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スタッフ日記[国際協力の現場から]

パキスタン:イスラマバードの名物書店 「サイード・ブック・バンク」 ~店主おすすめの本はこれ!~

2021年12月27日

パキスタンの首都イスラマバードには、国内各地から本好きが訪れる名物書店「サイード・ブック・バンク」(Saeed Book Bank、以下サイード書店)があります。歴史、蔵書数、店舗面積、知名度、いずれもパキスタン一と言われる同書店を、駐在員の大泉泰がご案内します。


歴史、蔵書数、店舗面積、知名度、いずれもパキスタン一と言われるサイードブックバンク

ガラス張りの外観が美しいサイード書店は、イスラマバードの商業地F7マーケット内にあります。3階建て約1000坪の大きな店内には、国内外のノンフィクション、フィクションをはじめ、米国や英国の雑誌や専門書、児童書、図鑑や辞典など、約20万冊がぎっしり。同店によると、蔵書のうち90%が英語、8%がパキスタンの国語のウルドゥー語、2%がペルシャ語やアラビア語で書かれた本とのこと。

ガラス張りの窓から光り輝く店の外観

サイード・ブック・バンク入り口。夜間はライトアップされて、外観の美しさが増します

「『ブックバンク(本の銀行)』だから、あらゆるジャンルの本をそろえています。品ぞろえは、南アジア一番ですよ」と、社長のアフマド・サイードさん(50)。店内に並ぶ本は、ロンドン、ニューヨーク、フランクフルト、ニューデリーの各都市で毎年開かれる本の見本市にサイードさん自らが足を運び、選んでくるそうです。パキスタンでは、原書をコピーして製本した「海賊版」も多く出回っていますが、サイード書店の本はすべて米国や英国の版元から直接仕入れる「本物」。

デスクに山積みされた本に囲まれながら忙しそうに電話をするサイード店長

書店1階の事務室で働くサイード社長

店内には、三島由紀夫や川端康成などもあります。「日本出身作家では村上春樹やカズオ・イシグロが人気ですね。私も『海辺のカフカ』を読みました。とても面白くて、3日で読み終えてしまいました」

村上春樹のペーパーバックを手にする大泉

村上春樹の小説も人気。書棚2段分を独占していました

サイード書店は、サイードさんの父親のサイード・ジャンさんが開業しました。ジャンさんは10歳にも満たない子どものころ、パキスタン・シンド地方にあった大地主の私設図書館で書棚係として働かされ、その時に読書の楽しさに目覚めたそうです(本好きのジャンさんのエピソードは、ニューヨークタイムズの記事でも紹介されています)。

アフガン関連の書籍が並ぶ本棚

アフガニスタン関係書籍の品ぞろえも豊富です

その後、ジャンさんは個人の書籍商の下で修業し、1952年にパキスタン北西部のペシャワールでサイード書店を開業しました。1980年代まで、同地は米ソ冷戦下のアフガニスタン紛争の重要拠点として、米国の外交官や援助関係者、軍人などが多く住んでいたため、ジャンさんはこうした客層をターゲットにした選書で事業を拡大したそうです。

仏像などが表紙に入った本が並ぶ

日本人には、ガンダーラ仏教美術などパキスタンの写真集が人気とのこと

1990年代に入ると、イスラム過激派によるテロ活動が活発になり、様々な宗教や思想の本を扱っていたサイード書店も危険にさらされたため、1999年に比較的治安が安定しているイスラマバードに店舗を移転しました。現在の客層は老若男女さまざまですが、イスラマバードには各国の大使館や国際機関が集まっているので、お客さんの約半分を外国人が占めているそうです。

広い店内には、天井まで本がぎっしり

「私のお店には、三世代にわたって来てくれる常連さんが多くいます。お客さんとの個人的なつながりを大切にし、良い本をお勧めするのがモットーです」とサイードさん。そこで、パキスタンに関するおすすめの本を紹介してください、とお願いしたところ、次の二冊を紹介してくれました。

