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米国政府によるウクライナへのクラスター弾供与を受けて

2023年7月13日

地雷除去活動を行うヘイロートラスト職員2名とAARの紺野の写真

ウクライナの地雷除去の現場に立つAARの紺野誠二(手前)

米国政府は7月7日、ウクライナ政府へのクラスター弾の供与を発表しました。これに対しイギリスのスナク首相は8日、「イギリスはクラスターの生産や使用を禁止しているクラスター弾に関する条約の締約国であるから、使用を行わない(discourage to use)」と述べ、米国に追随しない意向を示しました。イギリス以外にもスペインやカナダなどのNATO(北大西洋条約機構)の加盟国がクラスター弾の使用に反対の姿勢を示しています。また、地雷の被害で苦しむカンボジアのフン・セン首相はウクライナ政府に対してアメリカ製のクラスター弾を使用しないよう求めています*1

さらに、国際的なクラスター弾連合(Cluster Munition Coalition)は、国際的に禁止されているクラスター弾のウクライナへの移譲を直ちに停止するよう求めるとともに、米国、ロシア、ウクライナに対し、民間人の保護と国際人道法の尊重を保証するため、クラスター爆弾禁止条約にできるだけ早く加盟するよう強く要請する声明を発表しました。

今回はこの問題に関してさまざまな視点から考えてみます。私は2000年に現在のコソボ共和国でクラスター弾の除去活動に従事しました。除去の現場で体験したこと、見聞きしたことも含めて解説します。

クラスター弾に関する条約*2

クラスター弾に関する条約(通称:オスロ条約)は2008年12月3日にノルウェーのオスロで署名式が行われ、2010年8月1日に発効しました。2023年6月30日の時点で110か国が締約国となっており、13か国が条約に署名はしているものの、批准の手続が完了していません。

「この条約はクラスター弾の使用、生産、保有、移譲等の禁止及びその廃棄等を義務付けるとともに、国際的な協力の枠組みの構築等について規定するものである。」*3とされています。つまり、被害の軽減だけが目的ではなく、使わない、作らない、持たない、渡さないなど、被害をなくすことを目的としていると同時に、被害にあった人への支援を含む国際的な支援の実行も目的となっています。

米国、ロシア、ウクライナをはじめとする74カ国は締約国ではありません。他方、110の締約国の中にはイギリスやオランダのように過去にクラスター弾を使用した国、ラオスやレバノンのように被害に苦しむ国が含まれます。そして、日本も締約国です。

民間人へのリスク

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻では、ロシア軍、ウクライナ軍の双方がクラスター弾を使用しています。ウクライナの24州のうち10の州で使用が確認されており、既に民間人の死傷者も出ています*4。クラスター弾には、子弾(Sub munition)と呼ばれる小さな弾薬が一つのコンテナの中に複数入っています。投下されると、空中でコンテナが開き、子弾がパラパラと散らばって爆発します。

「面で制圧する」という表現が使われることがありますが、これは、言い換えれば「特定の軍事目標に必ずしも当たるわけではない」ことを意味します。軍事目標の近くに民間人の住居や利用する施設があれば、その被害は避けられません。

米国政府高官は記者会見で、「ウクライナ政府は、民間人へのリスクを最小限に抑えるため、非常に慎重な方法でこれらを使用することを文書で約束している」と述べています*5が、既にウクライナ政府によるクラスター弾の使用でウクライナ国民に被害が及んでおり、民間人へのリスクは高まると言えます。

なお、米国政府がウクライナに移譲するクラスター弾の数ですが、米国国防省は”hundreds of thousands of munitions(数十万発)”と回答しており*6、正確な数は不明です。

クラスター爆弾についての説明図

もちろん、クラスター弾は除去活動に従事する者にとっても大きなリスクです。昨年、ある報道で、ウクライナ政府の除去要員がクラスター弾を手に持っている写真を見て非常に驚いたことがあります。クラスター弾の子弾は発射されると、いつ爆発するかわかりません。少し動かしただけで爆発する可能性も十分に考えられます。専門の機材があるとか相当高度なレベルの専門家でない限りは、その場での爆破処理(Destroy in Situ)が人道的地雷除去の標準的なやり方とされています*7。私が現場で受けた爆破処理の研修の際にも、子弾を拾い集めていた子どもが爆発させてしまい命を落とした、という悲しい話を聞かされました。

