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地雷対策への拠出額が急増:ランドマイン・モニター報告2023

2024年3月5日

キーウ近郊ザリーシャ村で地雷を起爆させるトリップワイヤーを探す作業中のヘイロートラスト除去要員の写真

地雷を起爆させるトリップワイヤーを探すヘイローの除去要員=ウクライナ・キーウ近郊ザリーシャ村で2023年4月(紺野誠二撮影)

地雷禁止国際キャンペーン(International Campaign to Ban Landmines)によるランドマイン・モニター報告2023が2023年11月に発表されました。2022年1年間の世界各国の地雷問題や地雷対策の現状が報告されており、今回で25回目の報告書となります。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を抜きにして、2022年の世界の地雷問題を振り返ることはできません。2022年の世界全体の地雷対策への拠出額は9億1,350万米ドルとなっており、これは2021年から3億1,450万米ドルも増えていることになります。ドナーごとに見ると、米国が3億1,020万米ドル(2021年には1億9,450万米ドル)、EUが1億2,420万米ドル(2021年には3,780万米ドル)となっており、この2つのドナーだけで2億ドル以上拠出額が増えています。

国際的な支援を受けた国のトップはもちろんウクライナです。1カ国で1億6,230万米ドルの支援を受けており、これは第2位のイラクの8,960万ドルを大きく引き離しています。

世界で対人地雷を使用した政府は、ミャンマー、ロシア、ウクライナの3カ国。報告書では、ウクライナにおける対人地雷の使用状況について、地雷の種類も含めて詳細に記載されています。ロシア軍だけでなく、ウクライナ軍による使用についても報告されています。ロシア軍による使用ももちろん憂慮すべきですが、対人地雷禁止条約の締約国であるウクライナによる対人地雷の使用は、明らかな条約違反です。

死傷者数でも2022年で一番多いのはウクライナだと思われがちですが、実はシリアです。500人以上の死傷者数を記録したのは4カ国で、シリアが834人、次いでウクライナの608人、イエメンが582人、ミャンマーが545人となっています。ただ、このランキングには落とし穴があります。アフガニスタンです。

屋外で地雷回避教育教材を読む子どもの写真

地雷回避教育の教材に興味を示すアフガニスタンの子どもたち=2023年4月

ランドマイン・モニター報告2023によれば、2022年のアフガニスタンの死傷者数は303人となっています。前年の報告では1,074人となっているので、1年間で770人以上も減った、となるのですが、残念ながら実態は違います。

アフガニスタンでは2021年にタリバンが暫定政権を樹立しました。これにより、国際社会からの支援も停止もしくは大幅に減額されました。この影響が地雷対策のデータ処理にも及んでおり、アフガニスタンの地雷対策局で地雷関連のデータを扱う部署が十分に機能しなくなってしまい、被害者のデータを扱うまでのキャパシティが大幅に低下しました。

それでは実際の被害者数は何人なのか? アフガニスタンで長年地雷対策に取り組んでおり、AARのパートナー団体でもあるTHE HALO TRUSTは、少なくとも864人(死亡411人、負傷453人)と報告しています。2022年には戦闘が収まっていましたので被害は減っていますが、依然として大きな課題であることには変わりありません。

AARは地雷除去や回避教育、被害者のサポートなどの「地雷対策」を重要な活動のひとつに掲げています。地雷・爆発物による被害を少しでも減らす取り組みを今後も続けてまいります。

紺野 誠二KONNO Seiji東京事務局

AARから英国の地雷除去NGO「ヘイロー・トラスト」に出向し、コソボで8カ月間、地雷・不発弾除去作業に従事。現在は地雷問題やパキスタン事業を担当。

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