い母親らが参加し、家庭やコミュニティで自分が果たすべき役割について積極的に自分の意見を述べるようになりました。伝統的・保守的なロヒンギャの社会では、女性が集まって活動したり、考えを主張したりすることは余り好まれませんでしたが、現地協力団体の担当者は「女性や子どもの権利、積極的な社会参加などを地道に伝えてきた結果、女性たちの意識が大きく変化した」と成果を強調します。

*関連する活動レポート女性や若者たちの意識に変化:ロヒンギャ難民支援

縫製訓練センターの様子

ロヒンギャ難民キャンプの縫製センターで作業に取り組む女性たち

難民支援というと、食料や衣類を配ったり、井戸やシェルターを設けたりというイメージを持たれるかも知れません。しかし、モノやサービスを提供するだけではなく、人々が自信と尊厳を取り戻し、将来に向かって自ら立ち上がるための「希望」を届けることこそが、本当の意味での難民支援なのだと私たちは考えます。

日本の善意を世界の難民に届ける

ザンビアの英語教室の参加者

AARが開いた英語教室に参加するザンビアの難民・元難民=ザンビア・メヘバ難民居住地で2024年10月

AAR Japan[難民を助ける会]は現在、ロヒンギャ難民のほかにシリア、アフガニスタン、スーダン、ウクライナの難民・国内避難民、アフリカのウガンダやケニア、ザンビアで暮らす周辺国出身の難民・再定住者への支援活動に取り組んでいます。それは緊急支援から教育やコミュニティ形成支援、地雷被害を防ぐ啓発活動など多岐に及びます。治安の関係で日本人職員が入れない国・地域では、現地職員や地元NGOを通じて支援を届けています。

バウチャー(引換券)を使って食料を受け取るアフガニスタンの国内避難民=アフガニスタン東部ナンガハール県で2024年7月

私たちの支援事業は公的助成金に加えて、多くの個人や起業・団体の皆さまのご寄付に支えられています。大規模な人道危機が相次ぐ中、AARの支援は「大海の一滴」に過ぎないかも知れませんが、その一滴を待つ多くの人々がいるのもまた事実です。引き続き、AARの難民支援活動へのご理解・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

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