クラスター弾の不発弾率

米国国防省は、供与するクラスター弾は不発弾率2.35%*8未満のものに限る、ロシア軍が使用しているクラスター弾の不発弾率は30-40%のものと比較してほしい*9、としています。実際のところ、クラスター弾の不発弾率は、どれくらいなのでしょうか。

まず、明らかにしておくべきは、“ロシアが使用するクラスター弾に比べて不発弾率が低いから使用して良い”という論理は成り立たない、ということです。そして、米国政府の提示する2.35%未満ですが、この数字の根拠は1998年から2020年までに5回にわたって行われた研究によるものと国防省は回答していますが、その根拠は示されていません。本当に2.35%未満なのかを検証することはできないのが実情です。

イギリスの国際的な地雷除去NGOであるMines Advisory Groupは、2006年にイスラエル軍によってレバノンに使用されたクラスター弾の除去に従事しています。同団体は、レバノンに400万個のクラスター弾が使用されたがその40%は不発弾になっていると推測しています*10。他方、70%以上が不発弾として残されている、との報道もなされています*11。実際の不発弾率は、クラスター弾の種類や使用状況、着弾地の環境や気候などに左右されると考えられます。例えばコンクリートのような硬い建物に当たれば爆発するでしょうが、畑のような柔らかい地面であれば爆発しないで残ることは十分に考えられます。

そもそも、これだけ軍事技術開発が進み、より命中精度の高い兵器が当然となっている今、民間人への被害が大きく及ぶクラスター弾のような古い兵器を使う軍事的な合理性は失われている、という見解も示されています*12

過去の紛争でも、そして現在のウクライナでも、クラスター弾で傷ついている民間人が大勢います。その悲惨な事態が少しでも減るように、働きかけを強めていく必要があります。



*1  “Cambodian PM Hun Sen urges Ukraine not to use US cluster bombs”
https://www.channelnewsasia.com/world/ukraine-us-cluster-bombs-hun-sen-cambodia-russia-3616591

*2  クラスター弾に関する条約(日本語訳)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/shomei_37.pdf

*3  外務省、クラスター弾に関する条約の説明書
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/shomei_37_se.pdf

*4  Human Rights Watch, “Ukraine: Civilian Deaths from Cluster Munitions”
https://www.hrw.org/news/2023/07/06/ukraine-civilian-deaths-cluster-munitions

*5  THE WHITE HOUSE, Press Briefing by Press Secretary Karine Jean-Pierre and National Security Advisor Jake Sullivan, JULY 07, 2023,   https://www.whitehouse.gov/briefing-room/press-briefings/2023/07/07/press-briefing-by-press-secretary-karine-jean-pierre-and-national-security-advisor-jake-sullivan-5/

*6  U.S. Department of Defense, TRANSCRIPT, Under Secretary of Defense for Policy Dr. Colin Kahl Holds Press Briefing, July 7, 2023
https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript/Article/3452000/under-secretary-of-defense-for-policy-dr-colin-kahl-holds-press-briefing/

*7   International Mine Action Standards, “Technical Note for Mine Action 09.30/06 Clearance of cluster munitions based on experience in Lebanon” https://www.mineactionstandards.org/standards/09-30-06/#9._Disposal_of_sub-_munitions

*8  ホワイトハウスの声明では2.5%となっており、国防省の2.35%ではなく、ホワイトハウスの数字を引用している報道もある。

*9  U.S. Department of Defense, TRANSCRIPT, Under Secretary of Defense for Policy Dr. Colin Kahl Holds Press Briefing, July 7, 2023  https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript/Article/3452000/under-secretary-of-defense-for-policy-dr-colin-kahl-holds-press-briefing/

*10  Mines Advisory Group, Lebanon Country Page, https://www.magamerica.org/what-we-do/where-we-work/lebanon/

*11  4 Scott Peterson, “Cluster Bombs: A War’s Perilous Aftermath,” Christian Science Monitor, February 7, 2007
https://www.csmonitor.com/2007/0207/p01s01-wome.html

*12  Andrew Feickert & Paul K. Kerr, “Cluster Munitions: Background and Issues for Congress Updated March 9, 2022”, Congressional Research Service  RS22907, Page 8
https://sgp.fas.org/crs/weapons/RS22907.pdf

紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局

AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は東京事務局で地雷問題やアフガニスタン事業を担当。

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