【サイード社長おすすめ本】

1.Insight Guides(2020)Insight Guides PAKISTAN
英国の旅行会社が出版しているガイドブックのパキスタン編。2020年に最新版が出版されました。たくさんの写真とともに、パキスタン各地の見所や歴史が紹介されています。パキスタンの「地球の歩き方」や「Lonely Planet」は長らく出版されていないので、「最近出版された、パキスタンに関する貴重なガイド本」(サイード社長)です。私も持っていますが、ホテルやレストラン情報が少ないのが少し残念。


2.Farzana Shaikh(2009)Making Sense of PAKISTAN

初版は2009年に英国で出版され、2018年に増補版が出ています。サイード社長によると、著者はパキスタン出身の著名な女性国際関係学者で、民族や宗教など、大変複雑な背景を持つパキスタンについて、豊富な資料と知識に基づいて、わかりやすく説明しているそうです。1947年の建国以来のパキスタンの歴史について学びたい人に、入門書として最適とのこと。

さらに、サイード書店の2021年ベストセラーも尋ねてみました。
※邦訳版情報はAmazon.co.jpを参照
※写真をクリックすると拡大します

サイード書店ベストセラー2021:ノンフィクション(政治)部門

順位 書籍名 著者 備考
1 The Silk Roads: A New History of the World Peter Frankopan 邦訳『シルクロード全史』(河出書房新社)
2 Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty Daron Acemoglu、 James A. Robinson 邦訳『国家はなぜ衰退するのか』(ハヤカワノンフィクション文庫)
3 The Nine Lives of Pakistan: Dispatches from a Divided Nation Declan Walsh ガーディアン紙やニューヨークタイムズ紙の記者としてパキスタンを取材し、2013年に「好ましからぬ活動をした」として同国を国外退去処分となったジャーナリストによるルポルタージュ。取材時のエピソードを交えた、面白くてためになるパキスタンの現代史(サイード社長)

サイード書店ベストセラー2021:ノンフィクション(その他)部門

順位 書籍名 著者 備考
1 After the Prophet Lesley Hazleton 優れたイスラムの入門書。スンニー派とシーア派の分岐を中心に、豊富な文献調査を元にわかりやすく記述している。物語形式で書かれているので、イスラムになじみのない人にとっても読みやすい(サイード社長)
2 21 Lessons for the 21st Century Yuval Noah Harari 邦訳『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』 (河出文庫)
3 Upheaval: How Nations Cope with Crisis and Change Jared Diamond “Guns, Germs, and Steel”(邦訳『銃・病原菌・鉄』)の著者・ジャレッド・ダイアモンド氏の作品

サイード書店ベストセラー2021:フィクション部門

順位 書籍名 著者 備考
1 The Island of Missing Trees Elif Shafak 邦訳『レイラの最後の10分38秒』でブッカー賞最終候補となったエリフ・シャファック氏の新作。パキスタンでは同氏の小説が人気(サイード社長)
2 Thirteen Reasons Why Jay Asher 邦訳『13の理由 新装版』(星海社FICTIONS)。2000年代に書かれた少し古い小説。なぜだか理由は不明だが今でもサイード書店でよく売れるロングセラー(サイード社長)
3 Are You Enjoying? Mira Sethi パキスタン新進気鋭の若手女性作家による、現代パキスタンを舞台にした短編。まだ読んだことがないので、どんなストーリーかは不明(サイード社長)

一見、気難しそうですが、話しかけると気さくに応じてくれたサイード社長。本に対する熱烈な愛情が感じられました。皆さんもイスラマバードに来た際にはぜひ同書店のサイード社長に声をかけて、お気に入りの一冊を見つけてください。

大泉とサイード店長(2021年12月)


大泉 泰OIZUMI Yasushiパキスタン事務所

民間企業で勤務後、2017年にAARに入職し、パキスタン・イスラマバード事務所に駐在。趣味は料理とテニス、語学勉強。三重県出身

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