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ウクライナで急増する障がい者:長引く軍事侵攻の影響

2023年10月3日

ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、障がい者の急増が深刻な問題になっています。2022年2月の侵攻開始前、同国では約270万人が障がい者として登録していましたが、世界銀行は、その後2022年の1年足らずで少なくとも13万人増加したと見積もっています 。*1 これは障がい者数が5%増加したことになります。

人道危機の長期化は、一般市民の死傷者や障がい者の数が増加することを意味します。今年9月に訪問した同国西部チェルニウツィ州の拠点病院では、ロシア軍の攻撃で負傷し、障がい者になった多くの一般市民が入院していました。身体障がいだけでなく、繰り返されるミサイル攻撃や過酷な戦闘経験で精神に異常をきたす人も少なくないと見られます。

病院のバリアフリー化が急務

戦時下で政府・行政による障がい者対策が滞る中、NGOによる障がい者支援は重要な役割を果たしています。AAR Japan[難民を助ける会]はウクライナ国内の知的障がい者の親の会2団体、車いす利用者の1団体を支援しており、このうちチェルニウツィ州の障がい者当事者団体リーダー(Leader)との協働で、州内にある2つの病院でバリアフリーの病室を計3部屋整備しました。病室にはバリアフリーのバスルームが備えられ、車いす利用者でも安心して入院治療が受けられるようになりました。また、付添人用にソファーベッドも設置されています。

洗面台やトイレ、カーテンなどがある

病院の居室内にあるバリアフリーのバスルーム=ウクライナ西部チェルニウツィ州

チェルニウツィ州政府は当会の支援事業で整備したバリアフリーの病室をモデルとして、州内のすべての病院に同様の病室を1~3部屋整備する計画を進めています。今後もウクライナ国内で障がい者が増えることは必至であり、病室の整備は必須かつ急務となっています。

高齢者・障がい者施設をサポート

AARはチェルニウツィ州にある高齢者施設の入口に屋根付きのスロープを設置しました。この施設には多くの車いす利用者が暮らしていますが、これまでは傾斜がきつくデコボコのスロープしかなく、今回の改修で誰もが安全に行き来できるようになりました。この様子はリーダーのFacebookで紹介され、全国各地の障がい者施設などから問い合わせが相次いでいるそうです。

建物の入り口にあるスロープ

チェルニウツィ州の高齢者施設に設置した屋根付きスロープ

電化製品や家具を障がい者が暮らす施設に供与

また、当会はリーダーを通じて業務用調理釜、肉挽き器、ジャガイモの皮むき機、大型冷蔵庫・冷凍庫、パン焼き機、リネン乾燥機、ヒーター、テーブル、椅子などの電化製品や家具を障がい者および高齢者施設に届けました。これらの施設はもともと多数の入居者が暮らしていたうえに、侵攻が始まって以降は州外からの国内避難民を受け入れ、職員は大きな負担を強いられていました。新たな資機材の提供によって、職員の負担が軽減され、障がい者や高齢者がより快適な環境で生活できるようになっています。

円柱のような形をした乾燥機で上にはふたがついている

障がい者施設に設置された業務用リネン乾燥機

州政府から日本の支援に感謝の言葉

チェルニウツィ州政府のアリョーナ・アタマニュク第一副知事は「AARとリーダーの協働事業が日本の企業・団体だけでなく、多くの市民の方々からのご寄付で成り立っていることは、ウクライナにとって非常に大きな意味がある」として、日本からの支援に感謝の言葉がありました。軍事侵攻が終息する兆しも見えない今、障がい者支援は今後ますます重要になることは間違いありません。

6人が並んでいる。ウクライナの国旗がある

後列左から2人目がアリョーナ・アタマニュク第一副知事。中央はAAR東。前列はリーダーのヴァレンティーナ・ドブリディナ代表


*1 HelpAge, Rebuilding a society for all ages in Ukraine A call for age inclusive reform and recovery, June 2023, p1,4

東マリ子HIGASHI Marikoキシナウ事務所(モルドバ)

大学でロシア語を専攻。商社や在ロシア日本大使館勤務の後、2021年にAAR入職。旧ソ連タジキスタン駐在を経て、2023年1月からモルドバ駐在員としてウクライナ事業を担当。

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